第10話 会敵

 、、、ど、、、ど、、、ど、、、がんっ、、ミシッ、、、メキッ、ベキベキベキ、ザザン


 近づくにつれ、その音はどんどんと大きくなってくる。

 

 、、、ずん、、、ずん、、、ずん、、、ごっ、、、ギシッ、、、バキバキ、ドゴン


 彼我の距離は1kmを切ったところだろうか。

 もうここまでくれば、これが何の音だか、ちゃんと目視せずともわかってしまう。

 そう、足音だ。

 キン達に削られた脚はどうやら復活しているようで、それを使って悠々と一直線に進んでいる。

 本体が木にぶつかる度に、その木を触手で絡めとり、ねじ切り、倒す。そして、また前進。その繰り返し。

 歩み自体は徒歩より遅いんじゃないかというほどだか、一歩毎に地面は揺れ、木々が震える。

 正直、こんな化け物級の宝箱は見たことがなかった。

 だから、思わず独り言ちてしまった。

 

 「っっく、こんなバケモン一体どうやって、、、」


 その途端、世界が止まった。

 いや、違う。

 さっきまでの騒音が嘘のように、一切の音、振動が止まったのだ。

 

 「な、なんだ?、、、」


 瞬間、


 「#&()’$’$)#$~~~!」


 宝箱が吠えた。

 その瞬間、背筋に悪寒が走った。

 だから、それを聞き終えもしないうちに、俺は脱兎のごとく今来た道を駆け出した。


 「やばいやばいやばい、耳がいいってレベルじゃねぇぞ。」


 、、ずん、、ずん、、ずん


 「#($’)”&(””~~」


 短くなった足音の合間に、全く説明できない雄たけびが混じる。

 俺はがむしゃらに駆けた。

 駆けて駆けて駆けて、息も絶え絶えになったころ、凄まじい音が聞こえた。


 ずがぁぁん、ごん、ごん、ごん


 慌てて振り向いた俺が木々の隙間から見たのは、人の丈を優に超えるほど巨大な4本の触手の上に鎮座する宝箱。それが、その前二本の触手で、何もない地面を殴っている姿だった。

 驚いた俺は、息を整えつつ、声を出してしまった。


 「ぜっ、はっ、あ、あいつは何をして、、、」


 そうつぶやいた時に気が付いた。

 と同時に、荒れ狂っていた振動もピタッと止まった。


 それから十数分、森を静寂が支配していた。

 俺は動けない。

 不意に声を発さないよう、口は両手で覆っている。

 そして、宝箱も動かない。


 更に数分静寂が続いたのち、何の前触れもなく、


 、、、ずん、、、ずん、、、


 また、足音が周囲に響き始めた。

 まさか、、、

 そう思った俺は、小さく、

 

 「、、ぉぃ、バケモン」


 と、ささやいてみる。

 すると、また、ピタッと周囲の音が止まる。

 そして、数分経過後、また

 

 、、、ずん、、、ずん


 と足音が響き始めた。


 それを聞きつつ、俺は静かに踵をかえす。

 今度は慎重に、息が切れないよう、独り言ちないよう細心の注意を払いながら。


 もと来た道を戻りながら、俺は必死に考えていた。 

 というか、考えるまでもないことだが、あいつは人間の声に反応している。

 しかも可聴域は恐らく、約1キロ。

 確認のためか、声が聞こえた瞬間全ての動きを止め、二度目に聞こえたところに突撃する、そういう習性らしい。

 そして、2回目に聞く、その狙いは恐ろしく正確だ。

 あの巨腕に殴られたら、一度だって無事では済まないであろう。

 それを何度も何度も打ち付け、気が済むと周囲の音を観測する。

 多分、うめき声の一つでも聞こえたが最後、即喰われるんだろう。

 では、対策は?

 

 と、そこまで考えた時、山の中腹、そこに少し小高い崖のようなものがあるのを見つけた。

 俺はそこに上ると、再度、音のする方を見やる。

 ここからなら、良く見える。


 奴はまだ、山の麓らへんにいた。

 直線に進んでくるのは変わらないが、心なしか、一歩の間隔が長いように感じる。

 

 「俺を、、、探しているのか?」


 言って、慌てて自分の口を押える。

 が、宝箱の歩みが止まることはない。

 数分の沈黙の後、それを確認して俺は再度口を開いた。 


 「、、ふぅ、どうやらここはまだ感知範囲外みたいだな。」

 

 そう独り言ちている間も宝箱の動向からは目を離さない。


 「だが、そこまで分かれば、十分だ。待ってやがれよ、ギン、今すぐこいつをそこに誘い出してやるからよ。」


 そう言って、俺は獰猛な笑みを浮かべるのだった。


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 俺の秘密?

 なんだよ急に?


 A級になれたのには秘密があるんだろって?

 そうさなぁ。お前には話しておいてもいいかもな。


 鍵士は戦えないって言ったよな?

 でもな、それを良しとしなかった奴がいた。

 それが俺のご先祖様だ。

 多分、人と群れるのが嫌いだったんだろ?

 宝具士の力を借りず、何とか奴らをやれないかと一生を費やして考えたそうな。

 そして得た結論が、素手で殴る、だったわけだ。


 鍵士の手は宝箱の影響を受けない。

 どんなに強い触手だって、手で受ければそのパワーを自分の体に伝えることはない。

 呪いだってそうだ。

 正確には手、というより腕、肩口の手前までくれぇか?

 だから、それで宝箱の攻撃をいなし、触手の付け根を殴ってりゃいつかは倒せんだろってこったな。

 ただ、それには生半可な目と体術じゃどうしようもねぇ。

 腕以外を触られりゃ、そのままお陀仏だ。

 だから、俺の一族はちいせぇ頃からひたすらに体術を叩き込まれる。

 血反吐を吐いたって辞めさせちゃぁくれねぇ。

 そうして何代も何代も磨き続けてきたのが、この「宝拳」ってわけだ。

 ほら、そんなに知りたきゃこれやるよ。

 「宝拳」の極意ってのが書いてあるらしい。まぁ、俺は読めねぇがな。

 それに親父に叩き込まれて、体が覚えちまってるから、そもそもいらねぇしな。


~とある男の独白より~

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