第53話 8in ロッドマン
…いや、みんなの言いたいことは分かるよ?
銃か、これ?
そりゃ俺だって疑問に思わなくはないんだが、感覚ではコイツが『銃召喚』の対象であることがハッキリと伝わってきているし、現に召喚されている。
まあ、それを言ったらガトリングガンの時点でもうだいぶ怪しかったよね(開き直り)
もしかすると、おそらくはコイツの名称であろう”Rodman gun”が示す通り、『銃召喚』の判定はアメリカ式で銃と砲の区別が無いのかも知れん。
…ん? そういえば今さらではあるが、俺がこれまでに召喚した銃は全てアメリカ製ではなかろうか。
神様、1873年のアメリカで何があったんでしょうか…?
繰り返しますが、俺は特に何の思い入れもありません。
「ご主人様、ミンたちはどこを手伝うの?」
「いや、俺一人でやる。今度ばかりはどうなるか分からんからな、全員離れていろ。」
渋るミンをバルカに預けて下がらせた俺は、8in ロッドマンの召喚と共に手中に現れていた紐付きの細長い真鍮製の棒を見やる。
初めて見る物体だが、これの扱い方も自然と脳裏に浮かんでくるので問題はない。
これは摩擦式雷管と呼ばれる撃発装置で、砲尾に空いた点火孔から挿し込んだのちに紐を引っ張ることで、摩擦によりまずこの雷管の中の黒色火薬に火がつく。
そして雷管の先から噴出する火花が砲内の発射薬に引火することで撃発し、砲弾を送り出すという寸法である。
よし、発射手順そのものは割と簡単だな。
問題は…、こいつには照準器もなんにもついてないんだよね。
まあ直射なんてするわけないから当たり前か、曲射による山なりの放物線で砲弾を目標に送り込むわけだ。
うーん、仰角を調節できるって言ったって、どのくらい調節したらどのくらい飛ぶのかよく分からんなぁ。
他の銃器を操作するときには、なんとなく体感で分かる物があるのだが…。
これは体感なんて曖昧なものは一切受け付けない、数学の領域だろう。
おそらくは仰角と発射薬の量、砲弾重量に加えて気温やら気圧やら、なんなら現在地と目標の標高差も加えて解を求めなくてはならない。
つまり…、分かりません!
まあともかく試しに一発撃ってみて、ショートすれば仰角を上げればいいだろうし、オーバーしたら下げればよいのだ(適当中の適当)
ひとたび撃ってしまえば、再装填なんて素人技術で出来るわけもないのだが…、その点はスキルのゴリ押しで、消去と再召喚でなんとかしよう。
そうと決まればむしろ初弾は無調整で一向に構わんな。
方向は…、いったん『収納』して出し直すか。
おそらく本来はコンクリートのサークル上で運用するんだろうし、砲床についた車輪が地面にメリこんでしまって、こんなのもう人力では回頭できんぞ。
『収納』から再展開した8inロッドマンは、テニエシオンの城壁にピタリと砲口を向けている。
俺は全員が十分に距離をとって伏せたことを確認すると、真鍮の雷管棒を点火孔に差し込む。
てか、トビアスたちがとっくにはるか遠くまで離れてるのがムカつくな。
誰のためにやってると思ってんだ、誰の!
さて、ちょっとドキドキするな…、弾道を見極めて修正しないといけないから、俺はシッカリと観察しないと。
何度か深呼吸を繰り返したのちに、意を決して雷管棒の紐を一息に引っ張る。
轟雷音。
耳をつんざくような音と共に、俺の身体全体がビリビリと震えるような衝撃に見舞われる。
砲身によって衝撃波に指向性が与えられているため、爆弾巨人くんの放つ全方位衝撃波よりは幾分マシであるが、それでも慣れるもんじゃないな。
いかん、思わず目を閉じてしまったぞ。
砲弾はどこにいった? あ、あれか。
俺は空中を飛翔する椎の実型の砲弾を視野に捉える。
螺旋の切られていない滑空砲身から打ち出された砲弾は、早くも不規則な回転を始めていて、こりゃ命中精度には期待できそうもない。
いや、でも意外と…?
