第12話 決着
走る
走る
走る
もうただひたすらに俺は走っている。
息が切れ、喉が焼き切れようとも、足を止めることは出来ない。
なぜなら、後ろからは
「$’&”#(%(#’$))~~~!!」
意味にならない叫び声をあげながら、化け物が迫ってきているから。
速さでは俺が勝っているはずだった。
なのに、差が全く持って開かない。
森の中、足場が悪いのはその通りだが、それより何より、後ろを走るあいつが一歩を踏むたびに地面が揺れて、走りを阻害してくる。
「くっっそ!」
そういって、目の前に迫った木の根を飛び越えた瞬間、何かが見えた気がした。
ほぼそれは無意識だったが、何かが見えた右後ろ、そこを俺は勢いよく手刀で払った。
すると、俺の手刀、その切っ先に何かが当たった。
いや、当たったなんてものじゃない、反動で俺は前方に吹っ飛ばされた。
これは、宝箱の触手をいなしそびれた時の反動、、、と思考が追い付く刹那、背後でこれまで聞いたことがないほどの絶叫が響いた。
「ん゛あ゛ぁぁぁぁっぁぁ!!!!」
吹っ飛ばされた反動を何とか受け身で転がりながら逃がしつつ、背後を見やると、そこには俺の飛ばされた方と反対側の木の幹に、めり込むようにして止まっている半透明の触手が一本あった。
「んなっ」
言葉を失う俺を差し置き、めり込んだ触手が徐々に抜け出てくる。
そうしてこちらに先端を向けたその先、先ほどは目玉があった、その部分が見事に抉れている。
何が、、、と思う間もなく、再び絶叫がこだまする。
「%&)#$)()’()~~!」
それを聞き、慌てて立ち上がる俺。
走りはじめながら、はたと気が付く。
「まさか、あいつ、あの、触手を、のばして、きやがった、のか?象の、鼻、見たいに?」
その声を聞きつけたのか、宝箱がまた猛然と向かってくる。
「やっべ、、」
こうして、また鬼ごっこがはじまったのだった。
。。。
。。
。
気が付くと、俺は劉河砲の発射台にたどり着いていた。
目玉を潰して以来、宝箱の追跡精度は明らかに落ちていた。
俺の声のある方にただ進み、薙ぎ払う。
途中しびれを切らしたのか、声を上げたタイミングで周囲一帯をあのぶっとい触手で薙ぎ払われたときは肝が冷えたが、何とかよけてここに至っている。
目玉を潰された恨みからか、もう俺を無視することがなくなったのが救いだった。
さて、足音からして程なく、あいつもここに到着するだろう。
それを見越して、俺はここにいるはずのギンに声をかける。
「おい、ギン!いるんだろ?もうすぐ奴がここにやってくる。準備は出来てんだろうな!」
だが、それに対する返答は
「…」
ない。
そんな馬鹿な、と思いつつ、
「おい、ギン、、、」
と叫んだタイミングで、森が裂けた。
「%)($’%#)#$==!!!」
木々を吹き飛ばしながら、現れたそいつは一直線に俺へと向かってくる。
ただ、俺がいるのは劉河砲の発射台の先。
それは森から突き出た崖の先端。
ここに至るには崖に沿って歩いてきて、L字に曲がってくるしかない。
ただ、あいつは本当に、ただただまっすぐ、俺の方へと向かってくる。
「あいつ、目が見えて、、、」
俺がそれを言うのと、宝箱の前足が何もない中空に踏み出すのはほぼ同時だった。
「っっっ$$&)#(’u)??」
あっという間にバランスを崩した、あいつは驚いたような声を上げたかと思うと、あっという間に、崖下へと姿を消した。
それをあっけにとられながら呆然と見ていた俺だった。
が、
「っっっがっ」
刹那、急に衝撃が体を襲った。
慌てて、耐衝撃の姿勢はとったものの、一瞬の浮遊感。
そぉして、俺の思考は白一色へと落ちていくのだった。
。。。
。。
。
「あばよ、英雄様。」
劉河砲の発射室。
ギンはそのリクライニングされた椅子に優雅に寝そべりながら、タバコに火をつけた。
「恨むんなら、アニキと、そのアニキが恋焦がれた女に手ぇ出した自分を恨むんだな。」
そう、ギンは独り言ち、ただその薄暗がりの中、虚空を見つめるのだった。
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キンか?
あいつはさ、頭と顔は悪かったが、宝具を二つも使える才能の塊みたいなやつだったよ。
黄金の鎧は自分へのヘイト集め、黄金の盾はダメージの反射と、本当に人を守るのに向いた宝具に選ばれた奴だったのに、どうしてああなっちまったんだろうな?
人を見下し、人を傷つけることが平気な奴にさ。
まぁ、もともとずぼらな奴ではあったんだけどな?
おめぇの知ってるやつに似てるって?
あんな性根の腐ったやつがほかにもいるんだなぁ。
まぁ、こんな世の中じゃ仕方ねぇか。
はぁ?
そいつに蹴られただと?
最っっ低だな、こんなガキに手をあげるなんざ、人間の風下にもおけねぇ。
よし、おっさんが敵討ってやる。
そいつはどこにいるんだ?
あ?知らない?
気がついたら、母ちゃんと馬車の中だった?
あーなんかわりぃこと聞いたな。
でもよ、そういう理不尽な奴がたくさんいる世の中なんだ。
おめぇも強くなって、大事なもんをそいつらから守れるようにならねぇとな?
~とある男の独白より~
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