第30話 教会の神兵

「神霊の奇跡を見るがよい! 出でよ、神兵!」


 なんかローブの男が一人で盛り上がってるな。

 お、なんだ?

 ローブの男の足元の地面が盛り上がって来たぞ、こりゃ魔法か?


 みるみる間に、全長5mほどの土くれ人形が出来上がった。

 でかいな。巨大ヒルジャイアントよりさらに大きくて、ずんぐりむっくりしている。

 脚なんか1mくらいの太さだな。


「アレクシス。あれは魔法か?」


「あのような魔法は、聞いたことがございませぬ」


 アレクシスにも分からんのか。

 しかし、あの大きさは単純に脅威だぞ。

 動きは鈍重そうだが、数トンはありそうな土くれが倒れ込んでくるだけで必殺の攻撃になるだろう。


 うーん、撃退しようにも土くれ人形に銃弾が効くだろうか?

 俺はSF1873を構えて狙撃ポイントを探すが、生物とは違って土くれ人形に急所なんて見当たらんぞ。


「さあ、神威にひれ伏すがよい! 貴様のちっぽけな魔法など、神霊の叡智に敵うべくもないのだ!」


 ん?なんか喚いてるローブの男が、右手に金色のトロフィー的な物を掲げてるな。

 そして目を閉じて念じている様子になると、土くれ人形が動き始めた。


 …これ撃っていいのかな?(困惑)


 いかにも「私が操作しています」て感じだけど、そんな弱点丸出しなことある?

 まあ、ともかく撃ってから考えるか。

 

 轟音。


「ひぎぃあ!?」


 ローブの男の掲げられた右腕は45口径弾に貫かれ、半ばちぎれたようになっている。

 男の手からトロフィーが転げ落ちると、動き始めていた土くれ人形の動きが停止する。


 特にひねりも無く、そのまんまアイツが操作してたのね。

 土くれ人形からボロボロと土砂が落ち始めたぞ、こりゃ崩れるかな?