初弾から城壁を捉えるかと思われた砲弾は、しかし城壁の多少上をオーバーして街の中心部の一番大きな屋敷に直撃した。
そして、一拍の後。
遠雷。
巻き上がる土煙が遠目にもよく見え、高層物見やぐらを含む周囲の建造物が次々と倒壊していくのが分かった。
…そうか。
あんまり原始的な外観をしてるもんだから、ついつい砲弾の方も鉄ムクの固体弾を想像していたが、あれは炸薬の詰まった榴弾だったんだな(行き当たりばったり)
炸裂の衝撃と、撒き散らされた砲弾の破片とで、周囲の建造物を薙ぎ倒したわけだ。
いや、なんなら火の手も上がってるな。
別に焼夷弾と言うわけではないだろうが、あれだけ木造建築物が多いところで大量の黒色火薬くんが燃焼してしまえば、延焼は避けられないだろう。
ふう、ちょっと狙っていたのとは違う結果になったが、まあ初弾にしてはまずまずだったのではなかろうか?
よーし、次は仰角を少し抑えて…。
「旦那、もう十分だぜ…」
いつの間にか近寄っていたトビアスが俺の肩に手を置いて首を振る。
えっ、城壁はまったく無事だけどいいのか?
確かに物見やぐらを崩したから、あとは通常の攻囲をしようというわけだろうか?
「いやぁ…、あんなのを見せられて、まだ戦おうなんてヤツはいねえぜ。あとは、まあ一応降伏を勧告してみっけど、どうだかなぁ…」
なんだ、戦意を挫いたのかそうでないのかどっちなんだ?
降伏しないんならまだ戦いが続くんじゃないのか。
「そりゃ、旦那がいきなり領主館を吹っ飛ばしちまうもんだからよ。きっとテニエス卿もバラバラになっちまったと思うぜ」
「む…」
着弾点にあった建物、あれは領主館だったのか。
降伏勧告をしようにも、相手方の指揮系統のトップがいきなり不在になってしまった可能性が高いと。
…ふむふむ、なるほど。
つまり斎藤さんが悪いな(名推理)
今回に関しては初めから結論が出ているので、責任割合の検討は必要ないぞ。
「ご主人様、すごーい!」
「ご主君の武威に撃たれては、テニエス卿とやらも抗う術がありませぬな」
ミンとバルカによる定番の武威肯定をすっかり違和感なく受け入れるようになってしまった俺は、トビアスが命じるテニエシオン包囲と降伏勧告の様子をぼんやりと眺めていた。
「これが『白夜の神器』か」
「うん、あのとき光ってたのは、これだよ!」
トビアスが将兵に命じて瓦礫の中から回収させた『白夜の神器』は、あれほどの惨状にあっても傷ひとつなく美しいままの水晶球であった。
ふーむ、斎藤さんの神器はよく分からないところも多いが、耐久性にも特別な力があるのかも知れんな。
ちなみに水晶球と一体化している台座には"過度の温度上昇による事故に注意すること"と日本語で書かれている。
…だからさ、それが分かってるならセーフティをかけろよロリコン野郎(暴言)
ちなみに、今回の共同作戦をカスパーに了承した時点で、戦利品のうち神器だけは全てディアーダ王国のものとする条件となっている。
まあ、それ以外の見返りを求めないのだから文句はあるまい。
むしろ今回は色々とコチラが頑張り過ぎてしまったので、今後のデルリーン領との直接交易ではその穴埋めをしてもらうこととしよう。
食料だけは当面難しいだろうが、それ以外にもシュタイオンは色々と物資不足だからな。
さて、これで義理は果たしたことだし、シュタイオンに帰還して我々も小麦の収穫作業に励むとしようか。
などと俺が考えているところに、慌てた様子のユリアンが駆け込んで来る。
こりゃ、ろくなことでは無さそうだな…。
「陛下! シュタイオンより急報があり、バリタ人の襲来を受けているとのことにございます!」
ちっ、俺の不在に来るとはタイミングが悪い。
現在のシュタイオン防壁と国防軍の戦力、そしてアレクシスの魔法を持ってすれば、一度のバリタ人襲来だけで最悪の事態になるとも思えんが、それでも急いで帰還せねば。
「さらに! 東の森でエルフ氏族同士の大規模な闘争が発生し、王国の猟師や木こりは立ち入れない状況になっているとのこと!」
また闘争か(呆れ)
東の森林地帯に出入りできない状況が続くと、建築ラッシュが続くシュタイオンにとって重要な木材の調達に影響が出てしまうな。
石灰岩も補充したいと思っていたところだし、これまた面倒なタイミングで面倒事を起こしやがって…。
「加えまして! ヴィーク人の一団がシュタイオンに到来し、陛下へお目通りを願っているとのことにございます!」
いっぺんにあれこれ起こり過ぎだろ! いい加減にしろ!
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