第6話 作戦

 「…そこまで言うってことは、何か考えがあんだろうな?」


 悪魔の囁きの所為で、湯だった頭は大分冷えた気がしていた。

 今思うと、冷えちゃぁ全然いなかった訳だが。


 「っはっ!話が早くて助かるわ、流石は英雄様だ。」


 その心底馬鹿にしたような素振りに、また怒りが沸点にたどり着こうとするのを何とか抑える。


 「んなのはいい、お前の考えを聞かせろ。」


 「おーおー、こえぇこえぇ。まぁ、立ちっぱなしもなんだし、、、ってもう、座る感じでもねぇか。けど、わりぃが、俺は立ってるのがつらいんで座らせてもらうぜ。」


 いうが早いか、キンは俺の傍から離れ、また元の椅子に腰かける。

 ただ、先ほどまでの張りつめた、考え込んでいるような姿勢から一転、足を投げ出し、何というかかなりリラックスしたような姿勢を取っているように見受けられる。

 不思議には思ったが、それを誰何する暇もなく、キンが話始める。


 「まぁ、ぶっちゃけた話、別に討伐してもらおうなんざ思ってないんだわ。」


 「…そらまた、ずいぶんと話が変わってきたじゃねぇか。」


 俺はキンを睨み据えながら、そういう。


 「まぁ、今までの話は、話の流れ上致し方なくってやつだわ。だから、まぁ、そうこえぇ顔すんじゃねぇよ。」


 「詫びはいいから続けろ。」


 「へぇへぇ、軽い冗談だってのによ。でだ、てめぇにやってもらいてぇのは、囮だ。」


 「囮?」


 「そう、囮。宝箱の気を引き、これから指定する場所まで誘導してほしいんだわ。」


 「誘導するとどうなるってんだ?」


 そう聞くと、キンは先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を消し、また前のめりになって俺を見上げながらこう言う。


 「誘導先に罠を仕掛けてある。それを頃合いを見て、ギンが作動させる。」


 「罠如きで宝箱をどうこうできるとは思えねぇが、、、」


 「おめぇの懸念は最もだが、知っての通り、ここは山ン中だ。しかも、お誂え向きに海までノンストップの急流まである。」


 「まさか、お前、劉河に落とす気じゃぁ…」


 「本当に察しが良くて助かるわ。その通りだ。んで、罠は宝具士なしでもここの防衛ができるように考えていた先代のじじぃの遺産を使う。」


 「劉河砲か?ちいせぇ頃に一度見せてもらったが、あれ動くのか?」


 劉河砲は、劉河に面する高台に設置された巨大なカタパルトのような装置だ。火薬で巨大な木壁を射出し、高台の上にある物を川に落とすという。実際に動いてるところは見たことがないし、動かすと壁ごと川に落ちる使い捨てと聞いた気がしたが…


 「ああ、作動は村長に立ち会わせて、確認済みだ。使い方もギンならわかる。」


 ということらしい。正直信用は一切できないが、今取れる手段としては可能性の高い部類のような気もする。高台まで、誘導できれば、の話だが。


 「つまり、高台までの囮を俺にやれと?」


 「ああ、そういうことになるな。」


 「宝具なしの、生身の人間に、数キロの山道を宝箱の前に姿を晒しながら、駆け続けろと?触手にも触れられずに?そんなことが可能だと思ってんだとしたら、お前の頭ん中はとんだお花畑だな。」


 俺はなけなしの反論を試みるのだった。

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 鍵士は100人に一人と言われているらしい。


 だからまぁ、基本的には鍵士を中核にしたパーティを作ることになるんだが、、、

 正直、鍵士、、、特に男の鍵士はろくでもねぇ奴が多い。

 夢をぶっ壊しちまうみてぇでわりぃけどな。

 血がものをいうようなもんだから、男の鍵士は女の宝具士ばかりを囲って、その上奴隷のように扱っているやつだって珍しくなかった。

 女の鍵士に至っては、鍵士ってことを隠しているやつが大半だったな。


 ん?奴隷みたいに扱うって、宝具の力で返り討ちに遭わないのかって?

 確かに宝具の力はすげぇよ?

 超常の力も使えれば、肉体が活性化する所為か老い難く、身体能力も高い。

 だがな、そんな万能のような力も鍵士に触れられると途端に消し飛んじまう。

 反発するって言ったろ?

 だから、宝具士は鍵士にだけは強く出ることができないのさ。

 あとは自力の勝負になっちまうんだから、、、生物的に男の方が有利だわな。


 ただまぁ、宝具自体の数は少ねぇわけで、宝具士だってはいて捨てるほどいる訳じゃあない。

 そうやって、ひでぇめにあって、戦えなくなる奴が多くなっちまえば、本当にまずいことになる。

 だから、それらを監視する目的で、ギルドが作られたのさ。


~とある男の独白より~

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