第45話 親父

 モクランはまだ俺の腕の中で震えている。

 もう何も見たくないとばかりに難く目を閉じ、小さく丸くなっている。

 そんな様子に心の中でため息をつきつつ、俺は鍛冶屋に向けて走っていた。

 その横をタクが、息を切らしながら追いかけてくる。


「いいか、タクっ。」

「、、っはぁっはぁ、う、うん。」

「俺はてめぇらを鍛冶屋まで届けたら、もういっぺん広場、いや、その先を目指して戻る。」

「「っっ」」


 二人の息をのむ声が聞こえた気がした。


「そしたら、てめぇらは鍛冶屋の親父と一緒に、村のみんなに声をかけながら、急いで村を出ろ。」

「、、、う、で、でも、」

「でもじゃねぇ、今やれんのはおめぇしかいねぇんだ!やれ!」

「、、う、うん。」


 広場の入り口が見えた。

 そんなに広い広場じゃねぇはずなのだが、ものすごく時間がかかったきたする。

 俺でそうなんだから、十にも満たねぇ、チビどもはもっとだったろう。

 それでもタクはついてきた。

 なかなかどうして根性のあるやつだ。

 そう思いつつ、振り返った矢先、


「っ~~~~」


 遠くから恐怖に染まった男の、声にならねぇ声が聞こえた気がした。


「、、と、すればあと半刻くれぇはあるか?」

「、、、はぁ、はぁ、な、何が?」

「ん?ああ、宝箱っつのはよ、人を食ったら少し動かなく、いや、動くやつはいるな。けど、まぁ、人を食わなくなる時間があるんだわ。動きも鈍くなる奴が大半だしな。」

「、、、そ、そうなの?」

「人間だって、飯食ったら食休みするだろ?それと同じだわな。」

「そ、そんな、食休み、、、なんて」

「お?すっかり静かになったと思ってたら、ようやっとお目覚めか?」


 広場を去り、鍛冶屋の家が見えたところで、モクランが言葉を口にする。


「ね、寝てないもん。」

「その割にゃ、俺の腕ん中でぷるぷる震えてたみてぇだがな。」

「う、うるさい。ミクおじのくせに」

「へぇへぇ、わるぅございました。」


 そう言いつつモクランを下す。

 どうやらまずは無事に鍛冶屋までひいてこれたらしい。


「さて、てめぇら、さっきも言ったが、俺はこれから戻って足止めをしてくる。で、てめぇらはみんなを連れて逃げろ。いいな?」

「で、でも、そんなことしたらミクおじが、、、」

「ばぁか、俺はてめぇらよりも、何倍もあぶねぇ橋を渡ってきてんだ。倒せってんならいざ知らず、時間稼ぎだけして逃げるってんなら、何の問題もねぇよ。」


 そんなことを店の入り口で話していると、奥から鍛冶屋の親父が出てきた。


「なんだなんだ、騒々しい。さっき出てったと思ったらもう仕事でも持ってきてくれたってのか?うれしい限りじゃねぇ、、、」

「宝箱だ」


 軽口の途中、俺の言葉を聞いた親父の表情が固まった。

 どうやら、この親父もわかる側の人間らしい。


「どこだ?」

村長むらおさの家」

「な、なに!?ひ、被害は?」

「さっき。多分村長むらおさだろう。」

「バカなことを、、、そうかわかった。で、てめぇは?」

「戻る。」

「戻るって、勝算はあんのか?」

「おらぁ、鍵士だ。」

「んなっ!じゃぁ、パーティが近くに居んのか?」

「いや、一人だ。」

「なっおめぇ、バカか?鍵士が一人っきりで何ができるっていうんだ?死ぬ気か?」


 俺の肩をつかみ大声を上げる親父。

 どうやら本当に心配してくれているらしい。

 そんな親父の目返しつつ、


「いてぇよ、だが、そこまでわかってんなら話が早くて助かる。親父、俺が戻ってる間、こいつらを頼む。んで、こいつら連れて、村のやつらに声かけて逃げろ。多分、でけぇやつだ。」

