第38話 皆伝

「あーもう文句はねぇよ。」


 呆れた俺は二人を前にしてそう言う。


 二人の演武を見せられてから、さらに二月。

 最終的な型を一通りわかっている前提で進めた特訓は、、、まぁ、多分二人にとっちゃぁ地獄のようなもんだったと思う。

 人の身体は、無意識には動かない。

 いや、無意識に動かすレベルでは、本来の力を発揮することができない。

 細部の体の使い方や、重心の移動、息継ぎの方法など、それらを意識してできるようになって初めて、武といえる。

 従って、それを頭と体両方に叩き込んでやる必要があるんだが、これは本来簡単な技を一つづつ覚えていき、その中で体に教え込んでいくものだ。

 が、こいつらは先に技を覚えてしまった。

 普通は覚えてたって使えないことが多いのだが、二人は天賦の才か、使えてしまっていた。

 だから、教え込んだ。

 中途半端が最も危ない。

 だから、十に満たないチビどもに、俺の全てともいえる極意を。

 結果、バケモンが出来上がってしまったわけだが、まぁ、これはご愛敬ってやつだ。本人たちには言わねぇがな。

 いや、俺も途中から正直やりすぎかなぁとは思ってたんだ。思ってはいたが、面白いように育つもんだからついつい加減を忘れちまった。

 攻めのモクランに、守りのタク。

 もしかしたら、二人合わせりゃ、全盛期の、A級と呼ばれ有頂天になっていたころの俺すらも超えるかもしれない。

 そう思わせるだけの才が、努力が二人にはあったんだ。


「はぁ、はぁ、あ、ありがとう、ございましたっ!やったね、タク!」

「ぜぇ、はぁ、、、う、うん。、、、あ、ありがと、ござい、ます。」

「ああ、これででかくなって力も付きゃ、多分おめぇらにかなう奴なんていなくなるんじゃねぇか?」

「ほんとっ!ミクおじでも?」

「ああ、そうかもな。でもな、勘違いしちゃいけねぇ。上には上がいる。俺に勝てても、俺よりつえぇのには勝てないかもしれん。だから、訓練は怠るな、組手も続けろ、だが、それ以上に何かあったら、、、いや、ある前に、まず逃げる、それを肝に銘じろ。いいな?」

「、、、うん。」

「え?戦わないの?」

「あたりめぇだ、そうやって調子に乗ってる時が一番あぶねぇんだ。それにな、お嬢、さっきも言ったが世の中、技術はお嬢たちほどじゃなくても、つえぇやつはたくさんいる。そういう奴らが必ずしも正面切って戦ってくれるとは限らねぇんだ。」

「えー」


 俺に認められたのがうれしいのか、すぐにでもほかのやつと戦いたいって感じが見た目でもわかっちまうほど、そわそわしている、お嬢。

 この攻めッ気は、あの陰湿な薬師のもんだろうか?とつまらんことを考えつつ、一応師匠らしくくぎを刺すことにする。


「そうだなぁ、お嬢、剣って武器を持った相手の倒し方は教えたな?」

「型の六十?いなして、ちかづいてもつてをえいってやるやつね?」

「そう。もうお嬢は俺やタク相手なら、間違えずに剣を落とすところまでできるだろう。でもな、本当に剣持って、殺そうとしてくる相手には多分そうはいかない。」

「えーなんでぇ??」

「、、、こ、こわいから?」

「そう、こえぇんだ。殺気っつってもいいのかもな?剣も切れるし。マジでこえぇ。ただ、こればっかりは実際に戦って、それを乗り越えた経験でしか、克服できねぇもんだ。」

「え?なら、たたかってみないと、、、」

「ったく、なんでお嬢はそんな脳筋になっちまったんだよ。こえぇ思いをしたくなけりゃ逃げろって話だ。こえぇってことは、あぶねぇってことだ。死にたくねぇなら、まず逃げろだ、わかるな?」

「むぅ。」

「ま、こんな世の中だ、こればっかりは逃げ続けててもあたりをひいちまうことがあるかもしれねぇ。それでもまず逃げる、それが俺からいえる生き抜くコツだな。」

「にげられなかったら?」

「それでも逃げる。逃げる道を考える。」

「えーじゃぁ、たたかうのはいつー?」

「逃げて隠れて、相手が油断した後、だな。油断した相手を一発で仕留めろ。」

「えーそれってかっこ悪いよ、すっごく。」

「いいんだよ、それで。まぁ、それが出来なきゃ相手が本気なる前、だな。」

「どっちもかっこわるいんだけどぉ?」

「まぁ、今はそう思うかもしれねぇが、それが長生きする秘訣ってやつだ。」

「ぶぅ、せっかくがんばったのにぃ、、、」

「頑張りは嘘はつかねぇよ。何かあった時に信じられんのは自分の頑張りだけだ。でもな、どうしても戦わなきゃいけねぇ瞬間てやつも、もしかしたらあるかもしれねぇがな。」

「え?どんなどんな?」

「どんなって、そりゃおめぇ、、、」

「、、、だいじなものを、まもる、とき。」

「っ、タク、おめぇいうようになったじゃねぇか!男はそうでなきゃいけねぇ。」

「もう、わかんない。」

「まぁ、お嬢もそのうちわかるときがくらぁな。」

「、、わっ、わっ、あわわ」


 そういって、ぶーたれるお嬢をなだめつつ、タクの頭を強くなで続けるのだった。

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