第8話 駅馬車
オットーの村を出てから5日、俺たちを乗せた馬車は春の平原をゆっくりと北へ進んでいた。
御者台に座った俺は腰のホルスターにSAAを差し、傍らにM73を立てかけて曳き馬の手綱をとっている。
こうしていると、まるで西部フロンティアを征く駅馬車のようだ。
もしかして次なる駅では、復讐のために脱獄したジョン・ウェインが馬車に乗り込んでくるのではないか? などと錯覚させられる。
…いや、別に俺だってノリノリで西部劇ロールプレイしてるわけじゃないんだよ?
どういうわけか成り行きでこの構成になっているだけで、俺はG17とM4カービンを願ったんだよなぁ。
まあ現状でも自衛能力としては十分過ぎるくらいなので、文句は言わんけどさ。
俺たちはゾンネ領の中心部は避けて、領の外縁部を大回りする形で脱出しようとしている。
領都はそれなりに大きな街らしいのだが、領主が雇った傭兵をたくさん撃ち殺した関係でトラブルが予想されるので近寄りたくないのである。
あんなクソ統治をしている領主が悪いんだけどな!
あくまで俺は降りかかる火の粉を払って、ついでにちょっと黒色火薬くんを火種に投入しただけだもんね。
責任の重さで言えば、クソ領主 > 黒色火薬くん > 俺、の順である。
「ご主人様、村が見えたよ! 12時の方向」
馬車の屋根に登って周囲を警戒しているミンが、俺が教えた通りに時計式の方位で報告してくる。
俺たちの馬車は外見は幌馬車だが、中身は堅牢な檻車で天井は板張りだ。
なんとか物置よろしく上に乗っても大丈夫なのである。
「よし、あの村に寄って戦利品をさばくか」
「いっぱい寝藁もらって、馬車をフカフカにしようね!」
ミンはすっかり寝藁キャンピングカーを気に入ったようだな。
よーし、馬車を埋め尽くすくらい寝藁を集めてやるか。
ちなみに戦利品というのは、道中でときおり襲ってくる3~5人程度の野盗というか、傭兵崩れの小集団から得た武器だ。
こいつらは見通しのよい平野で無策に襲ってくるので、M73の射程内にひきつけてから残さず射殺することでたくさん手に入る。
これらの戦利品を、立ち寄る村々で物資と交換するわけだ。
いや、分かってるよ。荒事に順応しすぎだよね、俺。
オットーの村では大して狙いもつけずに撃ってたから、M73の照準器を調整するのに丁度いいや、とか思っちゃってるのは環境に毒されてるよね。
…いずれ平穏な土地に着いたら、まずはこの狂った感覚をリハビリしていこう。
「そうか、ここはゾンネ領の端なのか」
「へぇ、ここより北に行きやすと、ニュンケ領に入りやす」
村男と戦利品の交渉をしながら情報を集めていると、いよいよゾンネ領が終わることが分かった。
やはり平野を行くと距離が稼げるな、山越えなんてもう二度としないぞ(再掲)
「ニュンケ領というのはどんなところなんだ、領主はまともなのか?」
「ニュンケ領は天領でやす。だもんで領主は王様でやすな」
「ほう、天領」
つまり王国の直轄領というわけか。
いいんじゃないか?
これまでロクでもない領主がムチャクチャしてる領ばかりだったが、王国の直轄領ならば統治もまともそうだ。
直轄領と言っても、そこに首都があるわけではなく飛び地のようだが。
ちなみに物々交換ではミンの希望の寝藁の他に、水、食料、飼葉、薪が入手できたが、戦利品が多すぎて全部はさばき切れない。
小さな集落では交換可能な余剰物資がさほど多くないのだ。
おかげで『収納』に武器類が溜まっていってしまうが、容量の限界は感じたことがないのでまあいいだろう。
武器の戦利品以外にも、銅貨は毎度手に入るのでずいぶん増えてきたが使う機会が全くない。
さらに魔法触媒探しという嘘設定のせいで、変な植物やら鉱物やらがどんどん集まってしまう。
まあこれはこれで、俺のスキルの練習に使えるからいいんだけどね。
そう、スキルがまた派生したのである。
久しぶりの『ステータス』。
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名前:平良 壮馬
種族:ヒューマン
年齢:29
レベル:16
スキル:
言語理解
鑑定
└分析
収納
銃召喚
└銃整備
隷属魔法
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まず、安定の人殺しでレベルアップ(受容)
レベルアップによる身体能力の向上を感じてはいるが、異世界に来たばかりのころの爆上げ感は無くなってきた。
例えて言うなら、素人が筋トレを始めるとすぐに筋力が高まるが、ある程度トレーニングを積むと成長がゆっくりになるようなものか。
いや、仕組みは知らんけどね。
次に『鑑定』から『分析』が派生した。
異世界3点セットは完成されたものだと勝手に思い込んでいたので、これはちょっと驚いたね。
こりゃ、他のも派生するのかも知れん。
ちなみに『分析』というのは、鑑定した物体の構成が分かるという能力である。
どういうことかというと、たとえばそこら辺の砂を『鑑定』すると従来は
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砂
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のように、知っとるわそんなもん!
