第15話 討滅
丁度、森から姿を現したばかりの宝箱に向かって走る。
体の不調は、、、まぁ知ったこっちゃねぇな。
こちらの接近に気が付いたのか、宝箱も欠けた前腕(?)を大きく持ち上げ、
「H%&$)(#$’%~~~!!」
勝ち誇ったかのような咆哮を上げながら、俺めがけて一気に振り下ろす。
多分、今まではこれでほとんど決まっていたのだろう。
その咆哮には笑い声をも含んでいるように感じた。
対して俺は、無言のまま手の甲を進行方向に掲げ、その甲で前腕の端をなでる様になぞる。
そして、なぞりつつ、その軌道からほんの少しだけ自分の体が外れるように態勢を調整する。
そのまま、腰を落として、更に半歩前へ。
すると奴の前腕は俺の腕を掠めるようにしながらも、一定の距離以上は近づくことなく、俺の背後へとそのまま伸びていく。
その後、背後で盛大な音が鳴り響く。
「%$&’(???」
必殺の咆哮から一転、無傷の俺を感じてか、宝箱から戸惑いともとれる咆哮が聞こえた。
ような気がした、、、正直、この時の俺にはそんなことを考えている余裕はなかった。
前腕をかわしたのを感じるまでもなく、逆足でもう一歩を踏み出す。
そして、そのまま二歩、三歩前と前に出る。
そこで顔を上げると、奴の本体がそこにはあった。
丸半日以上追いかけっこをしてきた間柄だったが、それをまじまじと見るのはこれが初めてだった。
他に類を見ないような、大きな長方形の筐体は、黒地をベースに各辺が銀張りの上、ビス打ちされたシンプルながらも、高級感がある見た目。
かなり成長したものだというのが良く分かる。
そして他の宝箱と同じく、蓋は半開きで、その隙間から、触手があふれ出している。
が、今俺と宝箱の間の空間を隔てる触手はない。
それはそうだ。
半分近くになっているとはいえ、この触手のリーチは圧倒的だ。
それを用いた中距離からの殴打は普通であれば、相手の射程外からぶち込める必殺の一撃となっていたであろう。
が、今はそれがあだとなっている。
前腕が引き戻されるまでの隙を利用し、俺は更に駆ける。
四歩目、五歩目、六歩目。
ほぼ宝箱の真下近く、その触手の付け根が見える位置にまで到達する。
だが、高い。
人間の腕などと同じく、触手もその根元、宝箱本体の周辺が一番脆い。
非力な鍵士の俺が、触手を落とすにはどうしたって、その一番脆いところをたたく必要がある。
だから、俺はほんの少し進路を変え、宝箱のすぐ左手、触手にへし折られ、斜めになってしまっている木を目指す。
そして、その木を数歩駆けあがる。
と、ここで宝箱から予想外の攻撃が来る。
姿勢維持に使用していたはずの右後腕(?)が、水平方向に薙ぎ払いをかけてきたのだ。
驚いた俺は、すかさず幹を蹴り中空へ。
破壊された幹の反動も手伝って、それなりの高所にまで打ち上げられる。
と、その刹那に見えたのは、先ほど放った前腕と残りの後腕で姿勢を維持する奴の姿。
思わず、
「ちぃぃっ、器用な野郎だなぁ。」
思わず苦笑いがこぼれる。
と同時に、体の落下が始まる。
そんな俺を絡めとろうと、5本目の触手が伸びてくる。
それを体を無理やり回転させながら、弾く。
弾いた衝撃で姿勢を戻し、宝箱へと正対する。
目の前には宝箱の半開きの口。
俺は予想以上に想定通りに行ったことに、こみ上げる笑みを抑えつつ、そこから溢れる触手の束を
「うあぁぁぁぁぁらぁぁ!」
気合と共に手刀でたたき切ったのだった。
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ああ、そうそう、宝拳で大事なことを言うのを忘れててわ。
それはな、触手は弾ける。
だが、衝撃は弾けないってことだ。
だから、触手はぶつからなくても、衝撃は喰らっちまう。
それも、触手と反発する力も乗るんだから、まともに受ければ吹っ飛ばされて終いだ。
だから、触手は受けちゃいけねぇ。
それだけは頭に叩き込んどきな。
あとは、、、そうだな。
その本に書いてるまんまだが、触手の弱点は付根だ。
先端になれば力も強いし、固い。
まぁ、固いっつっても触れるわけじゃねぇんだが、こっちがいくら攻撃したって、傷らしい傷はつかねぇ。
その上、権能が付与されている場合も多いしな。
だが、付根に行くに従い、何故かそれは弱くなる。
一番根っこのところでは、こっちの殴打で触手を吹っ飛ばせるほどにな。
だから、一人で戦う時にゃ、如何に相手の懐に入り込むか、それを第一に考えな?
まぁ、最もそんなことにはならず、信頼できる宝具士が触手を片すの後ろで見ているのが一番安全な方法ではあるんだがな。
~とある男の独白より~
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