『銃召喚』スキルで血と硝煙のハートフルスローライフ

左兵衛佐

第一章 ハートフルなスローライフを希望します

第1話 ハートフルなスローライフを希望します

「はえ?」


 出勤のためにビジネススーツに身を固めた俺が自宅マンションの扉を開けると、目の前は雑木林だった。


 手にしていたはずのドアノブももう無い。一歩下がってみても自室には戻れない。

 視界には雑木林が広がるばかりで自室はもう存在しない。


 えーとこれはあれだ、異世界転移だな(確信)

 俺はこういうのに詳しいんだ。


 目をつむって深呼吸を一つ。


 よし異世界転移は受け入れた! 仕事に追われる現世にも未練はない! 異世界バッチコイだ!

 でも神様! ダークな世界観とかは絶対やめてください! ハードなのも嫌です! 親切な人たちに囲まれたハートフルなスローライフものでお願いします!


 さて神への祈りを済ませたので色々確認せねばなるまい。

 まずはステータス的なものを……おっと、考えただけで表示されるタイプか。

 目の前にデジタルなウィンドウが表示される。


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名前:平良 壮馬

種族:ヒューマン

年齢:29

レベル:1

スキル:

言語理解

鑑定

収納

銃召喚

隷属魔法

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 おお! 異世界転移3点セットがちゃんとあるな!


 何の能力もなしに殺伐とした世界に放り出されるとか、そういうハード系異世界転移でないことは良かった!


 『銃召喚』も……字面は物騒な感じがするけど、まあハートフル世界においてもモンスターとか出るかもしれないし、自衛手段は必要だからな!


 よしよし、ここまでは俺のハートフルスローライフを否定する要素はなにも無いな!(『隷属魔法』から目を背けながら)


 じゃあさっそく自衛手段を確かめるか、さっきのステータスの感じだと念じるだけでいいのかな?

 おっ、キタキタ!


 何らかのエネルギーが身体から抜ける感覚がして、俺の右手に光が集まる。


 せっかくなら使ったことがある銃がいいな、俺はハワイの射撃場で経験があるんだ。


 あのとき初めて手に取ったグロック17は玩具みたいな軽さと質感で驚いたけど、コンパクトで扱いやすい銃だったしグロックがいいな……ズシリ!


 ズシリ?


 意外な重量感に驚いて右手を見ると、艶もなく武骨で黒々とした銃身のリボルバーが握られていた。


 現代拳銃には見られない広角なアーチを描くグリップ。30cmを超える全長と1キロを超える重量からくる圧倒的存在感。


 西部劇の登場人物たちが敵も味方も、保安官も無法者もこぞって手にして開拓時代を切り開いた逸品。


 これはまさしくコルト・シングル・アクション・アーミー(以下、SAA)、銃身には鮮やかに刻まれた「COLT FRONTIER SIX SHOOTER .44-40」の刻印。


 え、嘘でしょ? SAA? 俺のグロックくんは?

 シリンダ右底部のスライドを親指で開くと黄金色のぶっといリムが見え、ここにも刻まれた「.44-40」の文字。


 明らかに弾頭を大きく上回る太さのカートリッジは、すなわちボトルネック形状。

 これはつまり……。


「黒色火薬じゃねーか!」


 思わず大声が出た。

 なお、こちらが異世界転移後の第一声となっております。





「誰だテメェは!」


 背後から怒鳴り声がして思わずビクッと固まる。

 おそるおそる振り向くとそこには3人の男、いや地面に倒れ伏した男がもう一人。


 近くには幌馬車が擱座しているが曳き馬は見あたらない。


「いつの間に現れやがった…?」


 怪訝そうな表情でこちらを睨む男の手には血塗られた手斧。

 足元に倒れ伏す男からはおびただしい量の血が流れ、地面に凄惨な池を作っている。


 えっ、そういう感じ?

 あれ、おかしいぞ、ちょっとハートフル感が薄れてきたような……。


 ダークな世界観とかは絶対やめてくださいって言いましたよね神様?


「まあ誰でもいいか、どのみち見られたからには生かしておけねえ」


 男は血塗られた手斧を見せびらかすようにユラユラさせながら、ゆっくりとこちらに歩み寄る。


「おい、来るな! とまれ!」


 銃口を男に向け親指で撃鉄を起こすが、男はニヤニヤとした表情を浮かべたままお構いなし接近してくる。


 え、銃を向けられてるのが見えないのか?いやもしかしてここは銃が存在しない世界で、存在を知られていない銃では威嚇の役に立たないのかも?


