第7話 狂気
「だ・か・ら、てめぇなんだろぉがよ、英雄様。」
キンが獰猛な笑みで言う。
「すっとぼけてんじゃねぇぞ?てめぇは秘密にしているつもりかもしれんが、裏は取れてんだよ。その手、鍵士の手ってのは、宝箱の攻撃にも触れんだろ?」
俺の背中を嫌な汗が伝う。
「まぁ、公にゃできねぇわな、それができるのが分かっちまえば、極論宝具士なんていらねぇんだから。」
「いや、ちがっ」
「違わねぇさ。まぁ、特権階級意識の塊みてぇな鍵士連中の中で、危険な前線に出て、しかも素手で宝箱に立ち向かおうなんて頭のおかしい奴がいる訳もねぇから、今まではわからんかったのかもしれんがなぁ。実際、ギンにだって弾くことだけは、できたしなぁ」
「試し、、たのか?」
俺の悪い予想は最悪の形で当たっていたらしい。
俺の、、、いや一族の技は禁忌だ。
なぜなら、その技を使おうとする大半の鍵士は死ぬからだ。
「ああ、ギルドからやっと引き出した情報じゃ、可能性、までしかわからんかったからなぁ。」
「…ギンは無事、なのか?」
「はっ、無事な訳ねぇだろ。印のある右手から肩口まで以外は、ひでぇもんだ。溶かされたり、凍らされたり。その度に回復薬が必要になるんだから、とんだ散財だったわ。ただ、ビビって顔の前だけは一生懸命払っていたから、顔だけは無事だがなぁ。ひひひ」
「く、狂ってやがる。」
そう、狂っている。
ただ、狂っているのは実の弟で実験をやらかすキンもだが、それ以上に俺の一族は、ということになるが。
「ああ、そうかもなぁ。だが、良い実験にはなったさ。報告だけで、ギルドからも多額の恩賞を貰えたしなぁ。それでも出た結論は、鍵士だけでは戦えない、だ。てめぇ以外はな。ただまぁ、どんな秘密を隠していやがんのかは今は聞かねぇでおいてやるよ。」
「…その代わりに行って来いと?」
「ひひひ、話が分かるじゃねぇか。」
そういうが早いか、キンは先ほど杖に使った大盾を俺の鼻先に突き出した。
そこには鏡のような金色の盾面があった。つるりとしたその表面が、キンの
「映しやがれ」
の一言で俄かに波打ち始める、そして瞬き二つくらいの間に、盾面には複雑な模様、いやここを中心とした地図が描き出されていた。
「…まぁ、今更おめぇに説明するまでもねぇと思うがよ、俺様の盾はな攻撃を相手に返す権能があんだわ。ただ、その副産物ってのかな、反射しねぇで内に溜め込むと、こうやって相手の場所を割り出す目印になるんだわ。で、だ、今この盾面に写ってんのが、俺様たちと奴の位置って訳だ。」
「ああ、よぅく知ってるよ。そして、その宝箱がてめぇを追いかけてきているかもしれねぇってことも、よぅっくわかったわ。」
「おうおう、んなこえぇ顔すんじゃねぇよ。俺様だって出来ることなら討伐したかったさ。だが、呪いと足手まといの所為でこの様だ。まさかとは思うがよぉ、村のためを思って頑張った人間に、逃げ込む場所すら与えてくれねぇなんてこというわけじゃあるまい?」
「…それでもまだやりようはあったんじゃねぇのか?」
「っは!なんでもおできになる英雄様と違って、俺様にはこれが限界だったってこったなぁ。だからよ、しりぬぐいを任せるようで、本当に申し訳ねぇが、いっちょ英雄様のやり方ってやつを無学な俺様達に教えてくだせぇってこった。」
本当に、ひっでぇ言い草だ。こいつに誠意なんてもんがあるとは思っちゃいなかったが、それにしたってひでぇもんだ。
だが、ことここに至っては、宝箱はこいつを狙ってここに来るし、ここまでくれば村が見つかるのは必至と言って間違いない。それならこいつをどこかに捨ててくれば…といって、それも難しいし、その時間で宝箱がここまで来てしまえば意味がない。それにこいつは腐ってはいるが、腕は一流並みの宝具士だ。宝具により身体能力は強化されているから、例え片足でも一般人の俺たちが束になってやっとどうにかできるというところだろう。
ってことは、結局ターゲットをすり替えて、別のところに誘導するのが今とれる最善手ということになる。と、そこまで考えて、完全に嵌められたことを理解して、再度キンを睨む。
「へっ、気付いたみてぇだなぁ。そうさ、おめぇに選択肢なんざ、はなからねぇのさ。」
