第36話 融和
「、、、な、くし、、たの、、?な、んで?」
「あーそいつはな、英雄ごっこがしたかったんだよ。だから頑張った気になって、自分を騙して、人に騙されて、、、そんなんで、走って走って走ってたら、気が付いたら一人ぼっちになってたんだ。一人になって、やっと自分の大切だったものに気が付いたんだが、そん時にゃもう大事なものなぁぁんも残ってなかったんだよ。」
「、、、かな、、しい、ね」
「そうだな。ホント、そうだわな、馬鹿すぎて、悲しいわな。」
「、、、ちが、ちがう、よ。頑張ったのに、いっぱい、走ったのに、、一人ぼっちは、、かなしい。」
「っ、、、はっ、そうだな。」
俺はそう言ってタクの頭を乱暴に撫でた。
いや、撫でることしかできなかった。
「、、、ぅ、いた、い、よ。」
「ばぁか、こんなもん、いてぇに入らねえよ。」
潤む景色に、不思議とこいつの姿だけははっきりと写った。
撫でるうち、さっきのイライラが嘘のように引いていき、助けてやってもいいかな、という気持ちになるんだから不思議なもんだ。
そう思いつつ撫で続けていると、
「、、、うう、、もう、やめ、て。」
と、払われてしまう。
少し名残惜しさを感じつつ、
「ほぅ、少しはやるじゃねぇか。んでもな、おめぇはそのうちこんなもんとは比べ物にならねぇくれぇ、おっかねぇもんと戦わなきゃいけなくなるかもしれねぇぞ?鍵士として生きるならな。」
「、、、たから、ばこ?のこと?」
「そうだ。」
「、、、たからばこ、、って何?」
そこからは何故だか話がどんどんとスムーズに進むようになった。
相変わらずの吃りはあるものの、それでも会話にならないということはなかった。
まぁ、俺の方に心のゆとりってやつが出てきたせいもあんのかもしれねぇが。
宝箱の事、鍵士の事、宝具の事、とりとめの内容で尽きることない話を続けるうち、どうやら相当な時間が経っていたようだ。
話の流れで、奥義書(?)なのか、俺が親父から譲り受けた先祖伝来の本もタクに託すことにした。
まぁ、ナタクに渡すのは、、、だからな。
そんなやりとりをしていると、戸外からせわしない足音が聞こえてくる。
そして、慌ただしく扉が開かれる。
「二人ともお待た、、、って、どーしたの?随分仲良くなってるみたい?」
こちらをみて、急に面食らうモクラン。
雰囲気を感じ取れるのは流石というかなんというか、とりあえず、
「ん?ああ、まぁ、な。男と男の秘密ってやつだな。な?タク?」
と誤魔化しておく。
タクもそれに倣ったのか、おどおどと答えを返す。
「、、、う、、うん」
「んもう!何よ、二人して!モクランをのけ者にしないの!、、、って、タク、笑ってるの!珍しい!」
驚いたモクランが、タクににじり寄る。
その勢いのまま、タクの頬を両手で挟むと、徐に潰したり伸ばしたりをし始める。擬音語で例えるならムニムニと、それはもう執拗に。
「、、、む、にゃ、もきゅ、らん、や、やめ、」
タクはかろうじて抗議の声を上げるも、モクランはやめる素振りも見せず、真剣な顔でムニムニを続ける。
どのくらいそうしていただろうか?
案外短い時間だったような気もするが、どうやらそれに耐えられなくなったのであろう、タクが
「、、、むにぁ、も、、もう、やめ、て!!」
そう言って、モクランの手を振りほどく。
すると、モクランは驚愕の表情を浮かべ、
「っっ!タ、タクがふりょーになっちゃった!」
と涙目になる。
「、、、え、ふ、ふりょー???」
「こんな、こんなことするタク、タクじゃないわ、えーん。」
「、、、な、な、ど、どぉし、、、」
「くっくっ、あはっはは」
そんな二人を見て、ミクラはたまらず笑い始める。
笑うミクラに更に目を皿のようにしてオロオロするタクと、涙目で抗議するモクラン。
「っぐす、笑いことじゃないわ!タクにえいってされるなんて、今までなかったのに!ミクおじのせいよ、絶対、ふりょーよ、ふりょー」
「、、ぼ、ぼく、ふりょーじゃ、、、」
「あはは、わりぃわりぃ、お嬢、男ってのはな、ある日突然変わっちまうもんなんだ。いいんだよ、タク、おめぇは間違っちゃいねぇ。男なら嫌なもんは嫌といえなきゃな!」
「な、なによ、それ、わからないわ。」
「いいんだよ、わかんなくって、な、タク?」
「、、、え、あ、うん?」
「ん、もぅ、タクまで!でも、本当にどうしたの?急になかよしになっちゃって?」
まだ少し涙目のモクランが、恨めし気に問うてくる。
それをきっかけに、まずはその日の話の復習を始めるのだった。
恥ずかしい部分や面倒なところは大分かいつまんで話したつもりだが、タクと違ってモクランは大分オーバーリアクションだったりしたせいで、結局同じくらい時間がかかったような気がする。
その日は初日にもかかわらず、大分夜遅くになってしまった。
心配した薬師が、顔を出したことで、解散とはなったのだが、結局その日から毎日、この講習会(?)は続くことになるのだった。
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