第24話 閑話
劉国歴248年
劉王国の王国師団は、王命により王都に蔓延る闇市の一斉検挙に乗り出した。
第五代柳王ギョクは即位と同時に不正の撤廃を決め、強硬に師団を動かしたが、これもその一環であった。
ただ、若き王は諸侯をまとめることも、軍略を練ることも、市井を知ることもなかった。
そのため、この行いは多くの軋轢を、歪を生んだ。
ただ、王命には結果が必要ではあった。
だから、利に敏いものはこの機に乗じ、結果を作り上げた。
その結果、闇市を始めとする王都の暗部は一見して、払われたようには見えた。
が、ある者は逃げ、ある者は形を変えて、より強固に、より邪悪に、より力を蓄えるために今までの形態を変える道を選んだだけであったのだ。
そして、にぎわう王都から逃げ出した集団の中に、一組の凶悪な組織がいた。
名を「害児」という、その人買いの集団は武闘派として名高い上、強引な商品収集に、証拠滅却のために宝箱を使用することから、その道の者達からも蛇蝎の如く嫌われていた。
そんな彼らが劉王国を捨てる決断をしたのは、偏に新王が奴隷解放を宣言したからに他ならない。
早々に劉王国を見限った彼らは、隣国の奉王国に移る道すがら、劉王国内で商品を収集することに決めた。
長らく暗躍した国を追われた腹いせだったのだろうか?
彼らはいく先々で暴虐の限りを尽くした。
村を襲い、人を攫い、財貨を奪った。
そうして、何もなくなった村々には火を放ち、その跡地で大型の宝箱が暴威を振るったことで、襲撃された地は軒並み更地になってしまった。
師団が追撃隊を組織し、後を追った時には山間の集落が複数蹂躙された後だった。
そのどれもが酷い有様で、集落があったと思しき場所には燃え滓となった廃屋と砂塵のみが残されている状態だった。
集落跡を一つ超え、二つ超え、三つ超えた先、隣国との境界近い山深い集落にたどり着いた時、そこだけは他と様相が異なっていた。
家屋に残火は燻るものの、更地になるほどの暴力の痕はなく、間違いなく人為的に襲われた跡が残っていた。
そして、追撃隊はこの地で唯一の生存者を確保することになる。
酷い襤褸を纏ったその男は、奇声を上げ、血涙を流しながら、廃墟と化した一軒の家で一心不乱に何かを探しているようだった。
手には宝具と思しき黒色の棒を持っていたが、会話は出来ず、酷く暴れたため、やむを得ず拘束し、王都に護送することとなった。
また、その際、村長の邸宅でその手記と思われるものが発見されたことから、この村で起こったことの全貌が判明することとなった。
しかし、「害児」並びにその被害に遭った人々の行方はようとして知れず、救助者を一名得たことで、追撃は打ち切りとなった。
新王権に代わりたてで、駆り立てられた彼らには、隣国に逃げたと思しき犯罪集団を追う気力は残ってはいなかったのだ。
そして、その報を受けた新王も、隣国へ「凶悪な人買い集団が逃げ込んだ恐れがある」とだけ、親書を送り、諸処に忙殺される中で、この事件は風化してしまうのであった。
そして、王都に運ばれた男もまた、治療の最中、こつ然とその姿を消し、事件は歴史の闇の中に埋もれてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます