第11話 鬼事
丘の上から観察を続けると、奴はどうやら迷った挙句、元のルートをたどることを選択したようだ。
劉河砲の方向からはまた若干ズレ始めているが、修正は可能だろう。
そう思い、まずは安全策の確認から。
という訳で、やおらその場所から宝箱に向かって叫びかける。
「おーい、こっちだぞ~」
結果は、、一瞬立ち止まったものの、無視して歩き始めた。
足止めにすりゃなりゃしねぇ。
ってことは、どうやらもう一度あいつに近づいて鬼ごっこをするしかないらしい。
速さは高が知れてるが、捕まれば一発KOの鬼ごっこ。
ハンター辞めてからついぞ味わうことのなかったゾクゾク感が押し寄せてくる。
ったく、チビどもとの平穏を求めた結果がこれかよ。
まぁ、でも気分は悪くねぇ。
さぁて、楽しい地獄の鬼ごっこの始まりだ。
。。。。
。。。
。。
下草をかき分け、奴の探知範囲内に踏み込む。
声さえ出さなければ反応することはないと分かっていても、どうにも気分は落ち着かない。
息を落ち着けつつ、逃げる方向を確認する。
そして、息を大きく吸って、、、
「おい、バケモン!」
そう叫ぶ。
すると、奴はすぐにやってきた。
周りの木々を吹き飛ばしながら、猛スピードで迫ってくる様は初見じゃちびって動けなくなるほどの迫力だが、予想できてりゃたいして怖いものじゃない。
それに、まぁ、奴を視認できる近さまで近寄る気もねぇしな。
声を上げてすぐ転進した俺は、破壊の音がこだまする頃には、もう次の誘導ポイントについていた。
どうやら足の速さも俺の方が上らしい。
地獄の~なんて思っていたが、ずいぶんと楽な鬼ごっこになりそうなことが分かり、自然と笑みが浮かぶ。
が、やべぇやべぇと、自分の頬を張る。
そうじゃねぇ、こういう時こそ、何か落とし穴があるもんだ。
そう思いなおし、破壊音に向け、また距離を詰めるのだった。
。。。
。。
そして、俺の嫌な予想は的中したらしい。
四度目の誘導をしようと声を上げたのだが、あいつは動かなかった。
ピクリ、とはするものの、そこから踵を返して、元のルートに戻ろうとしやがった。
どうやら学習したらしい。
何度か声をかけたが、とうとう一顧だにされなくなっちまった。
今は山の中腹を少し超えたあたり。
あいつを劉河砲の発射台に乗っけるにはまだあと4回は繰り返さなくちゃいけねぇ計算になる。
だから、俺はあいつの前に姿を晒すことにした。
流石にこれなら無視はされんだろう。
戻る宝箱を追う形になって数分。
なぎ倒された木々の向こうにあいつが見えるところまできた。
近づいてみると、その威容が見て取れた。
大人二人分を優に超えようかという中空に座す宝箱を支えるは、これまた大人二人分の太さはあろうかというバカでけぇ半透明の触手。
何にそんな重さがあるのかわからんが、一歩進むごとに地面が揺れる。
今は向こうを向いている(?)から、そこまで圧迫感はないが、あの触手が走ってくると思うと、思わず腰が引けそうになる。
が、そんなことを言っている暇はない。
日が落ちれば、多分勝ち目がなくなる。
視界を失った山の中ほど危険なものはねぇ。
ギンもいつまで待ってくれるかわかったもんじゃねぇからな。
だから、今、ここしかない訳だ。
そう、腹を括って、俺はこの日何度目かの声を上げる。
「おい、コラ、バケモン!」
すると、それに反応して宝箱が立ち止った。
そして、ゆっくりと振り返る。
と同時に何かが、宝箱から垂れていることが分かった。
垂れている?
いや、まて、あいつらは触手が5本と言ってなかったか?
ってことは、、、
そこまで考えた頃合いを見計らったかのように、宝箱が完全にこちらを見た。
そう、見た、のだ。
その5本目の触手の先には、一つの目玉。
振り返ると同時に、すっと伸びてきたそいつは俺の方を見てニヤッと笑った気がした。
俺が、
「ひぃっ」
と声にならない声を上げて、逃げ出すのと、
「)%)(#$’#()$%~~~~~!」
宝箱が雄たけびを上げて走り出すのはほぼ同時だった。
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宝拳、使うにゃ、おめぇはまず、体を鍛えねぇとな。
そんなヒョロヒョロじゃ、町のチンピラにだって勝てやしねぇぞ?
あーでもな、おめぇにゃぁ、いや、おめぇに限らず普通の鍵士にゃ、宝拳を使いこなすこたぁ出来ねぇんだよな。
なぜって、そらぁな、手が一つしかねぇからよ。
んだ?変な顔しやがって?
手は二本ちゃんとあるよ?見えないの?おじさんって?
バッカ、そうじゃねぇよ。
ってか、おじさんってなんだよ?
しゃぁねぇから特別に見せてやるがよ、普通の鍵士は手の甲に鍵の刺青が一つ、だろ?
でもな、俺は、、、ほら、逆の手の手のひらにももう一つあるんだわ。
これのお陰で、俺は二本の手で宝箱をさばける。
なんでかって?
知らねぇよ。
俺の一族特有らしいから、きっと先祖の誰か頭のおかしい奴が何かしたんだろ?
~とある男の独白より~
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