第39話 地底湖

「洞窟探検がしたいのかい? フフフ、男の子は探検が好きだねぇ。谷底に入り口があるから、案内してあげる」


 そうラウラが教えてくれた。


 なんか俺のアホの子扱いが続いてないか?

 そりゃまあ、成人エルフから見たら人間は全員子供なんだろうが。


「でもソーマ、石切りはまた今度でいいのかい?」


「いや、それは今すぐ済ませる」


 俺の答えにラウラは頭の上にハテナマークを浮かべている。

 まあ普通に考えたら石を切り出すなんて丸一日仕事か、それ以上の時間が掛かると思うよね。


 でも時間をかけるつもりはない。

 俺は『収納』から樽に半分黒色火薬を満たしたハーフ爆雷くんを取り出して、岩肌の切り出し跡にはめ込む。


「大魔法を使うぞ。地面に伏せて、耳を塞いで口を開け」


「だ、大魔法…!?」


「ラウラちゃん。こっち、こっち!」


 ミンがラウラの手を引いてバルカの楯の陰に誘導する。

 てか、ラウラちゃん?

 いつの間に仲良くなってるんだお前らは。


 ハーフ爆雷くんから油の染み込んだロープを伸ばし、自分も楯の陰に入ってロープに火をかける。

 シュルシュルと火が伸びてハーフ爆雷くんに達した瞬間。


 轟雷音。


 オレンジ色の光が閃くと、ガラガラと音を立てて石灰岩が崩れ落ちた。


 数十トン分はあるかな? 十分だろう。

 俺は崩落がおさまるのを待ってから石灰岩に歩み寄り、10mほど距離をとったまま『収納』に岩塊を次々に納めていく。


 ちょっと多すぎるかと思ったが、問題なく『収納』に納めることができた。


 あ、そうそう。

 レベルアップに伴って『遠隔収納』の距離も伸びているんだ。


 超久しぶりの『ステータス』。


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名前:平良 壮馬

種族:ヒューマン

年齢:29

レベル:55

スキル:

言語理解

└虚偽看破

鑑定

└分析

└探査

収納

└遠隔収納

└分離

銃召喚

└銃整備

└銃専心

隷属魔法

└人格封印

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 …いやね、前回見せたときからずいぶんレベルが上がってるんだけどさ。

 ガトリングガンで軍勢を薙ぎ払ったあたりで、いっぺんにレベルアップしたんだよね。


 人殺しレベルアップシステムと密集軍勢へのガトリングガン斉射が合わさると超効率のレベリングになる、とかいう誰得情報である。


 レベルアップによる身体能力向上はだんだんと鈍化していたのだが、これだけいっぺんに上がるとさすがに効果を感じる。

 たぶん、いまなら素手でリンゴを握りつぶせるんじゃないかな?

 もったいないからやらないけど。


 派生スキルも色々あるのだが、まずは『分離』を紹介しておこう。

 従来の『収納』は化学的に結合している物質はもちろんのこと、物理的にある程度強くかみ合っている物体同士も切り離すことができなかった。


 しかし『分離』を習得してからは薬莢にはめ込まれている弾頭を、『収納』内で取り外してから取り出すこともできるようになった。

 これのおかげで、弾頭を一つ一つペンチで引っこ抜く作業が省けて助かったよ。


 『探査』については、使い方は感覚で分かるのだがまだちゃんと使用したことがない。

 感覚によると、自分が手に持ったサンプル物質と同じ種類の物質を探すことができるという、一見すると素晴らしい当たりスキルなんだが…。


 しかし探査範囲が数十m程度のうえ指向性なので、いまいち使い勝手が悪そうだ。

 周囲を広範囲探索とかしてくれるなら超有能なのだが、指向性なので自分である程度あたりをつけて使わないといけないんだよね。


 まあ、派生スキル紹介はこのくらいにしておこう(最後のやべーヤツから目を背けながら)

 

「なるほど、大魔法だね…。威力も信じがたいけど、音も脅威だよ」


 見るとラウラはじめエルフの戦士たちは皆フラフラになっている。

 耳が良い分だけ爆発音のダメージがデカかったのかな?

