第2話 悪友

 「おーい、サンゾウ、丁度いいとこに居やがった。ちょっとつらかせや!」


 井戸で、顔を洗ってると、俺に声をかけてくるやつがいる。

 内心、


 「ああ、また朝からめんどくせぇやつが来やがった」


 と思いつつ、水気をぬぐいつつ顔を上げると、案の定、馴染みの顔であった。

 薄い錆銀色の胸当てと、灰色の髪。暗い雰囲気の中にも、ギラギラとした野心を秘めたような瞳をした男がそこに立っていた。

 そして、一番目立つのは右手の甲に大きく掲げられた鍵のタトゥ。


 「ギンか。どうしたんだ?こんな朝早くに?キンは一緒じゃねぇのか?っていうか、お前とキンとギュウで隣村に出たバケモンを駆除しに行ってたんじゃなかったのか?」


 そう訝しみつつ、聞いてみる。


 こいつの名前はギンカク。

 二個上のキンカクと、舎弟扱いのギュウマと三人でバケモンの駆除している、通称、ハンターってやつだ。

 まぁ、俺も昔はこいつらとつるんでハンターをやっていたことはあるんだが、とにかく素行が悪い。ハンターで村の守りだっていうのをいいことにやりたい放題。最初はたしなめつつ何とかやってはいたんだが、関係は悪化する一方だった。

 そんな時、別の村の守りだった嫁さんと出会って、一緒に行動するようになって、なんやかんやでチビができて、そして俺はやつらとは、きっぱり袂を分かったつもりでいたんだが。。。


 「いやぁ、それなんだがな、バケモンは大したことなかったんだが、ちょっとミスっちまってよ、ギュウが寝たきり、キンも今動けねーんだわ。」


 「マジか?まずいじゃねぇか、おめぇらになんかあっちゃ、村の守りがうすくなっちまう。村長だって黙ってねぇだろ。」


 「いや、まぁ、そうなんだがな、だから、おめぇに折り入って頼みがあって、面を貸せって言ってんだわ。な?だから、、、」


 「断る。俺は鍵士は降りたんだ。嫁さんだって、もう宝具士に戻らせるつもりもねぇ。」


 そういうと、俺はさっさと踵を返して、家の方向へ歩き出そうとした。と、


 「…まぁ、そう来るとは思ったわ。すっかり丸くなっちまって。」


 離れ際、そんなような言葉が聞こえた気がして思わず振り向く。

 そのあとには決まって、俺を馬鹿にする言葉が続くはずだからだ。

 だから、この時も反射的に言い返そうとして立ち止まってしまった。


 それが悪手だと気が付いた時にはもう、遅かった。

 俺が振り向いた刹那、急にギンは下手な芝居みたいに大仰な手振りでこういった。


 「おいおい、いいのかい?今、この村に大型のバケモンが迫っているって情報があるってぇのにさ?村の守りの俺たちが負傷している今、誰かが何とかしなきゃいけないんじゃないのかい?ええ?元A級鍵士のサンゾウさんよ?でもなぁ、話もさせてもらえないんじゃぁなぁ、困ったなぁ。」


 周りの家々にも聞こえるほどの大音声。

 周囲の家の中や、朝仕事している連中からは息をのむような気配が伝わってくる。

 それに気づいているのかいないのか、ギンは大仰な手振りの後、困ったかのように手で顔を覆い隠している。

 が、俺からは口元だけが笑っているように見える。


 こいつ、、、最初から完全に嵌める気だったな。


 とは思ったが、反論しないわけにもいかず、


 「っおまえ、こんな街中で、言っていい話じゃないだろ!それ聞いて、みんな逃げ出しでもしたら大パニックになるんだぞ?」


 と抗弁を試みるが、


 「だぁ、かぁ、らぁ、こうして面貸してくださいってお願いしてるんじゃないですかぁ、ね、元A級さん。はなし、聞いてもらえますよね?」


 と強引に押し切られることとなってしまったのだった。


 俺はこいつらのことは嫌いじゃぁなかった。

 確かに横暴で横柄ではあったが、それでも仕事の筋は通すし、悪口以上の絡みはしてこなかった。

 だから、油断していたのだろう。

 そして、気が付いていなかったのだ。

 もう既に、こいつらの中で俺は排除すべきバケモノと同等だと認定されていたことに。


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 宝箱?


 それはな、一見、普通の箱だったり、木製や鉄製、さらには金銀宝石がちりばめられた目がくらむように光り輝いているやつだったり、その在りようは千差万別だ。

 そして、どこで生まれて、何故ここにあるのかを誰も知らない。

 

 でもな、一つだけわかっていることがある。

 それはあいつらは俺が生まれたころにはもうこの世界にいて、、、








 そして恐怖の象徴だったってことだ。






 あいつらは人を食う。

 あらゆる手段で、弱らせ、追い詰め、絡めとり、箱の中に収めてしまう。

 そうなると、収められたそいつは消えてしまう。


 例え、そのあと宝箱を開いてみたって駄目なんだ。

 そして、箱の中から帰ってきたやつを俺は知らない。


~とある男の独白より~

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