第26話 外人
この村の見張りは暇だ。
そもそもこんな山奥にまで来る者が少ないし、人が少ないところには宝箱も現れにくい。
従って、基本野生動物に対する警戒の方が強くはなるのだが、人丈三倍もの防壁に囲まれたこの村に近づく野生動物なぞ、ここ数年は見たこともない。
そんな暇な見張りではあったが、この日はどうやら違ったようだ。
「ふぁぁぁ。」
「バカ、こんな昼間っから欠伸なんてしていたら、村長にどやされるぞ?」
「いや、だってよぅこんなに暇なんだから仕方がねぇじゃねぇか。俺だって薬師の先生には感謝しているし、実際ここまで安全にここで暮らせるようになったのだってあの人の指導のおかげなのは重々知っているがよぅ、これは流石にやりすぎだと思うんだわ。誰が好き好んでこんな山奥の村にまで来るってんだ?」
「そらぁ、おめぇのいいてぇことだってわからんではないがなぁ。夜は鈴罠、昼は常駐。いったい何を怖がってんだろうな。」
「まぁ、おらぁ暇な方がいいからいいんだ、、、が、、、」
「まぁ、訓練やってる班よりゃ楽だよなって、どうした?」
「いや、あれ、、、」
「あん?」
見れば村に続く一本道。
その遥か向こうに人影が見える。
全身黒と思しき服装に身を包んだ輩が一人、ふらふらと、だが確実にこちらに向かって歩いてくる。
「なんだありゃ?」
「人、、だよな?」
「わからん、だが、ま、まずは、鐘だ、鐘を鳴らせ!」
「わ、わかったよぉ、え、えっと、何回だっけ?」
「ばっか、四回だ、四回を続けて何度も鳴らせ。そうすりゃ、まずは増援が来る。」
「そ、そうだな。わかった。」
一人は慣れない手つきで鐘を鳴らし、指示を出した方は依然近づいてくる黒衣の人物を油断なく注視する。
『カンカンカンカン カンカンカンカン』
普段から平和慣れしてはいても、訓練の賜物か、何とか職務を全うする二人をよそに、その黒い人物は覚束ない足取りながらもしっかりと確実に近づいてくるのだった。
・・・
・・
・
「、、、るせぇな。んなに、、、、がんがんがんがん鳴らさなくったって、、、、俺は、逃げも、、、隠れも、、、しねぇ、、、っての。」
そう一人つぶやく黒衣の人物。
ただよく見ると、纏う黒衣はボロボロで、その所作は今にも倒れてしまいそうなほどの疲労の色をたたえていた。
「、ぜぇ、はぁ、、こんな、山奥に、、こんな要塞、築いて、る、なんて、今度こそ、あたり、かも、しれねぇなぁ。」
大分の時間をかけて、門の傍にまでたどり着いたその人物は息も絶え絶えに、独り言ちる。
ぼさぼさの髪、虚ろな目。
一目見た多だけで、普通ではないと分かるその人物は、門の真正面、あと数10メートルほどのところで、
「おい、止まれ!この村に何をしに来た!」
「ここは扶桑の村。古くからこの地に住まう森人族の村だ。相応の用向きであれば、通し遣わすが、事と次第によっては、、、」
「、、、あー、わぁってたよ、っぜぇ、あんのクソ情報屋。はぁ、有り金も、ぜぇ、食い物も、全部はたいてかった情報だってのに、よ、、、っはぁぁぁ、どおりでおかしいと思ったんだよなぁ。クソ共の隠れ家が、こんっなに、綺麗に整ってるわけ、ねぇもんなぁ。」
突如の大声に驚く、見張りの二人をよそに、その黒衣の者は、
「ぁ、ぁ、もう無理だ、すまん、スゥ、ナタ、とおちゃんここまでみたい、、、だ、、わ」
門番には聞き取れないかすれ声で独り言ちつつ、膝から崩れ落ちるのだった。
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