第42話 海賊のお宝
「それでは、大法官の権限に基づき、バリタ人捕虜51名は終身労働刑といたします」
目の前でそう宣言した老人は、法務大臣と大法官(最高裁長官)とシュタイオン判事を兼務するアンゼルムだ。
これまた政治と司法、中央と地方を一人で兼ねるというアウト極まりない兼務っぷりだな。
まあ、旧ディアーダ王国の職制を維持したまま集落レベルに縮小している現在においては仕方ない。
ちなみにアンゼルムは、これまた宰相モーリッツとランダーバーグ王国伝承官ヨーナスの兄弟の、さらに下の弟である。
ディアーダ王国の首脳陣、こいつら兄弟で回しすぎ問題。
「バリタ人奴隷は、鹵獲したバリタ船を出航させる際は漕ぎ手とし、それ以外は主に開墾作業への従事といたします」
宰相のモーリッツがバリタ人奴隷の運用計画を報告してくる。
ちなみにバリタ船は横帆が一枚あるだけの原始的な帆船で、操帆と両舷から伸びる櫂の漕ぎ手に30人程の操船要員が必要となる。
シュタイオンにはこの規模の船を操船できるものがいないので、バリタ船を出航させようと思ったら彼らを使うしかないのだ。
現状の開墾フィーバーにバリタ人奴隷を投入する気満々な様子なので気が引けるが、デンネムンクで石炭を採掘するためにさっそく船を出したいので計画の調整をお願いしよう。
「次に戦利品でございます。槍が総数で274本、うちすぐに使えそうなものは200ほど。盾は188枚、うちすぐ使えそうなものは100ほど。他に剣、斧がそれぞれ100ほどですが、すぐに使えるものは半分ほどでしょう。弓と矢はごく少数でございました」
モーリッツが物的な戦利品の報告に移る。
うーん、これは素晴らしい戦利品だ。
これが世にいう海賊のお宝と言うやつだな(誤り)
あいつら毎月来てくれないかな?
破損割合が高いのは残念だが、破損の主要因は俺が放った14.7mm弾によるものなので文句は言えない。
なるべく修理して使いたいし、最悪でも鋳つぶして鉄資源にはなる。
何度か説明している通り国防軍はシュタイオンの成年男性全員が組織されているので、限界まで動員すれば300人くらいの兵力を繰り出せることになっている。
しかし、従来はせいぜい100人分くらいの武器しか常備されていなかったので、それ以上の動員を行っても投石やら農具やらで戦うしかなかったのだ。
しかも武器の質もこれまではお世辞にもよくなかったので、今回の戦利品による国防軍の強化は計り知れないものがあるだろう。
いや、国民の成年男性を全員動員するとか、生きるか死ぬかの防衛戦争以外では禁じ手もいいところだけどね。
「鎖帷子は16領が得られましたが。いずれも破れているか、穴が開いております。修理には1か月以上がかかることでしょう」
これも正直スマンかった。
鎖帷子って鉄の輪っかを一つ一つ手作業でつなぎ合わせて作られているので、言わば究極の手工芸品なんだよね。
修理を行うには大変な労力がかかってしまうのだが、俺の外征にしょっちゅう動員される近衛軍の装備充実は重要な課題なので許してほしい。
ちなみに、鎖帷子以外の毛皮や革の外套などの防具類は、その多くが使い物にならない破損具合であった。
うーん、14.7mm弾くんは強力なのだが、戦利品の質を下げてしまうという弱点が露呈してしまった。
もしこれがオンラインゲームのレイド戦だったら、俺は追放されてしまうところだぞ。
「最後に船でございます。これについては工務大臣より報告いたします」
「おう」
話を振られて工務大臣ヴィルマーが引き継ぐ。
「分捕ったバリタ船3隻のうち、1隻はかなりガタが来てるみてえだから、バラして残り2隻の修理材に充てようと思う。それとシュタイオンには桟橋がねえから、3隻とも陸揚げして置くぜ」
これも課題だな。
シュタイオンの漁民たちは浜から手で押して舟を出しているので、軍船が泊まれるような桟橋は今後あらたに建造する必要がある。