というイマイチ役に立たない感じだったのだが、派生した『分析』を使用すると
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砂:長石、石英、岩石片
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のように、物体を構成する要素が分かるようになったのだ。
…いや、だからどうしたという話なんだけども。
いいんだよ! 『銃召喚』ばかり活躍している現状が異常なのであって、きっとスローライフではこういうのが大事だったりするんだよ!
例えば…ほら、今は思いつかないけどきっと何かあるだろ!
おお…、ここが真のハートフルスローライフの地、ニュンケ領か(再挑戦)
その後、俺たちの馬車は順調にニュンケ領に入った。
これといって風景に変化があるわけではないが、俺の期待感はいやがうえでも高まってしまう。
まだニュンケ領に入ってから半日でしかないが、ここまで一度も野盗が現れていないのもGood。
やっぱり直轄領だけあって治安に期待できるんじゃないか?
細かく言えば生活面とか文化面とか色々と注文はあるけど、まずは治安が良くないと始まらないからな。
「今日は獲物いないね、ご主人様」
「これが普通なんだぞ」
野盗退治をスポーツハンティングかなにかと一緒にするんじゃない。
こりゃ、いっぺん腰を据えてミンの情操教育をやらないとだな。
しかし考えてみると、決して教育が発展しているように見えない世界ではあるが、ミンはさらに輪をかけて悲惨な生育状況だったわけで。
保護者となった以上は俺が教育にも気を配らないとな、具体的には命の大切さについてとか。
うんまあ、黒色火薬くんが否応なく暴れることがあるから、可能な限りということで。
…あれ、これ俺が教育に悪いのか?
などと自問自答していると、馬車の屋根に登っているミンが立ち上がる気配がした。
「ご主人様!10時の方向、村だよ!」
「お、了解! よーし、ニュンケ領最初の村、行ってみるか!」
難しい課題は後回しにしよう。
戦利品の在庫はまだあるから、村で交換ついでに情報を集めてみよう。
「え、魔法使い様!? それじゃあ、あなた様はレーム家のユルゲン様だべか…?」
「ユルゲン? いいや、俺はソーマだ。」
「レーム家のお方ではねえだか?」
「ああ、俺たちはニュンケ領に来たばかりでよく事情を知らんが、そのレーム家というのとは関係ない」
俺の受け答えを聞いて、村人はホッと安堵した表情をしている。
そしてそのレーム家やらユルゲンやら言うのが何者なのかと問うと、あからさまに答えづらそうにして言を左右にする。
はい、不穏です。
俺の厄介ごとセンサーが警告を発しています。
とはいえ急に商人の殺害現場に出くわしたとか、村が襲われてる現場に出くわしたとか、そういう不穏を通り越した事態は起きていない。
これまでの領と比べるとまだ許容範囲ではあるか。
ちょっと気になることがあるだけで領単位で投げ捨てていたら、何年旅をすることになるか分からんしな。
「まあいいか、ところで食料や物資の取引をしたいのだが、どうだ?」
「いやぁ、オラとこの村は取引するようなものは何もねぇもんで、水なら汲んでもらってええだども」
たしかに、見渡してみると村には活気がないし、目の前の男もずいぶん血色が悪い。
うーん、やっぱり不穏なんだよなぁ。
でも王国の直轄領…、期待値でいうとこれまででNo.1だしなぁ。
黒色火薬くんの出番がないことに期待するが、M73の照準調整はもっと丁寧にやっておこう。
一応、念のためにね?
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