第39話 依頼

 チビ共を認めてやってから半月程。

 俺がここに流れ着いてから、もうすぐ半年が過ぎようとしていた。

 俺はチビどもを師事する傍ら、薬師の手伝いをしながら日々を過ごしていた。

 まぁ、おかげで、弱り切っていた身体も本調子以上に仕上がった実感はあるんだがな。

 そんな折、急にモクランが村を案内すると言い出した。


「な、なんだよ、お嬢。急にどうした。」

 

 いつも通り、勢いよく小屋の扉が開かれたかと思いきや、開口一番「おさんぽいくよー」と言われ、俺は面食らっていた。

 珍しく薬師もそれについてきており、、、

 正直、面倒ごとの予感しかしねぇ。

 だが、聞かねぇ訳にもいかねぇから、仕方がなく、本当に仕方がなく、聞いてみた。

 結果、お嬢はあっけらかんと、


「ミクおじ、ここに来てからおうちから出たことなかったでしょ?だから今日はいろいろをあんないしてあげようと思って。」


 と、さも他意がなさそうに答える。

 いや、正直ねぇんだろうな。

 あるとすりゃ、そうそそのかした、後ろの奴にあるのは間違いねぇ。

 そう思いつつも、まずはお嬢に興味がない旨を伝えてお引き取り願おうと、


「いや、俺は別に、、、」

「だって、ずっとおうちの中じゃ、きぶんがどよぉーんってなっちゃうでしょ?」

「いや、別にならんだろ。おめぇらと日がな遊ばされて、身体は動かしてるしよ。それに家の中っつっても、無駄に広いこの庭の世話させられてんの俺なんだぞ?その上、掃除洗濯、調合の手伝いまで、毎度毎度フラット現れては、一宿一飯の恩がどーのこーのと泣き落としに来る奴の所為で、どよぉーんとする暇もねぇっつの。」

「ははは、いやぁ、助かっていますよ。」


 と、お嬢の背後で全く悪びれる素振りもねぇ、イケメンが微笑んでやがる。


「笑いごっちゃねぇ。この腹黒薬師。」

「まぁ、でも、この半年で大分ほとぼりも覚めました。モクランが色々と村で話をしてくれているせいもあり、外人そとびととしての忌避感は大分薄れていると思いますよ?モクランの供としてなら、間違いなく受け入れてもらえるでしょう。」

「そうなのよ!モクランいっぱいお話してるんだから!」


 ニコニコと俺を外に連れ出そうとする二人を見やり、俺は観念したように薬師に向かって問いかける。

 もう、正直腹の探り合いじゃぁ、こいつをどうこうできる気がしねぇ。


「そうかよ…で、本音は?」

「ほんね?モクランは、ミクおじとお散歩がしたくて、、、」

「そうですよ、私もミクラに気分転換の機会をと、、、」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「はぁ、やはり貴方は鋭い。そして、私の口から聞くまでは動く気はない、そういうことなんでしょう?」

「えっと、モクランはねぇ。」

「仕方がありません。モクラン、申し訳ないのですが、もうすぐタクが来ると思いますのでお迎えに行ってきてもらえますか?ミクラは私が説得しておきますので。」

「えっ?でもぉ、、、はぁい。」


 薬師に退出を促され、さっきまで興奮した狐犬の様に尻尾を振っている幻想が見えるほどうきうきしていたお嬢の表情が陰ってしまう。

 こういうところ、空気が読めんのは本当にできた童女だと思う。

 お嬢が戸外に消えると、少し声のトーンを落として、薬師が話始める。


「さて、どこから話始めましょうか?」

「導入なんざいらねぇ、やって欲しいことと理由、それだけだ。こちとらお嬢を待たせてんでな。」

「わかりました。単刀直入に言います。貴方には村長むらおさに探りを入れて欲しいのです。」

「ほぅ。その心は?」

「ここ最近、いえ、この一年ほどでしょうか?様子がおかしいのです。最初は違和感だけでした。少し色々なことへの関心がなくなっているのでは?と。それが徐々に強くなり、嫌な想像が確信に近くなった頃には、私は完全に距離を置かれるようになってしまっていました。」

「・・・続けな。」

「私は彼の父、祖父には大変お世話になりました。もちろん、彼の事も幼少の頃からよく知っています。そこまで社交的ではないが、実直で信のおける者です。ですが、最近の彼は生来のそれ以上に、人を避けるようになってしまいました。それも異常なほどに。そのくせ、夜頻繁に外出し、大きな袋を持って帰ってくるところを幾人もに目撃されています。」

「てぇことは、つまりてめぇがいいてぇのは、」

「色々と、見聞きしたことをあわせると、」

「「魅入られた」」

「かもしれねぇって、、、」

「可能性が、、、」

「はぁ、おめぇと見解が被るってのはマジでぞっとしねぇな。声まで揃っちまった。でも、まぁ確かに、俺が挨拶したときも相当おかしな素振りだったな。目に生気がねぇっつのか、それなのにやたらとギラギラしてるっつうのかな。」

「ええ、正直ここまで気がつけなかったのは私の落ち度です。まぁ、気が付いていてもどうしようもなかったというのはありますが、、、」

「まぁなぁ、というか、俺はそこまでの情報から宝箱に憑かれているところまで想像できるおめぇの方に空恐ろしいもんを感じるんだがな。憑く宝箱ってのは多くねぇ、ギルドでも知らねぇ奴の方が多いくれぇだ。」

「ふふ、まぁ、それはおいおい。ただ、例え憑かれたとすぐに分かっていたとしても、こんな辺境の村に鍵士は在籍しておりませんし、ギルドに依頼をするにしても村長むらおさの許可が必要です。呼ぶ費用だって、用立てることは難しかったでしょう。」

「まぁたてめぇははぐらかしやがっ、、、」

「正直、手詰まり感があったのです。ですが、そこにあなたが現れた。宝箱を討滅できる唯一の存在が。」

「ってめ」

「正直、鍵士にはあまりいい印象がありませんでした。足元を見られたらとてもではないが、対応はできません。なので、色々と観察させて頂きました。結果、あなたなら、と思うだけの誠実さはモクランたちを通して確認できました。ですので、無理な願いとは承知の上でお願い致します。どうか、村を救っていただけないでしょうか?」


 そういって、薬師はただただ頭を下げるのだった。

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