第37話 演武

 あれから、毎晩欠かさず、タクは通ってくるようになった。

 はじめは何を話したらいいのかわからなかった俺だったが、気付けば本当に色々なことをチビどもに伝えるようになっていた。

 まぁ、あいつらの食いつきが思いのほかよかったせいで興が乗っちまったってのが、原因だ。

 そして、半月も過ぎる頃には話だけじゃなく、実践まで始めちまった。

 始めは生き抜くための森などで食えるものを探すコツや寝床の作り方などに始まり、気がつきゃ、宝箱相手の戦い方のレクチャーにまでなっていた。

 まぁ俺が教えれんのは体術だけなんだがな。


「ぅらぁ!!、、、ほぉ、こいつもさばけるようになったか。タク、おめぇ、なかなか筋がいいなぁ」

「、、、はぁ、はぁ、あ、、りが、と。」


 あっという間の三か月。

 それでも二人は驚くほどに上達していた。

 本気、ではないにしろ、俺と組手ができるほどには、だ。


「だが、まだまだあめぇ。攻撃するときの呼吸が途中からめちゃくちゃだし、力の入れどこ、抜きどころが雑だ。受けの時は大分いいんだがな。そして、それより何より、ほそっちぃ。まぁ、こればっかりは喰って寝て、歳を重ねるしかねぇがな。ただ、まぁ、その歳でここまで出来りゃ、及第点だ。」

「、、、う、うん、でも、、、」

「ねぇねぇ、ミクおじ!モクランは??」


 タクに話しかけていると、横でピョンピョンはねながら、モクランが手を挙げる。


「あーうん、お嬢はもうほとんどいうことがねぇんだわ、正直。教えた型はほぼ完ぺき、体の動かし方も悪くねぇ。力はともかく、俺の七割くらいの速さまで、着いてこられる。もう後は体が出来りゃ、素手の人間相手にゃ負けねぇんじゃねぇか?」

「ほんとっ!やった!」

「(というか、お嬢ならタクに渡した本、もしかしたら使いこなせんじゃねぇか?なんてな。)」

「ん?なぁに?」

「あ、いや、お嬢が男だったら、な、と思ってただけだ。」

「あ、なにそれ、酷い。そぉいうの良くないのよ!」

「ああ、いや、そぉいう意味じゃねぇんだが、、、なんというか、男ってのは力がつきやすいもんなんだ。だから、力をあてにしたバカも多少効くわけでな。そんな無茶な戦い方で宝箱をぶちのめす為の方法を書いた秘伝の書ってのがあって、、、」

「え?これのこと?」

「そうそう、そんな感じのきたねぇ、、、って、はぁ?」


 そう言ってモクランが荷物から出した綴りを見て俺は唖然とした。

 そして、タクを振り向くと泣きそうな顔で、


「、、、ご、ごめ、、、」

「タク、、、おまっ、それは、男と男の、、、」


 呆れて言いつのろうとする俺をモクランの一言が止める。

 

「でも、この本の中身ならモクランもタクもほとんでできるけどね?」

「・・・は?」


 再度俺を振り向かせたモクランは、やおら呼吸を開始する。


 「・・・ふぅぅぅ。いくね?」


 そう言ってモクランが見せたのは、本に書かれた攻撃手法を順に繋げた演武のようなもの。

 しかもそれを一通り見せた後、


「ほら、タクも。」

「う、うん。」


 というや、次は二人一組で演舞を始める。

 タクに渡した書に書かれているのは宝箱を鍵士一人で討滅するための、攻撃手法。

 一族の秘伝とされているそれだが、ぶっちゃけると宝箱と反発する鍵士の力を使って、攻撃をいなし、力の限りぶん殴るってだけのもんだ。

 だが、場合によって攻撃の手法を変えたり、受けからのつなぎがあったりと、それこそ俺の代になるまでに蓄積されたすべてがそこには書いてあった。

 一朝一夕なんかでは身につくはずのないそれを、モクランが攻め、タクが受けるといった形で、二人は見事に再現して見せた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、どう?ミクおじ、驚いた?」

「、、、ぜぇ、はぁ、ぜぇ、ど、ぜぇ、です、か?」


 すべてを終わらせた二人は息を切らしながら、こちらを見上げてくる。


「・・・あ、ああ。」

「あ、あれ?すごく、ない?」

「、、、も、モクラン、やっぱり、ダメ、だったん、だよ。」

「あ、いや、単純に驚いちまってな。」

「ホント!?やった!ほら、タク、おどろいたってよ!」

「、、、よ、よかった、の、かな?」

「い、いや、ホントすげーと思うわ。まだ信じられん。おめぇら、どうやって、、、」

「え?どーやってって、、、ずっとやってただけだよね?」

「、、、う、うん、ずっと。」

「んな、簡単なもんじゃねぇんだが。」

「それにね、ミクおじ」

「なんだよ。」

「秘密にしたいなら、タクに難しい字の書いた本渡しちゃだめよ?タク、字を読むの上手にできないんだから。」

「んなっ」

「、、、う、でも、むず、かしくて、、、」

「だから、モクランが手伝ってあげたのよ。ここにいるときと、寝てるときのほかはずぅっと、二人でとっくんしてたものね?」

「ずっとって、、マジでずっとじゃねぇかよ。」

 

 あきれ果てた俺の顔が面白かったのか、「にししし」という声が聞こえそうなほど満面の笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでいたモクランは、そのまま振り向くと、


「やったね、タク、ミクおじびっくり作戦だいせいこう!」


 とタクに抱き着くのだった。


「あ、わわわ。」


 モクランを受け止めきれずに倒れるタクを見ながら、俺はどんな顔をすればいいのかわからぬまま、呆然と立ちつくすのだった。 

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