 ちょっと悪いことをした。




 ラウラに導かれながら崖を降ると、やがて深い谷底に到着した。

 見渡すとあちこちに大小無数の穴が開いていて、中には洞窟トカゲでも楽に出入りできそうな巨大な洞窟も開いている。


「ラウラ、ヤツ以外に洞窟トカゲはいないんだな?」


「ああ、洞窟トカゲは、縄張り意識が強い魔物だからね。ここ数十年は、この谷全体がヤツの縄張りだったんだ」


 そういうことなら、当面は大丈夫かな?

 いずれ別の個体が住み着くかもしれんが、そうなったらまた討伐すればいいだろう。


 俺は『収納』から火種を取り出すと、エルフの戦士たちが持つ松明に火を着けていく。

 先頭をラウラとエルフたちが進み、俺たちはひと固まりとなってその後に続いて洞窟に足を踏み入れた。


 洞窟内は下り坂になっていて、地表にあった大小の入り口は全て巨大な内部空間で一つになっているようだ。

 周囲の壁面は俺の予想通り、びっしりと青カビで覆われている。


 決まりだな。

 ドスタル領の谷にあった洞窟に劣らぬ、いやそれ以上の量のミクリング族の秘薬の原料が得られそうだ。


 とはいえ、俺はペニシリウムからペニシリンを抽出する技術を知らない。

 なんとかミクリング族の協力を得られないだろうか?

 ヨーナスに連絡して、パベルとその家族だけでも勧誘できないか接触してもらうか。


「ご主人様、水がいっぱい!」


「地底湖か、これは?」


 目の前には、洋々たる水量の湖が現れた。

 地上は谷の地形だったのに川が無くて不思議だと思っていたが、川が枯れたのではなく伏水になって地底湖を形成していたわけか。


「この湖は、どのくらいの大きさがあるんだ?」


「さあ、そこまでは。それを知るには、舟でも持ち込まないといけないね」


 ラウラでもこの地底湖の大きさは知らないらしい。

 松明の光が届く範囲では向こう岸が見えず、下手するとキロ単位の直径があるかも知れない。


「さあ、気が済んだだろう。男の子の冒険心もいいけど、ソーマは王なんだ。いつまでも国を空けて遊んでちゃダメだぞ」


 いや、だからそのアホの子扱いはなんなの?

 たしかに青カビ資源は無事発見できたからいんだけどさ、諭されて冒険遊びを切り上げたみたいに思われてもモヤモヤするんだが。


 まあ地底湖を探索したところで、なんらかの有用資源を発見できる可能性は低いと思われる。

 強いて言えば観光資源なのだが、観光産業が成立するのは遠い未来のことだろうしな。





 俺たちが洞窟から出てくると、地上にはエルフの戦士たちが数人待っていた。


「族長、ヴェルド族の戦士が出没しております」


 これまた筋骨たくましい戦士が一人進み出て、ラウラに報告している。

 ヴェルド族と言うのはきっと別のエルフ氏族なのだろう。


「ヴェルド族は先の闘争で懲りなかったようだね。フフフ、いいさ。コッチェン族の力を見せてやろうじゃないか」


 ラウラは報告を受けて好戦的な笑みを浮かべている。

 こりゃ、エルフvsエルフの氏族バトルが勃発しそうだな。


「ソーマ。エルフの戦いは、森とエルフの祖霊に捧げる名誉の戦いなんだ。余計な手出しをすれば、ただじゃおかないよ」


「わかっている。俺たちはこれで退散させてもらおう」


 うーん、これが対エルフ政策の難しい所だな。

 コッチェン族が友好的な氏族だからといって、これと共闘して氏族間の戦いに介入することは断固拒否されてしまう。


 反対にこちらと敵対的な氏族があるからと言って、その氏族を撃ち滅ぼそうとするとエルフたちが大同団結して抵抗するらしい。

 これはランダーバーグ王国が過去に痛い目にあっているそうだ。


 しかもエルフたちによる対人間の王国戦法の内容が恐ろしい。

 なんとエルフたちがこぞって植物魔法を使うことで、作物の伝染病を大流行させるという恐るべきテロリズムを敢行するのだ。


 そんなことをされては、新生ディアーダ王国の立ち上がりに重篤なダメージを負ってしまう。

 さすがにこれはご免こうむりたい。


 そうなると東部方面の安定化は、時間はかかるが交易を通じて大部分のエルフ氏族と互恵関係を築くことで進めるしかあるまい。

 もちろん、襲ってくる分には容赦しないがね。



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