第17話 黒剣
宝箱の中には二本の長剣が納められているように見えた。
だが、一般的な意匠とは明らかに異なる、それら。
一本は片刃で漆黒の刀身。
1メートル近い刃渡りのその剣は、深山幽谷の先に人知れずある湖の、闇夜を映した湖面を彷彿とさせ、意識が吸い込まれそうになるほどの美しさを湛えており、、、
…
…
「な゛、ん゛だこりゃ?」
思わず声が出た。
いや、声を出さなくてはそこから意識をそらせなかった。
一体、どのくらいそれを眺めていたのだろうか?
自分が止まっていることを意識できるまで、そのことに全く気付くことができなかった。
「っぶねぇ。っっんだこり゛ゃ。」
慌てて顔を背けつつ、俺は独り言ちた。
見るだけで意識を奪われるなんて、どんな宝具だよ?
そう思いつつ、それは極力見ないようにして、もう一本を見る。
こちらはどうやら、革でできた筒のようだった。
黒い革でできたその筒は、剣のほうの刀身とほぼ同じ長さ。
黒の中に銀の点のような意匠が散りばめられ、一見星空のようにも見える。
非常に美しいつくりであるのは同じだが、こちらは意識を持っていかれる、なんてことはなさそうだ。
そこまで考えてふと思う。
基本、宝箱に宝具は一つ。
とすれば、これらは二つで一つの宝具なのかもしれない。
そう思い、両の手に自分の着ていたぼろを巻き付け、取り出してみることにする。
先に筒を手に取り、極力刀身を見ないように剣の柄を持つ。
さらに筒の入り口に向け、刀身を滑り込ませるように入れると、
キンッ!
小気味よい音を立てて、筒の中に刀身はすっかり収まった。
「あぁ、な゛るほどな゛。んな、あぶねぇもん引っ提げて、まち゛な゛がなんで、あるげねぇよな。」
刀身が隠れたことに安堵の息を吐きつつ、右手の布を外す。
独り言ちる度に喉のカスレも徐々にだが回復してきたようだ。
「でけぇが、これなら片手でもてるがらい、、っと」
そう言いながら、肩に担ごうとしてバランスを崩す。
とり落としそうになった剣を、思わず右手でつかもうとして、
「やっべっ」
はじかれると思った刹那、右手はすんなりと黒い筒を掴んでいた。
「お゛?」
普通につかめたことに驚きの声が漏れてしまう。
「ぞうか、こいつと同じか。」
そう思いつつ、腰に付けたままになっていた鈴に触れる。
終ぞ使う機会はなかったものの、俺に使える唯一の宝具である。
そんな軽い感慨に浸りながら、改めてよく見れば、筒からは細いひもが出ており、肩から担ぐこともできそうなことに、気付く。
「至れり尽くせりだな゛。じゃぁ、もしかして俺にも武器が、、、」
そう思って、柄に触れようとすると、、、
「っつぅ、ま、んなにうまくはいがねぇはな」
はじかれた右手を見やりつつ、紐を肩にかけつつ、筒を背負う。
と、紐は俺の体に巻き付き、絶妙の力加減で筒を俺の体に固定してくる。
どうやら、この筒の権能はこういうものらしい。
空になった両手がきちんと動くことを再度確かめ、自分の頬を軽く張る。
「っし、じゃぁ、あいつらをぶん殴りに行くか。だが、まずは水だな。」
自分に喝を入れつつ、ゆっくりと歩き出す。
森に入る手前に、再度激戦の地を振り返る。
そこには開いた宝箱はとうに跡形もなく、静かな夜空だけが広がっているのだった。
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さてと、いろいろ話しちまったが、他に聞きてぇことはねぇか?
大丈夫?
連れねぇやつだな。
だが、またなんかあったらくりゃいいさ。
俺は当面ここを動けそうにねぇしな。
あん?
それが宝具かって?
まぁ、そうだな。
見たい?
いや、やめといたほうがいいと思うぜ?
綺麗ではあるがよ?
まぁ、そこまでいうなら、、、
な?きれいなもんだろ?
って聞こえてねぇか。
キンッ
澄んだ音色があたりに響く。
驚いたように目を見開く子供の顔が、どうしようもなく可愛く見えて、俺は期せずして笑みをこぼすのだった。
~とある男の独白より~
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