第46話 不意
「しっかし、すげぇな。」
俺は防具を選びながら、独り言ちる。
最初の驚きからは立ち直っちゃいるが、それでも、何度見まわしてもすげぇとしか言いようがない。
「こいつは、親父一人で作ったのか?」
「いいや、隠れ里の連中が作った奴もたくさんある。地人もいるからな。ああ、俺も、地人の半人だがな。」
「そ、そうか。つっても、これ見つかったら王国への反逆疑われて即、しょっぴかれるんじゃねぇか?」
「だから、普通は見せらんねぇんだよ。けど、今は場合が場合だ。」
「そうかよ。」
そんな話をしながら、一通り防具を合わせる。
手の握り、関節の動きが確かなのを確認しながら、その完成度の高さに驚かされる。
つっても、これが宝箱相手にどこまで通用するかわからんが。
そんな俺の心中を察したのか、
「んなに、不安そうな顔すんじゃねぇよ。この防具は少し特別製でな、触手の一発や二発くれぇなら、何とか耐えられるはずだ。」
「マジで言ってんのか?宝具でもねぇのに?」
「ああ、こいつらはな、すこし特殊な作りにしてあんだ。だから、宝具持った人間相手だろうが、宝箱相手だろうが、ある程度の盾にはなってくれるだろうよ。
「っ!それがマジもんなら、ギルドにおろしゃぁ、莫大な利益になるじゃねぇか。ハンターの常識が変わんぞ?」
「それが出来りゃぁ、苦労はしねぇよ。っつか、縁もゆかりもねぇ人間がどこで何人死のうが俺らにゃ関係ねぇからな。」
「、、、そらぁそうだな。でも、俺がこれ持って逃げて、ギルドにタレこむことだってあるかもしれねぇんだぞ?」
俺は少し意地の悪い笑顔を浮かべながら、そういってみる。
正直、これだけの技術に品揃えだ、マジで欲をだしゃ、一財産どころの話じゃねぇ。それに、宝箱の攻撃を受けれんのは、宝具だけ、その常識をぶっ壊せる技術なんて、国を挙げてでも手に入れたいと思うような技術のはずだ。
まぁ、国に恩義も、財産にも興味のねぇ俺にとっちゃ、どうでもいいことだが。
だが、そう思う奴がいるってことくれぇは伝えてやろうと思い、あえて言ってみたのだが、
「バカ野郎、人を試すんじゃねぇよ。いいから、さっさと選べ。」
そう逆にたしなめられてしまう。
その見た目の頑固さに反した、意外とも思える老獪な返しに対する、驚きをあえて隠さず、
「へぇ、そうかい。そりゃ、余計なお世話で悪かったな。けどよ、まじで気を付けたほうがいいっつぅのは覚えといて損はねぇと思うぜ?」
「ほんと余計なお世話だ。んなこたぁ百も承知なんだよ。だがな、こいつはそうそう簡単に作れるもんじゃねぇ。物は盗まれても、技術は無理だわな。なんつったって、こいつのもとは宝箱から出た金貨やら銀貨だからな。そいつを溶かして他のと混ぜて、そんで作ってんだからよ。人間様に簡単に真似なんてできるわけがねぇ。」
「マジか。あれは不変っつぅんで、高価値で取引されてんのに。ってか、そんなこと俺にいっちまっていいのか?」
「いったろ?マネらんねぇって。だから、無駄な心配なんかしてねぇで、さっさと選べ。そもそも時間ねぇんだろ?」
「ああ、そうだったな、わりぃ。」
そう嘯いて、俺は防具選びに戻った。
親父は相変わらず、戸口の傍で腕組んで仁王立ちしてやがる。
親父と交わした会話はそんなには多くなかった。
だが、それなりに人となりはしれたように思う。
秘密は多いが、口は堅い。ん?固いか?
まぁ、だがそれ以上に義理にも厚く信頼できる奴だと俺には思えた。
だから、、、
あいつらを託すにゃ不足はねぇ。
そう決意して、俺は立ち上がる。
「わりぃな、時間とらせちまってよ。十分決まってるだろ?」
そう言って、両手を広げた俺を親父はしげしげと見つめ、
「ああ、様にゃぁなってるな。俺がまっとうな商売してるんだったら、調整費用を踏んだくれなくて、鍛冶屋泣かせだと思うほどにはな。だが、まだあめぇな。」
と返してくる。
そして、俺の背後に回り込むと何やらごそごそとやり始める。
途中、苦しくなったりもしたが、最後、
「ほらよ。」
の一声と共に背中をたたかれた時にゃ、びっくりするほど体にフィットしていて驚きを隠せなかった。
「、、、さ、流石、プロだな。」
「ありがとよ。」
「まるで、なんもつけてねぇくれぇに、動きに支障がねぇ。いくら軽鎧っつってもこりゃ驚きだ。」
そんな、身にまとった鎧をしげしげと見ながら、動きを再度確認している俺に向かって、親父は
「ああ、だから、詰まらねぇことなんか考えずに、ダメそうなら逃げて帰ってこい。俺は子守にゃ向かねぇんだ。」
「ったく、何でもお見通しかよ。最初の愛想がいいだけの親父はどこに行ったんだか。」
「へっ、この歳になりゃ、建前ってやつも覚えるもんだ。だから、おめぇ、心の臓が止まるその瞬間まで諦めんじゃねぇぞ?」
「っ、、、わ、わぁってんよ。」
真っすぐに見つめられた視線に耐え切れず俺は顔をそむける。
そして、なおも、何か言おうとする親父を振り切り、俺は地下室の出口に向かって足早に歩きだす。
今のこの顔は誰にも見せちゃいけねぇ、そう本能が警鐘を鳴らしていやがる。
暗い石段を登りながら、心の蔵の音に耳を傾ける。
一人になって数年、俺の心配をしてくれる奴なんていなかった。いても上辺だけ、だまそうとしているのが見え見えだった。そう見えていた。
だから、親父のあの目、それがどうにもむずがゆく、そしてまぶしいものに見えちまった。
ったく、俺らしくもない。
そう、俺は復讐者だ。
必ずスゥとナタクを連れ戻し、攫った連中を金銀諸共ぶち殺す。
それまでは決して止まらないと心に誓ったんだ。
そう考えていると、あっという間に地上が見えてくる。
心の蔵もいつもと同じ、静かなリズムに落ち着いた。
這い出た地上はこれから死地に向かうのが、嘘のように穏やかな陽気だった。
空は青く、日差しは暖かい。
だが、虫が、鳥が、その他すべての生き物の音が消えている。
ああ、時間がねぇな。
俺はそう思いなおし、母屋に向かって歩き出すのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お久しぶりです。
一段落。
って何なんでしょうね?
もう、仕事で大きいのを何とか終えたと思ったら、まさかのインフルエンザB型。
完治したと思えば、仕事が山積み。
「あー」
最近の私はそれを言うだけのゾンビになり果てております。
創作って、かなり気力と体力を使いますね。
ホント、毎日更新している方々の凄さが、こういう非日常ものを書いているとよくわかります。
それでも私も思い描いた最後の1ピースに向けて、これからは更新頻度を上げつつ頑張っていきたいと思います。
目標は3月末。
それまでもう少々、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ほむひ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます