第59話 致命
「っっっっっっがっはっごほっごぼ」
な、、、に、、が?
激痛の中、俺の思考は疑問で埋め尽くされていた。
目くらましは確かに成功した。
即席煙幕に包まれた時のバケモンの戸惑いは間違いなかった。
そして、炎に包まれた瞬間のあの慌てようも演技というには真に迫りすぎていた。
最初は四ツ目総てを同時に落とすことを目的に、炎受けの戸板の影に隠れながら、上階から飛び降り様に攻撃するつもりだった。
だが、あの瞬間、土壇場でバケモンが守ったのは真ん中の二つのみだった。
だから、俺は確信した。
それが目だと。
それがわかれば、あとは簡単で、飛び降りながらそいつらを守る手をクッションにしつつ目を手刀で薙ぎ払い、ついでにクッションにしたても切り落とせばいいだけだった。
当然手応えはあった。
致命の一撃を与えたはずだった。
いや、間違いなく与えた。
それはその後に晒した隙からも、いつも奇襲してくるはずの四本目がただただ周囲を薙ぎ払っていただけだったのからも明白で、手は明らかに俺を見失っていた。
それから、暴れる四本目を仕留めて、息をついた。
刹那、それはきた。
油断?
そう言われれば、そうなのかもしれない。
現に俺は、、、
「っごほ、がはっ、やっべぇ、、な。」
全身が痛い。
ただ、痛いのは感覚がある証拠。
問題は、
「み、ぎ、なにも、かんじな、、、」
そう思って、見た右腕は、もう完全にダメだとわかる状態だった。
あらぬ方に折れ曲がり、白いもんも見えている。
と、そこまで認識した瞬間、急に激痛が戻ってくる。
「っっっっぐぅぅう。」
右肩の付け根を無理やり抑え込み何とかその痛みの波に堪える。
地面に突っ伏し、体を丸めた状態でこらえること暫し、ほんの少しの余裕を取り戻した頭で認識した自分の状況はもうひどいものだった。
鍛冶屋の親父にもらった鎧はボロボロで、手甲などははじけ飛んでしまっている。
全身砂まみれで、息を吸うたびに燃えるような熱さを感じる。
こりゃぁ多分、骨も逝っちまってんなぁ、なんて人ごとのように思う。
だだ、この状況を見るに親父にもらった鎧がなけりゃ、多分俺はさっきの一発であの世行きだったのだろう。
それだけでも、親父には感謝しかない。
が、そもそもだ。
今までの攻撃ではここまでの威力はなかったはず。
そう思い至って、霞む視界の先、自分がさっきまでたっていたらしい場所を見やる。
と、そこには黒々とした大きな箱の影が見えた。
「っっっちっくしょ、ふざっけんなよ」
思わず声が漏れた。
どうやら俺は最初から騙されていたらしい。
あの本体を引きずる音、あれは俺を油断させるためのフェイク。
と、そこまで考えたとき、それを見せつけるかのように、そいつは立ち上がった。
そして、太い四本の触手で器用にバランスを取りながら、一歩一歩こちらに向かってくる。
歩みは遅い。
遅いが、確かに足音はあまりしない。
まぁ、軽い地響きは、言われてみれば感じるが。
ったく、抜けてる自分が恨めしい。
「お、王様気取りってか?笑えねぇ。」
その歩みがなんとも威厳に満ちているというか、勝ち誇っているというか。
動けない自分を睥睨するかのようにゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。
「っざけんな。」
それを見た俺は、怒りの衝動に任せ、動かない体に鞭うって、なんとか立ち上がろうとする。
こんな惨めな終わり方、誰が認めようが、俺が認めねぇ。
そうは思うが、ただでさえ、ガタガタの身体はいうことを聞いてくれず、両手も使えないため、ただ立ち上がるだけが、途轍もない荒行に感じる。
右腕の激痛に堪えるため、口に上衣の端を押し込む。
それを思いきり嚙み締めつつ、何とか一息に立ちあがる。
足はガタガタ震えるし、いっそ呼吸を止めて寝ちまった方がどれだけ楽かと思ったか知れない。
だが、このクソ野郎に見下されたままなんてのは、到底許されねぇ。
そう思って目線を上げた先。
それはあった。
人間の拳二つ分はあるであろう大きさの単眼。
それが中空に浮いてこちらを見て、
笑っていた。
にんまりと。
それはもうひどく嬉しそうに。
その一つ目は俺を見下ろして笑っていた。
だから、思わず俺は単眼に向かって左手を突き刺していた。
特に何かを考えてやったわけじゃない。
ただ、身体が動いてしまったのだ。
笑顔にもならないその醜悪な笑みを消し去りたくて、俺は渾身の力で左手を突き刺していた。
瞬間、声にならない声が響いた。
「っっっ~~~~~~~!!!」
そして、俺は左から来た衝撃に
「っっっくおじぃぃ」
弾き飛ばされた。
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