第58話 仕掛

 バケモノの感覚は当然、俺らとは違う、と言われている。

 何がどう違うのかはわからないが、どうやらそういうものらしい。


 まぁ、そんなことは俺ら人間だって同じで、隣のやつが何をどう感じているかなんてのは分かりっこない。

 目がいいやつだっているだろうし、耳がいいやつもいる、まぁ、十人十色って訳だ。

 だから、分かんねぇことだらけな訳だが、 ただ、はっきりとしていることもある。


 それは、目は目だし、耳は耳だってことだ。


 そらそうだって思うかもしれねぇが、これが意外と知る人ぞ知るってもんだったりもする。

 そして、これに騙された挙句、食われていった奴らを俺は何人も知っている。

 まぁ、つまりは、バケモンだろうと人間だろうと、目は目だし、耳は耳ってことだ。

 数もそんなに変わらねぇ。

 多分、処理できる情報量の問題ってのもあるんだろうなってのは、親父からの受け売りだ。


 だから、何が言いてぇのかっていうと、、、


 あの四個の目、一見それぞれ機能しているようにみえるが、多分どれかは、、いや、殆どがかもしれねぇが、偽もんだってことだ。

 四個もあって俺を頻繁に見失うってのもおかしな話だ。


 けど、目は目。

 要は見えなけりゃ攻撃できねぇってんなら、潰しちまえばいいって話な訳だ。



・・


・・・


 俺は物陰に隠れながら、ひたすら上へ上るルートを探していた。


 罠は、、、ある程度形になった。

 まぁ、罠っつったって、宝具でもないものをぶつけたところで、あいつらには何のダメージも与えられないってのはその通り。

 こちとら、そんなことは百も承知だ。


 だけど、見るってのを妨げることはできる。


 そんな訳で、俺は家探しの結果、おあつらえ向きのものを見つけていた。

 そいつは大量の麦の粉だ。

 こいつは水とませてこねて焼くと、主食の麺麭になる。

 だから当然どこの家にもおいている訳だが、俺はこれを布にくるんで、ここら一体に仕掛けておいた。

 ビビり玉と一緒にな。

 ビビり玉ってのは少しの振動で、震えだし、最後は爆発して細かい破片になっちまうってぇ不思議な石だ。

 そいつを等間隔でバラまいておいて、この残りのビビり玉を上からまけば、連鎖的に破裂して、簡易煙幕の出来上がりって訳だ。

 当然それだけであいつの目をどうこうはできねぇかもしれねぇが、今日はいい天気で風もねぇ。

 まぁ、何とかなるだろう。

 俺は神様なんてのは信じちゃいねぇが、昔っからこういう時は、こういう言い回しを使うもんらしい。

 そう、まさに神のみぞ知るってやつだな。



・・


・・・


 それは特に何も考えてはいなかった。


 鍵士のにおいを感じた。


 あれは嫌だ。

 本能的に、あれとは相容れないとわかっている。

 だから隠れる。

 攻撃もする。


 でもあいつの周りには同族の匂いをもった人間がいて、邪魔をする。

 だからあれを叩き潰すのは難しい。


 それでも自分は何人もあれらを食ってきた。

 食うたびに自分は大きく、強く、そして賢くなった。

 気付いた時には幻を見せる力だって手に入れていた。

 それからは簡単だった。

 

 自分大きい。

 だから、動くのも大変だ。

 だけど、雌の姿を見せてやれば、人間の雄は何故か助けてくれる。

 飯もくれる。

 それに、面倒になったら食えばいい。

 そんなことをしていると、またあれが来る。

 あれが来ると、人がいなくなる。

 だから、あれを潰した後はまた移動しなくてはならない。

 すごく面倒だ。


 この村に来た時もそうだった。

 自分は前のあれとの戦いで疲れていた。

 食ってはやったが、どこかで眠りたかった。

 だから、遠くに来た。

 遠くの村で眠ろうと思った。


 この村はいい。

 さっき食ったあの雄はいい人間で、寝る場所にも食うものにも困らなかった。

 でも、面倒になった。

 あいつを褒めるのも、夜伽の真似事を魅せるのも面倒になった。

 だから、食った。

 

 幻を解いた時のあいつの顔はよかった。

 あの、、、なんというんだったか、そう、絶望の表情。

 自分はあれが大好きだ。

 あの顔をした人間は殊の外旨い。

 あの雄も本当にうまかった。


 だけど、その時またあれがいた。


 あれは面白くない。

 そもそもあれには幻が効きづらい。

 すごく面倒だ。


 あれが来たとき、自分は逃げるところだった。

 でも、あれは自分を見て逃げた。

 面白いことだ。


 それに、どうやら一匹らしい。

 こんなことは今までなかった。

 逃げられては幻を魅せることはできないが、それなら叩き潰せばいい。

 

 あれは非力だ。

 他の宝箱の武器のやつに守られなくては何もできない。

 だから、一人なら簡単だ。


 そう思ったのに、なかなか捕まらない。

 の目では難しいのかもしれない。


 だが、もうもじきに来る。

 


 おや?

 急にあれの匂いが強くなった。

 まだ、見つけられないが、いるのは分かる。


 近づくとさらに濃くなる。

 人間を騙すのは楽しい。

 この目はだが、見えない目はある。

 前のやつらは、一生懸命見えない目を潰していた。

 面白い。

 くくくっ


 急に目の前が真っ白になった。

 

 手を動かす。

 でも、見えない。

 なんだ?これ?


 そう思ったとき、目の前が炎に包まれた。


 まずい!

 目を守らなくては。

 慌てて、手を動かす。

 あれはいつも低いところから攻撃してくる。

 だから、周りを手で払った。

 

 あれにあたった感触がない。


 そう思ったとき、をまもった手が消えた。


 そして、他の手も。


 そうしたらもう、何も見えなくなった。


 






















でも、あれの背中はちゃんと見えた。

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