「な、なら、なおのこと、、、」

「残ってたって足手まといだ。時間稼ぐだけなら、一人の方がいい。」


 そう言って、親父の手を静かに離す。

 それを見て、親父も状況が分かったのか、


「そ、そうか、わりぃ、戦人いくさびとの決意にケチを付けるとこだった。」

「ん?随分とまぁ、古い言い回しをするんだな。」

「ああ、俺はずっとシュレイとやってきたからな。あいつが国を追われるときも、そんな目をしたやつらが、村から何人か行ったもんだ。が、誰も戻って来やしなかった。俺は鍛冶屋だ。武器は作れるが、それだけだ。だから、それで何度悔しい、、、いや、俺の話は関係ねぇな。わかった。チビどもは必ず、シュレイのもとに届ける。店にあるもんは好きに使え。食われたならまだ少し時間はあるはずだろ?」

「国を追われるって、、、てめぇらはいったい。」

「なんだ?シュレイから聞いてねぇのか?ここは人族から迫害された奴らの隠れ里の斥候砦みたいなとこだ。この奥に、、、っつっても多分普通じゃ辿り着けねぇが、隠れ里がある。シュレイは半森人ながら、国の要職に就いたすげぇ奴だった。でもな、5年前の王国の政変で選人思想のやつらに、追われて、逃げてきたんだ。って、ほんとに聞いてねぇのか?」

「、、、ああ、何にもな。」

「マジか、後でどやされるかもな。わりぃが聞かなかったことにしてくれ。」

「流石にそれはできんな。これが片付いたら、どうしてやろうか、薬師の野郎。」


 俺の大分イラついた顔が気になったのか、モクランが声をかけてくる。


「ね、ねぇ、、、」

「っと、わりぃな、今それどころじゃなかった。親父、続きは後だ。すぐに準備に取り掛かってくれ。」

「わかった、その前に、てめぇはこっちだ。」

「お、おい」


 親父に腕をつかまれ、強引に店の奥に連れていかれる。

 平屋の生活空間を抜け、裏の作業場に入る。

 と、俺を作業場の入り口に立たせたまま、親父は作業台を動かし始める。

 すると、作業台の下の絨毯の下から、地下へと続く通路が現れた。


「非常時のためにな。タクのかぁちゃんのときは出せなかったが、シュレイが認めたあんたになら、見せても構わんだろ。」


 そういって、その通路に入っていく。

 それに続いて、階段を降りる。

 その先にはそこそこ大きな部屋があるようで、


「まってろ、今明かりをつけるからよ。」


 そう声をかけられたと思うと、急に部屋が明るくなる。

 

「・・・」


 その光景に俺は声を失った。


「どうだ、なかなかのもんだろ?」

「なかなかどころじゃねぇよ。」


 そこには王国軍の一部隊を賄えるのでは?と思えるほどの、大量の武器と防具が鎮座していた。


「何かに備えてずっと作りためていたもんだ。好きなもんを選びな、少しくらいなら調整してやれっからよ。」

「あ、ああ。」


 その言葉におれはただただ、うなずくしかできなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 お久しぶりです。

 皆様体調いかがでしょうか?

 厳しい季節が続きますが、ご自愛頂きつつ、頑張ってまいりましょう。


 私の方も、どうにもこうにもリアルのお仕事やら、雪かきで早起きやらで体力気力をもっていかれ、なかなか執筆が進まない状況でした。

 まぁ、そもそも執筆もそんなに早くはないんですが、、、

 そんなこんなで、まだこんな状況が続くかもしれませんが、できるだけ頑張って終わりまで走り抜けたいと思いますので、気長にお付き合いできると嬉しく思います。

 

 以上、ただの愚痴でした。すみません。


                                 ほむひ

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