第53話 子供
走る
走る
走る
なんでもいい、まずは落ち着く時間が欲しい。
そう願いながら路地をひたすら走る、その背中にぞわっと怖気が走る。
俺は反射的に、斜め前方の横道に無理やり飛び込んだ。
轟音に、一瞬振り向いた俺が見たのは、さっきまで俺がいた位置に振り下ろされた三本の手。
そして、それらとは別に、塀をぶち破り横方向浚う様に動いたであろう一本の手。
「野郎、、、眼が、四つで、ぜぇ、はぁ、手が三つは、おかしい、って思ってたん、だ、よ。」
乱れる息を必死に整えながら、走り始める。
「っっっぱりもう一本、かくしていやがったじゃねぇかぁぁ。」
その場を後にする俺の声は、塀から触手が引き抜かれるガラガラという音にかき消され、木霊すら残せずに消えていくのだった。
・
・・
・・・
「っなにっ?いまのおと?」
「、、、わ、からない。でも、、」
「「戦ってるんだ。」」
入口門の見張り場。
二人は、不意の轟音に驚き、村を見返した。
そこには土煙が一筋立ち上り、あっという間に風にまかれて消えていった。
それを見届けたかわからないうちに、タクがモクランの袖を引く。
「、、、ボ、ボクらも、いかな、きゃ」
「わかってる!でも、カネは鳴らしたもの。だから、次は、、、」
袖を引かれて、見張り場の出口に向かいつつ、モクランは思案顔をする。
それを見て、不味いと思ったタクが、咄嗟に、
「、、も、モクランは逃げ、、、」
言いかけたのも束の間、
「タクのおかあさんっ!」
モクランの大声にかき消されてしまう。
いうが早いか、駆けだそうとするモクランの袖をタクが再度掴んで止める。
「っ、だ、ダメだ、よ。モ、クランはにげ、なきゃ」
「っなによっタク、お母さんが心配じゃないのっ?」
振り返ったモクランの圧に気圧されて、それでもタクは
「、、し、しんぱい、だよ、で、でも、ボクはモクランを守るって約束したんだ。だから、、、」
モクランの眼をしっかりと見返して言う。
その瞳に宿る強い意志に、一瞬モクランの猫目が大きく見開かれる。
が、その眼はすぐにつと細められ、
「なら、行こ!お母さんのとこ。」
いうが早いか、またタクの手を振り切って、見張り場の出口に駆けだしてしまう。
「、、も、モクラン、ま、待って、だ、ダメだよ。」
そう言って慌ててモクランの後を追うタク。
一拍開いてしまったその距離では、兎鼠の如き俊敏なモクランの動きには追い縋れるはずがなく、あっという間に、見張り場の出口の向こうにその背は消えてしまう。
「、、、あ、もうっ!」
その背を追うタクの、それにしては珍しい毒づきが、見張り場の室内にただこだまするのだった。
・
・・
・・・
タクが梯子を必死に降り、地面についたころ、モクランはすでに鍛冶屋の親父と話しているところだった。
「だぁから、あぶねぇっつってんだろうがよ。」
「でも、タクのお母さん動けないのよ?誰かが言ってあげないと。」
「だから、そいつは大人がやるっつってんだろうが。」
「間に合わないかもしれないじゃない!モクラン達なら、走るのも早いし、すぐ戻ってこられるよ!」
「それでもだ。いいか?まず一回落ち着け!」
そんな口論の最中にタクもあわてて、走り寄る。
「いやよ、どうしてわかってくれないのよ!」
「だから、まずは落ち着けって、、、」
「お、おじさんっ!」
「タク!おせぇよ、おめぇ、どこに、、、」
タクに一瞬気を取られた隙にモクランが鍛冶屋の親父の腕を振りほどく。
「あ、こら、てめぇ、、」
振りほどいた反動を初速に変えて、モクランは走り出す。
「待て!まだ話が、、、」
そんな慌てる親父の横をすり抜けながらタクが叫ぶ。
「だい、じょうぶ!」
その声に一瞬呆気にとられた鍛冶屋の親父はたたらを踏んでしまう。
その間にあっという間に、走り去る二人。
再度慌てて、追おうとした親父の腕を誰かがやさしくつかむ。
「ああん?」
邪魔された親父は険の籠った声音で振り返る。
と、それにかぶせる様に、
「行かせてやりましょう。」
優しげな声が響く。
「あんた、、、いいのかよ?」
「子供は困難を前に成長するものです。」
「けどよ、こればっかりは流石に、、、」
「困難は選んであげることはできません。あとはあの子たちの意志と、日頃の備えを信じるだけ。」
そんな達観した眼で子供たちの消えた路地を見つめる薬師に対し、親父は
「あんた、、、流石に見損なったぜ。おらぁ子供はいねぇけどな、あいつらの助けにだけはなってやるつもりだ。」
そう言って走り出した鍛冶屋の背を、薬師は今度は止めることもせずに見送る。
「見損なった、、、ですか。これまた手厳しい。」
そう言ってただ一人佇む薬師に元に、村中から喧騒が近づいてくる。
『宝箱だぁぁ!まずはみんな門の外に逃げろぉぉぉ!』
鐘撞堂から見張りの声がこだまする。
門に初めの村人が到達し、見張りの声で慌てて外に逃げ出す頃には、薬師の姿は忽然と消えているのだった。
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どうも皆さん、お久しぶりです。
新年度、どうですか?
私は大分「最&悪」です。
何がってまぁ、異動に伴っておいていかれた仕事がまぁ大変なことになっておりまして、その火消しに約一か月。
書こう!という気持ちも、精神体力、ダブルパンチの疲労には勝てませんでした。
私が他の方の小説すら読もうという気が起きなかったのだから大分、大分な状態だったと言わざるを得ませんね。
くそぅ。
毎回書きますが終わりは見えているんです。
本当に。
だから書く時間さえあれば、、、っていいわけですよね。
もう少し、頑張りますのでお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ほむひ
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