「クソ野郎が。」
「まぁ、なんとでも言いやがれ。それよりも宝箱の野郎だが、大体一時間で1キロくらいの速さで追って来てやがる。亀よりすこぉしばかりはぇえってくらいか?まぁだ山向こうだが、昼夜問わず追いかけてきてっから、俺様まで真っすぐくりゃ、明日の昼くらいにゃ辿り着くだろうよ。」
「ちっ、その上、時間の余裕もねぇってんだから、最悪だな。わぁったよ、お望み通り今すぐ出てやるよ。そんかわり、生きて帰ったら2,3発ぶん殴るから覚えておきやがれよ。」
そういって、今度こそ小屋を出ようとする俺をキンは再度引き留める。
「ああ、ちょっと待て。」
「んだよ!」
「ここの裏手に、俺様達の遠征帰りの道具が置いてある。どれでも好きなもんを使って構わねぇ。それと、こいつをやる。」
そういって、キンが俺に銀色の何かを放ってよこす。
「なんだこりゃ?」
「ああ、魔境の呼び鈴ってぇしろもんらしい。立派な宝具だ。」
「なら、俺にゃ…」
「宝具だが、そいつは…多分おめぇでも使えるしろもんだ。」
「はぁ!?んな訳…」
「つうかよ、今持ってるってこたぁ、拒絶されてねぇってこったろ?それに、そいつの権能はよく響く音を、出したい時だけ出すっつうくそおもしろくもねぇもんだ。権能が貧弱すぎて反応しねぇのかもしれんが、ギンにも使えたんだから、おめぇにも使えんだろ?まぁ、音より鍵士にも使えるって方が本当の権能なのかもしれんけどなぁ。」
そんな馬鹿なと思いつつ、だが、拒絶の意志は感じなかったため、投げ渡された鈴を振ってみる。が、音はならない。それならばと、鳴れと念じてみる。と、
「カラーン、カラーン」
澄んだ鐘の音が、小屋中に響き渡った。
「な?まぁ、それだけなんだがな。そして、今回の宝箱はどうやら見えていねぇ。いや、森の中を追いかけてきているから見えるのかもしれねぇが、音の出たところを一心不乱にぶんなぐってきやがるから、音の方に敏感に反応するのは間違いねぇ。俺たちもそれで逃げられたしな。んなわけで、誘導用にそいつをおめぇにやるよ。別に返す必要もねぇからよ。」
「…随分と気前がいいじゃねぇか。」
「まぁ、しけた宝具だしな。土産の一つとでも思えばいい。」
「土産?まぁ、いいわ、くれるっつうならありがたく。どうやら使えるようだしな。これで終わりなら俺はもう行くぞ?」
「ああ、悪かったなぁ。精々、村の平和のために頑張ってくれや、英雄様よ。」
「ちっ、るせぇ。」
そういって、俺は今度こそ小屋を後にする。
その背後で、
「おぅ、ギン、てめぇも英雄様についていきやがれ。英雄様に華ぁ持たせられるように、うまくやれよ?」
「…ああ」
という声が聞こえた。
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ギルドは、パーティの監視が目的と言ったって、表向きは宝箱災害の防止のための人員斡旋と宝具の換金がメインの組織ということになっている。
そんなわけで、監視の結果、優良と判断されればうまい宝箱の情報や、遠征先での融通を利かせてくれたりもするわけだ。
級は上から、A、B、C、D、E、Fのランクに分かれていて、実績のねぇやつや新人はF。Fだと宝箱の情報なんてほとんどもらえず、避難誘導の人員とかに回されんのがおちだな。普通はどんなに頑張ったってBが最高。Aになれんのは、でけぇ山や、普通じゃねぇ何かをやり遂げたような本当に一握りの人間だけだな。実はその上に、Sなんてのもいるって話も聞いたことはあるが、、、ま、こいつぁ眉唾もんだな。
ハンターはギルドに認められて初めて名乗れる身分だが、なるにゃ、紙切れ一枚で事足りる。
ただ、やめんのはすげーめんどくせぇ。
下手に名をあげたりするとなおさらな。
ギルドと居住地の有権者の承認ってやつが必要になっちまうからな。
まぁ、名があるやつはギルドの恩恵にあずかれんだから、そうそうやめたりはしねぇんだけどな。
俺か?
俺は一応、A級だったな。
もうやめちまったけど。
なんでって?まぁ、いろいろあったんだよ、俺も。
~とある男の独白より~
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