第19話 絶望

 釣った魚を喰い、人心地ついた俺は火の傍で再度眠りについた。


 そうして迎えた朝。

 

 「くっ、、、あ~~~、ってててて。」


 伸びをすると共に全身に痛みが走る。

 だが、それでも大分動けるようになった実感はある。

 幸い、腹を下したりもしていないようだ。


 「さてっと、じゃぁ、はじめっか。」

 

 そう一人気合を入れて、朝食用の釣りを始める。

 暗闇で作った簡単な釣り道具ではあったが、まだ朝もしらしら明けで、蜘蛛を生餌に使った所為か、食料の確保には困らなかった。

 そんなこんなで、腹を満たした俺は一路、上流を目指すのだった。


 ・


 ・・


 ・・・


 「くせぇ」


 物が焦げる臭いが、風に乗って流れてくる。


 あれから丸半日。

 ただただ上流を目指して歩いてきた。

 木々の感じがなんとはなく、見知った様相を呈し始めてから、ずっとこの臭いが付きまとってくる。


 「っはぁはぁ、ったく、この何かが焼け焦げた臭いは何なんだ。」


 不安を紛らわすために、独り言ちてみるがそんなもんは全くと言っていいほど効果がなかった。


 一歩進む毎に、募る嫌な予感。

 否応なしに、ハンターをやっていた中で見た、滅びた村の臭いを思い起こしてしまう。

 宝箱に喰われ、燃やされ、消えてしまったもう名もなき村。

 あそこで手に入れた宝具は何だっただろうか?

 そんなことをぼんやり考えながら歩き続けると、やっと見知った景色が見えてきた。

 いや、見知ったなんて軽いもんじゃない。

 思い出すだけで、あいつらへの怒りで目の前が真っ赤になるほどの景色。

 そう、俺はようやっと、つい先日突き落とされた劉河砲、その台座が見える位置にまでたどり着いたのだった。


 だが、今はそんな怒りなぞより、どんどんと積みあがってきたこの嫌な予感の方が圧倒的に俺の胸中を占めている。

 だから、一筋の安心感を求めて、木立の隙間から空を仰ぎ見る。

 空、正確にはここからは見えないながらも、村があるはずの方角の空を俺は、、、





 そこには青空を背景に一筋、灰色の煙が立ち上っていた。





 そこからどうしたのか?

 そんなことは覚えちゃいない。

 体の痛みも、ぶつかる枝も関係なく、ただがむしゃらに、走って走って走りぬいたことだけは覚えている。

 ただ一心に、


 「スズラン、ナタク、どうか、どうか無事でいてくれ」

 

 そう祈りながら。


 だが、稜線を越えて俺が目にしものは、そんな祈りを嘲笑うかのような、最悪の光景。


 燃え落ちた村。


 柵は壊され、畑は見るも無残に踏み荒らされている。

 家畜舎はもぬけの殻のようで、その周りには鶏の羽根が風に舞っている。

 そして家だったものは、墨と化し、うっすらと白い煙を上げている。

 その煙と土ぼこりがない交ぜになって、空へ。

 

 灰色の煙となって立ち上っている光景だった。


 「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ、、、、」


 誰かが遠くで叫んでいる。

 耳元で聞こえるその声は、果たして俺の物だったのだろうか?


 そこからの記憶はもっと曖昧になり、

 次に気が付いた時には、


 「は、、、ははっ、、冗談、きっついぜ。」


 俺はまだ白煙くすぶる我が家の前で、膝をついて呆然としていた。

 

 扉は破られたのか、燃えずに外に落ちていた。

 壁は焼け落ち、黒い木組みだけになった家は、ゆがんだ柱でどう支えているのかわからないながらに、それが家だったことだけは辛うじてわかる。

 庭を囲っていた木柵は大部分が壊れ、その向こうに見える小さいながらも、俺が手をかけてきた畑は無残にも踏み荒らされている。


 俺はふらりと立ち上がり、


 「スゥ、ナタ、いるなら返事を、、、」


 一歩、二歩、だが、もう一歩踏み出そうとしたところで、不意に風が。


 と同時に、黒い口を開けていた玄関だった木枠がぐにゃりと曲がる。


 伸ばした指の先、我が家だったものは音を立てて崩れ去った。


 「あ、」

 

 その先は声にはならなかった。

 崩れ去る音と、土ぼこりそれにかき消されたためだろうか?

 景色は歪み、力の入らなくなった脚は俺の言うことを聞かずに、膝から崩れ落ちた。


 ・


 ・・


 ・・・


 気が付くと、見上げる曇天からは雨が降ってきていた。

 さっきまであんなに晴れていたのに。


 ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は日常が終わったことをしったのだった。

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 おっと、寝ちまったか?

 

 っとに、ガキっつぅのは現金なもんだな。

 だが、まぁ、こんなガキでもきっと色々考えちゃぁいるんだよな。


 俺のガキの頃は、ずっと外で遊んでたような気がするなぁ。

 虫やら魚やらおっかけてな。

 今思うと、結構悪ガキだったのかも知んねぇなぁ。

 兎や鶏逃がしたことも一度や二度じゃねぇし、行くなっつわれた川下への探検もしたなぁ。

 そのころはキンとギンとホント、バカばっかりやってたなぁ。


 思い出してみると本当に懐かしい。

 あいつら、元気にしてやがるかなぁ?

 今頃何してやがるんだか?


 何してても構わねぇ。

 探し出して、追い詰めて、絶対に、、、 


~とある男の独白より~

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