第18話 帰還

 正直、ここがどこかもわからねぇ。

 

 森の外を目指し、逃げに逃げてはきたものの、今はなんとしても水が欲しかった。

 そういう訳で、俺は今、劉河を目指して歩いている、つもりだ。

 幸いにも星が出ているせいで、大まかな方向は分かる。


 分かるのだが、代わり映えのない森の中、終わりもわからずひたすらに歩き続けるというのは、精神的にかなりきつい。

 

 その上、全身の疲労と喉の渇きが絶えず襲い掛かってくる。

 

 「ぜぇ、はぁ、正直、もう、限界だ。」

 

 思わず声に出してしまったが、声に出した瞬間、急に体が重くなる。

 辺りも暗くなってきて、世界がまわ、、、

 

 ・


 ・・


 ・・・


 「ん、ぁ」


 なんだ?

 体が重い?

 俺はどうしていたんだっけ?

 ここは、、ああ、そうか、俺は歩き疲れて、、、


 そう認識した瞬間、俺は微睡から抜け出た。

 途端、音が、感覚が戻ってくる。

 

 たちこめる草と泥の匂い。

 虫のなく声、こずえの鳴る音。

 それらが一気に押し寄せてきて、世界が回ったような気になる。

 目を閉じ、それらを何とかやりきると、再度目を開ける。


 仰向けで寝ころんだ先、視界を遮る枝葉を透かした先には夜空が広がっていた。


 「俺は、いったい、どのくらい眠っていた、んだ?」


 声はどうやら少しまともに出るらしい。

 体も痛いが、動く。

 それを確かめてから、ゆっくりと立ち上がる。

 ふらつきはするものの、どうやら歩くことはできそうだ。

 

 そう実感したところで、ふいに水音に気が付く。

 俺はその音に従い、歩を進める。

 剣を支えに一歩一歩ずつではあるが、確実にその音との距離は縮まっていくのがわかる。

 水の流れる音、さっき(?)はどうして気が付かなかったのだろうと思うほど、その存在を主張する音はどんどんと明瞭になっていき、やがて、、


 「着いた。劉河、だ。」

 

 轟轟と流れる大河がそこにはあった。


 ・


 ・・


 ・・・


 喜びもそこそこに、いや、そんな感情に気づく間もなく、俺は服を脱ぎ棄て、川へと入る。

 冷たい流れが心地いい。

 だが、それ以上に、喉が、体が水を欲していた。

 体を沈め、川の水を口内に導く。

 村のちびどもには、川の水はそのまま飲んじゃいけないなんて教える立場にもあった俺だが、そんなことは知ったこっちゃない。

 というか、ハンターやってた頃なんざ、もっとひどい水を飲んだこともあったんだ、今さらそんなことは気にしてられねぇ。


 そうして、川の水を堪能すること暫し。

 俺は我に返ったように、顔を上げた。

 

 「っぷ、はぁ、生き返った。」

 

 そう叫んで立ち上がった途端、足が滑って、尻もちをついてしまう。


 「、、はは、ほんと満身創痍だな。情けねぇ。」


 自嘲の乾いた笑いが思わずこみ上げる。

 力なく、そうしていると、不意に「ぐぅ」と腹が悲鳴を上げる。


 「、、まずは腹ごなしから、か。」


 そう思って俺は、川から上がった。


 その後、火をつけ、服を洗い、釣りの準備を進めるのだった。

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 いや~正直、あの時ほど死ぬと思ったことはなかったな。


 基本、ハンターの戦いってのは下調べをし、準備をしたうえで行うもんだ。

 もちろん、それでもこりゃぁ無理だって思う瞬間や考えてもみなかったようなことが起こることはあるが、それでも人間心構え一つで何とでもなるもんだ。


 けど、あんときは裏切られたうえに、ひでぇ戦いを演じ、その上迷子ときたもんだから、もうどうしようもなかったな。

 

 それでも何とかなったんだから、人間どうなるかわからんもんだ。


 んで、おめぇがハンター目指すんなら、まずいえることは人を見る目を養えってこったな。

 じゃねぇと、俺みてぇに何もかもを失うことになっちまう。

 

 あと、川の水は飲むな。

 あんときはホント、緊急事態で、運もよかったから何とかなったが、なにが入ってっかわかったもんじゃねぇからな。

 出来れば、透明かどうかを見極めて、間違いなく火を通してからのむこった。

 

 普通に川臭ぇしな。


~とある男の独白より~


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