 それはそれで危ねえな。


 敵陣の中央で急に土砂崩れが発生したもんだから、敵軍は混乱状態だ。

 あのローブの男は何しに来たんだよ。


「陛下、お一人で先行されては、危のうございます!」


 息を切らしながらユリアンとシュタイア人部隊が追い付いてきた。

 いい所に来たぞ。


「ユリアン、奴隷兵は俺が解放する。殺さないように全員に伝えろ」


「は、ははっ!」


 俺は馬車を飛び降り、ミン、バルカと共に混乱する敵陣に突入する。

 慌ててシュタイア人部隊も追随して混戦に突入した。


「ご主君!」


「よし、いいぞ!」


 バルカが奴隷兵を片っ端から地面に転がし、俺が素早く奴隷環を上書きしていく。

 シュタイア人部隊も混戦に割り込んできて、俺たちに邪魔が入らないように周囲を固めている。


「解放されてるよー! 首締まらないよー!」


 俺が上書きした奴隷兵にミンが声をかけて回る。

 奴隷兵たちは半信半疑ながらも首が絞まらないことを確かめて、呆然としている者やら感激している者やらと様々だ。


「抵抗するな!奴隷兵は陛下が解放してくださるぞ!」


 ユリアンも要領を得て、周囲に呼び掛けている。


「ほんとだべ! 首締まんねえだぞ!」


「みんな、はよこっち来るべ! 解放してもらえるべな!」


 隷属環から解放されたことを理解した者たちが、周囲に投降を呼び掛け始めて一気に形勢が傾いた。

 敵軍の約半数を占める奴隷兵が非戦力化したどころか、積極的に襲い掛かって来るようにまでなってメルテンス領兵も混乱の極致に達している。


「ハァ、ハァ…。まさか、隷属環の支配をも、打ち破ってしまわれるとは…!」


 またアレクシスが顔を赤くして荒い息遣いをしてるな。

 だから体調不良なら無理しなくていいと言ってるのに。

 でも、こいつの魔法は有能だ。


「ハァ…まろびの泥土よ、ハァ、ハァ…彼の者らを扼せ…フゥ」


 アレクシスの魔法で敵軍の足元の地面が膝の深さの泥沼に変化し、奴隷兵もメルテンス領兵も区別なく次々と拘束している。

 体調不良を押して戦ってくれるのは心配だが、非殺傷攻撃としては一番役に立つな。


「ひ、退け! みな、退けぇ!」


「逃がすか、ボケぇ!」


 お、撤退しようとしたメルテンス兵の指揮官に、トビアスを中心に騎士たちが突っ込んだぞ。

 撤退のタイミングをドンピシャで捉えるあたり、あいつの戦術勘は本物だな。


「ぎゅぶ!」


 トビアスの繰り出した槍がメルテンス兵の指揮官の喉元を捉え、馬上から叩き落した。

 決まったな。


「おらぁ!てめぇらの親玉、シメたぞぉ!」


 トビアスに指揮官を討ち取られたメルテンス兵は、逃げ出す者と武器を捨てて降伏するものに分かれた。


 戦闘は決着しつつあるが、俺はまだ忙しい。

 ローブの男が嬲り殺されないようにシュタイア人部隊に見張らせながら、奴隷兵たちの隷属環を上書きして回るのだ。





 わちゃわちゃの混戦が終わってみると、死者は少数なのだが負傷者が結構出てしまった。

 まあ、ほとんどは土砂崩れに巻き込まれた結果なのだが。


「おのれ、邪法使いめ! 神霊の罰を恐れ…あぐっ!」


 俺はローブの男の右耳をSAAで吹き飛ばして黙らせる。

 こいつらの世迷言は長くて付き合ってられんからな。


「次は顔の真ん中を吹き飛ばすぞ、心して質問に答えろ」


 ローブの男は顔色を青くしてコクコクと頷いた。

 素直になったな。やはりこの手に限る。

 

「あの土くれ人形はなんだ?」


「く、傀儡の神器に魔力を、な、流すと、土から神兵を作り出せる…」


 また神器か、嫌な予感がするぞ。

 ミンが拾ってきたトロフィーを見ると、これまた漢字で「取扱注意」と刻まれている。

 もしかしなくても、これ斎藤さん関連なんじゃないか…?


「こ、答えたぞ! 私を解放しろ!」


「ああ、いいぞ。俺は用が済んだ。あとは彼らとよく話し合え」


「…え?」


 ローブの男を元奴隷兵たちの輪の中に放り出すと、あとは恒例の血祭フェスティバルが開催された。

 他にも何人かローブの男はいたが、全員がフェスティバルの祭壇に捧げられたことは言うまでもない。




「ユリアン。この神器とやらは、神王と関係があるのではないか?」


「…陛下、ここでは衆目がございます。のちほどご説明申し上げますので」


「構わない。教えてくれ」


「…さればお耳を。教会が保有する神器とは、すべて神王陛下がお造りになられた物です。教会とは、ディアーダ王国から流出した神器の力で、勢力を築いた者たちなのです」


 ユリアンは声をひそめて、俺の耳元で説明してくれた。


 やっぱりそうか。

 斎藤さん。あなたの残した神器、悪用されてますよ…(小声)


「では、これもそうか?」


 俺は以前にドスタル領の教会から没収した「隷属の神器」を取り出して見せる。


「はい、隷属の神器とはディアーダ王国において、重罪人に労役を課す際に用いられたものと伝わります」


 斎藤さん。あなたの残した神器、ガッツリ悪用されてますよ…(小声)


 でもこれで、だいたい分かって来たぞ。

 ディアーダ王国の初代神王こと斎藤さんのスキルは、これらの神器を生み出すものに違いない。

 俺のように複数のスキルがあったかもしれないが、少なくともその一つはこれだろう。


 しかし考えてみると、斎藤さんのスキルはこれぞまさしくチート能力だな。

 奴隷を生み出したり、土くれ人形を生み出したりと、一見脈絡のない複数の結果を生み出している。


 もしかして、神器を通して発動するというワンステップこそあるものの「なんでもあり」系なのか?

 さすがは国を興すだけのことはあるな、斎藤さん。


「あの、魔法使い様。お願いが…」


「分かっている。他にも囚われているのだな? 教会に案内してくれ」


「あ、ありがとうごぜえます!」


 さっきからミンにずっと袖をクイクイされてたからな。

 ミンのおねだりでは仕方ない。

 奴隷兵を解放するついでに、こいつらが使ってる隷属の神器も回収しよう。


「ロルフ、ここからは俺の私戦だ。付き合う必要はないぞ」


「ディアーダ王、教会領を滅ぼされるおつもりですか?」


 ロルフは思慮顔だ。

 まあそうか、ただでさえ近辺の領は騒乱の真っただ中だというのに、俺が教会領まで滅ぼしたらカオス度が加速しそうである。

 しかしやめる気はない。


「滅びるのは連中の自業自得だ」


「…止むを得ませんね。教会領はデルリーン領に併合しましょう」


「…はぇ!?」


 すまんな、トビアス。

 後始末はたのむぞ。


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