第43話 探リ

「おやかた、こんにちわ!」

「おう、モクラン、今日は大勢でどうした?」

「ごあんないよ!」

「へーえれぇな。ホンで後ろの旦那が、噂のミクおじさんかい?」

「そー!」


 世間話からの急な紹介も二回目となればなれたもので


「どぅも。ミクラです。モクランと先生ンとこには世話になってます。」


 とさらっと挨拶までこぎつける。


「ああ、いろいろと聞いてるよ。なんでも、無手でのやっとうが得意なんだって?まぁ、剣士っつわれても、こんな田舎にゃまともなもんなんてありゃしねぇんだがな。まぁ、鍬やら包丁やらの様子くらいなら見てやれっから、いつでも来てくんねぇ。」

「ええ、そのうち頼りにさせてもらいます。」

 

 そんなやり取りの後、さっとその場を辞するつもりだったのだが、ふと、気になって、村長むらおさについて尋ねてみることにした。

 というのも、どうやら商店ではこの店が一番広場に近く、直感でネタを拾えそうな気がしたという程度のことだったのだが、


「ああ、そういえば、ご主人。最近村長むらおさにお会いになりました?俺ぁ半年ほど前にあいさつしたっきりだったんで、先生についでに行ってこいっつわれちゃいましてね。今から行ったらどんなもんなのかなぁと。」

「あー村長むらおさ、かぁ。どうなんだろうなぁ。俺も最近会ってねぇ、っつぅか、ほとんど屋敷から出てきてねぇんじゃねぇか?」


 そう頭の後ろを掻きながら話す店主は、本当に村長むらおさのことを心配しているようだった。


「そうなんすか?」

「ああ、それによ、何でも夜に出てって、袋担いで戻ってくるのを見たっつぅ噂やその袋が動いてたって噂があったりで、ちょっと薄気味わりぃんだわ。まぁ、仕事とかはちゃんとやっちゃぁくれてるみてぇだし、特になんか不都合っつのがあるわけじゃぁねぇんだけどな。」

「へぇ。」

「ただ、前の村長むらおさんときは頻繁に屋敷に呼んでもらって、酒もご馳走になってたくらいだったから、なんだか寂しくなっちまったなぁってみんな言ってるよ。まぁ、時代がかわりゃこんなもんなんかもしれねぇけどな。」

「じゃぁ、今の村長むらおさになってからは誰も屋敷に呼ばれてないと?」

「いんや、最初の内はそれこそ、月が一回りするうちに一回くらいは呼ばれて、仕事はどうだのなんだのと聞いてくれちゃぁいたんだ。それが徐々に少なくなっちまって、それこそおめぇさんが来る少し前くれぇからかな?とんと呼ばれなくなっちまったな。」

「へぇ。んじゃぁよ、その呼ばれる数が減ったなぁって思う少し前になんかなかったかい?例えば、村長むらおさから、誰かにあったとか、珍しいものを手に入れたとかを聞いたりなんてことは?」

「んなこたぁ、、、いや、ちょいとまってくれ、ああ、そうだ。ありゃぁ、確か二年ほど前か?あのねぇちゃんが、バケモンを追っ払ってくれてから、少ししてからだったと思うが、えれぇ上機嫌で話しかけられたことがあったな。なんだったかなぁ。ああ、そうだ、確か「おやっさん、運命って信じるかい?」って聞かれたんだった。すげぇ天気のわりぃ日だったのに、目をキラキラさせて聞いてきたんで、「なんだそりゃ?」って言ってやったら、「そのうち祝いの宴が、どーのこーの」そうつぶやきながら、どっか行っちまったんだったなぁ。ありゃぁ、真昼間だったのにえらく背中がぞわっとしたもんだったわ。っと、わりぃな、なんか変なこと言っちまってよ。」


 と、鍛冶屋の店主は少し遠い目で嫌なものを思い出したかのような表情をしたあと、すぐに気を取り直したように詫びた。


「いやいや、面白れぇ話が聞けて良かったよ。今度いっぱい奢らせてもらうわ。」

「お?ほんとかい?こらぁ、なんとも景気のいいにぃちゃんだ。期待してるよ!」

「あいよ。」


 そう朗らかに笑いながら、俺は鍛冶屋を辞した。

 だが、俺の胸中はそれどころじゃぁなかった。

 疑惑はほぼ確信に変わったといっていい。

 ただ、それをこいつらに伝えていいもんかどうか。

 いや、こいつらだって、いっぱしの戦力だ、何かある前にきちんと情報は伝えておいてやった方がいいに決まっている。

 とそこまで考えたところで、モクランに強く指摘される。

 どうやら、モクランの話にも上の空のまま、気が付けば広場の中央の噴水の傍に来ていたようだった。


「これはねぇ、お山からひいてきたお水がキレイですよっていうのを見るために、父様がつくったのよ。きれいでしょ?お水がずっと、ビューって出てるのよ!って、もうミクおじどうしたの?さっきから、へんだよ?」

「ん?ああ、わりぃわりぃ、少し考え事をな。けど、丁度いい、おめぇら、ちょっと耳かせ。」


 俺はそういって、二人を噴水のへりに座らせる。

 噴水のしぶきが水面にあたる雑音が丁度良く、会話の声を打ち消してくれる。

 そう判断して俺は二人に対し、小声で話を始めるのだった。

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