第16話 開錠

 「、、ぁぁぁああ、あぐっ」


 触手をたたき切ったのはいいものの、二階屋から落下したような衝撃が全身を貫く。

 両の足で着地はしたものの、衝撃を殺し切れず、前方に二度、三度と転がる。

 全身土まみれになりながらも、何とか止まることはできたようだ。

 が、体に力が入らない。

 ほぼ真横を向いた、そのままの態勢で

 

 「っぜぇ、はぁっ、ぜぇ、はぁ」

 

 と、浅い呼吸を繰り返す。

 全身が空気を求めているにも関わらず、呼吸はうまくできない。

 それでも、そうして暫し苦しみ続けていると、なんとか呼吸が出来るようになってきた。

 それとともに、体にも少し力が戻ってくる。

 手を動かし、正常に動くことを何とか確認してから、渾身の力でもって、仰向けに寝転がる。


 「っっっっはぁぁ、あ゛あ゛ぁ、、、ぎっっづ」


 喉は涸れ果て、嗄れ声しか出ないのは分かっていたが、それでも叫ば(?)ずにはいられなかった。

 そのまま、空を見上げながら、息を整えること数分。

 なんとか全身の感覚が戻ってきた。

 悲鳴を上げる体を叱咤しつつ、何とか立ち上がると、宝箱の方を見やる。


 そこに宝箱はあった。

 触手の残滓が、箱の隙間から薄くはみ出し、ユラユラ動いてはいるものの、動きとしては完全に止まっているようだった。

 本来であれば、奥の手を警戒しながら、再生のいとまも与えず開錠するものではあろうが、満身創痍のこの状態では打つ手がなかった。

 その間に再生されてしまっていれば、もう手詰まりだっただろうが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。

 

 宝箱に向かって一歩踏み出す。

 それだけで、崩れ落ちそうになる体を気力だけで支えて更に、一歩、二歩。

 そうやって時間をかけて何とか、宝箱のもとまで辿り着く。


 1メートルはあろうかという大型の宝箱。

 俺が目の前に到達しようと、漏れ出た触手が何かを起こす気配はない。

 

 それを確認して、崩れ落ちる様にその鍵穴の前に座り込む。


 そして、姿勢を正して、両手を胸の前で合わせて意識を、手に集中させる。


 「創鍵」


 俺の呟きとともに、合わせたての間に光が生まれ、そして消える。

 手をほどくと、、、、

 俺の右手には、黒字に銀のラインが描かれた鍵が握られていた。

 宝箱の外見と似たようなその装飾の鍵を静かに、鍵穴に差し込む。


 瞬間、先ほどまで蠢いていた、触手が消える。


 そして、右手で鍵を回しながら、静かに呟く。


 「開錠」

 

 と。

 すると、


 ガチャン


 重々しくもどこか小気味よい音を響かせて、錠が外れた音が聞こえる。

 と同時に、

 

 ギギギギギ


 とわずかな軋みを上げながら、ゆっくりと宝箱の蓋が持ち上がる。

 その光景を眺めること、十秒ほど。

 宝箱は完全に開ききった。

 

 そして、その中に収められていた物は。。。

-------------------------------------------------------------------------

 宝箱の開け方?


 そりゃぁ、おめぇが正式に受けつぎゃ、自ずとわかるってもんよ。

 普通は、宝箱の錠の前まで行って、


 「創鍵」


 っていやぁ、刺青のある方の手の中に鍵が出てくるがな。

 まぁ、うちの一族は変わってっかから、創鍵の前に、両の手合わせたりしなきゃなんねぇが。

 え?なんでって?

 そりゃ知らんが、多分両手に力を分けたことで、片手じゃぁ鍵を創れなくなっちまったんじゃねぇか?

 本末転倒ってのはこのことだよな。

 

 で、まぁ、鍵さえ創っちまえば、こっちのもんで、鍵穴に鍵を差しこんで回すだけ。

 鍵さえさしゃ、触手も襲ってはこねぇ。


 そうして、あとはお宝を御覧じろってな。


~とある男の独白より~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る