そうでないと、船を使用するたびに丸太を並べてコロにして大人数が縄で引っ張るという、大変な作業が必要になってしまうので明らかに効率が悪いのだ。
それにたぶん、陸揚げを多用していると船も痛むだろうしな。
しかし船が得られたことは嬉しいんだが、絶賛建設ラッシュ中のシュタイオンに桟橋づくりまでは人手が回らないぞ。
あれもこれもやりたいけど、人的リソース問題が本当に悩ましい。
「最後に私フリッツより軍務の報告をいたします。今回の戦いによる王国側の死者は0ですが、負傷者が国防軍で13名、近衛軍で9名ありました。負傷者には既定の通り見舞金を支給いたします」
う、これは痛い。
負傷者に対して規定通りに見舞金を支給するのは全然かまわないんだが、彼らが負傷を癒すまでディアーダ王国の活動能力そのものが目減りしてしまう。
国防軍兵士は全員が王国の産業従事者なので、1000人中の13人が負傷となると国の生産能力が1%以上損なわれたのと同義なのだ。
GDPが1%も下がるような失政を行ったら、現代だったら指導者を首になりそうだよね(汗)
さらに近衛軍に至っては損耗率が30%近くまで跳ね上がってしまったぞ。
割合で言ったらもう壊滅状態じゃないか。
こりゃ冬が明けるまで軍事行動を自粛するしかないな。
だったら兵たちに戦わせないで敵を全て銃弾で殲滅したらいいじゃないか、と思われるかもしれない。
でも兵たちを戦わせると上がるんだよね、レベル。
俺が『鑑定』で観察したところによると、近衛軍たちは最初に召集されたときはだいたいでレベル15~18くらいだったのだが、俺と共に転戦する間に平均して2レベルほど上がっているのだ。
安定の人殺しでレベルアップシステムである。
このシステムがある以上、今後も敵を潰走状態に追い込んだ後は積極的に兵士たちのレベリングを行っていきたい。
俺の感触からすると、どれほど時間をかけて訓練を積むよりもレベルアップした方が個人の戦闘能力は向上するのだ。
なにしろこの世界の兵士たちは四六時中戦争をしているからな。
周囲の勢力に負けないだけの精鋭を育成するには、実戦あるのみなのである。
「モーリッツ。兵たちの働きには満足している。規定の見舞金に加えて、この冬の食料・燃料の割り当てを加増してくれ。負傷者以外の戦闘参加者もだ」
「そのようにいたします」
たぶん、シュタイオンの貨幣経済の貧弱さを考えると、金銭より現物の方が喜ばれるんだよね。
これは今後の長期にわたる課題だな。
まあ、ともかく今後も拡張戦略を取りたい関係上、軍事行動を敬遠する風潮が生まれるのはまずい。
今後も保証と褒美で積極的に戦意を高揚していこう(ゲス統治者)
「陛下。兵たちの士気は問題ございません。宿敵であったバリタ人を完膚なきまでに打ち破った此度の勝利、シュタイオンの民はこぞって快哉をあげております」
やや興奮気味にそう述べるユリアンは好戦的というか、武断的というか、要するにイケイケの性格なんだよね。
その後ろで従兄のフリッツが渋い表情を見せているのとは対照的だ。
ユリアンの言う通り兵たちの士気が高まっていることも事実だろうし、フリッツの表情の通り損耗が少なくないことも事実だろう。
この二人の間でバランスを取っていけば良さそうかな?
「うむ、お前たちの働きは心から頼もしく思うぞ。しかし間もなく冬となる。我らも山野の獣に倣って身体を休め、次なる戦いに備えることとしよう」
ユリアンは一瞬不満そうな気配を見せたが、総合的には褒められたので納得したようだ。
フリッツは露骨にホッとした表情をしている。
軍事行動の多い王でごめんね。
でもあと一回だけ、デンネムンクでの石炭採掘だけはやらせてください。
春までは軍事行動を自粛すると言ったじゃないかって?
これは純軍事行動じゃなくて生産活動の一環なのでセーフ。
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