 などと自問自答しているあいだに、男は眼前に迫り血染めの手斧を振り上げる。


 本気で俺を殺す気?

 あーこれは仕方ない正当防衛だ(覚悟完了)


 SAAの引鉄をひくと轟音が耳を叩き、右手首には反動の強い衝撃が伝わる。


 手斧男はくの字になったかと思うと、何が起こったのか理解できないといった顔をして膝から崩れ落ち、地面にうずくまった。


 よし、こいつはもういいだろう。

 みぞおちを押さえながらうめき声をあげていて行動不能に見えるし、なにより背中からも血が噴き出しているので全然止血できていない。


 44口径弾は男のみぞおちから侵入して、体内を荒らしたのちに背中から飛び出したようだ。


「テメェ魔法使いか!」


 手斧の男と同様にニヤニヤとこちらを見ていた男たちだが、事態の急変に慌てて腰の得物を引き抜く。

 一人は山刀ともう一人は短剣だ。


 もうもうと立ち込める白煙に涙目になりながら、俺は手前の山刀の男に向けてSAAの引鉄をひく、しかし次弾は発射されない。


 いやだからシングルアクションだって言ってるだろ!

 自分にツッコミを入れながら、右手はSAAの銃口を男たちに向けたまま左手の平で撃鉄を起こす。


 落ち着いているつもりでもやはり平常心ではないな、などと頭の片隅で余計な事を考えつつも、駆け寄ってくる山刀男の胸に狙いをつけて引鉄を引く。


 再びの轟音と白煙が巻き起こると、山刀男の鼻と上唇の間に穴が開いて、後頭部からは直視に堪えないもろもろが飛び散った。


 胸を狙ったのだが、かなり上にそれたらしい。銃の保持が甘かったか? つか手首痛ぇ!

 なんだよこの馬鹿デカ反動は……、.44-40弾くんさぁ。


 左手で撃鉄を起こしたあと、今度は右手首を左手で握るようにして両手で構える。

初めからこうすればよかった。


「ひっ、ひぃえぁ」


 短剣の男はしりもちをついて言葉にならない悲鳴を上げている。

 これは戦意喪失かな? どうしよう追い払うべきか。


 いやまてよ、最初に手斧の男がヒントを言っていたな。


"どのみち見られたからには生かしておけねえ"


 つまりこいつらは他人に見せられない後ろ暗いことをしていたわけで、ここで見逃しても俺の命を付け狙ってくるかもしれない。


 というか俺の行動だってこの世界において合法であるとも限らないし、手斧男の言い分じゃないが口封じが必要かもしれん。

 よし撃とう。


 みたびの轟音で銃弾が短剣男の下顎を捉えると、頭蓋内をかき回した44口径弾は男の頭頂部に脱出口を作った。


 短剣男がのけぞるような姿勢でいたから弾丸が頭部を縦に貫いたらしい。


 あの…、グロいんですが神様。ゴア表現オフにしたりできませんかね?


 てか今度も俺は胸を狙ったんだが弾道は上ブレした。右手の保持力が限界に近いらしい。

 .44-40弾の馬鹿げた反動で手首イタイイタイなのだった。


 手斧男をみやるとまだ地面にうずくまり小さく震えているが、あきらかに致死量の流血が男の回りに広がっている。


 介錯してやるべきか……? などと考えていると馬車の後部から4人目の人物が転がり出た。

 いや最初から死体だった人を含めると5人目なんだけど……て、それどころじゃない!


 首を押さえて真っ赤な顔をしながら転げまわっているのは少女だ。

 慌てて駆け寄るとチョーカー?というべきか、黒いバンドのような首飾りが彼女の首を締めあげているようだ。


「ぐぅ…く、かは…」


 少女は苦悶の声を漏らしながらのたうち、顔面の紅潮はどんどん高まっていく。

 俺は彼女の首飾りに指をかけて、力を込めて拡げようとする。


「ふぬ!ぐぎぎ…!」


 なんだこれは?運動会の鉢巻きくらいの幅の布に見えるのに、成人男性のフルパワーでもまったく拡がる気配がない。

 それどころか今なお強烈な力で締まり続けて、もう俺の指を抜くこともできない。


 これじゃあ少女は窒息以前に首の骨が折れちゃうんじゃないか?その場合、俺の指はどうなっちゃうの?

 うおお!転移者パワーでなんとかなれー!


 と、気合をこめたとたんに少女の首飾りがまばゆく光り輝く。


「なんの光!?」


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