第21話 日記

 目から流れ出た水滴が、頬を伝い、床に落ちる。

 流れてくるそれを無理やり拭って、立ち上がる。

 

 泣いたのなんていつぶりだったろうか?

 

 いや、もしかしたら今日一日ずっと泣きっぱなしだったのだろうか?

 等と益体もない考えが頭を巡ったのもほんの数瞬。


 我に返ると、先ほど倒れた村長の脇に一冊の書付帖が目に入る。

 何を考えたわけではなく、それを手に取り、村長を置いて部屋を出る。


 外に出ると、雨はすっかり上がってしまっていた。

 空を見上げつつ、一歩村長の家からぬかるむ庭路へ踏み出そうとして、ハタと気が付く。

 

 「ったく、どこに行こうっつうんだよ。もう帰る場所なんてねぇってのによ。」

 

 苦笑しつつ、独り言ちた俺の目にはもう涙は浮かんでいなかった。


 村長の家に引き返し、暖炉に火をつける。

 凍え切っていた体を温めつつ、先ほどの書付帖をめくる。


 どうやら、村長の日記らしい。

 

 初めの方は他愛のない村での出来事がつらつらと綴られていた。

 時たま、村の経済状況や食糧問題などに頭を悩ませていることが記されていたが、おおむね前向きな内容だったように思う。

 それがおかしくなり始めたのが大体三か月前くらいからだろうか。

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〇月×日 王都へ宝具を捌きに行ってきたキンとギンが戻ってきた。道中A村が襲われていたのを目撃したらしい。子供から大人の姿はなく、老いた者は逃げ遅れたのか家屋と共に燃えていたとのこと。あそこがないと王都からの行商人がこちらに来るルートがなくなってしまう。あまり積極的な交易はないが、どうしたものだろうか?

 

〇月×日 今度はB村だと?キンとギンに周辺を回らせて良かった。だが、ひと月足らずで、近隣の村々が襲われている。そんな強力な個体が現れたということだろうか?王都のギルドへ応援の手紙を送るよう、キンに命じたが、何の音沙汰もない。これだから王都もんは信用ならん。しかし、この短期間でB村まで回れる宝具士というやつらは本当に便利でしかない。


〇月×日 C村もやられた。あそこからは野菜や米を仕入れていたというのに、まずいことになった。全く、ギルドのやつらも、キンギンも使えないやつらばかりだ。いい加減、バケモノの一匹や二匹仕留められないものか?本当に使えんバケモノめ。ここが一番山奥とはいえ、そろそろまずいのかもしれん。儂らだけでも、逃げる先を用意しておかなくては。


〇月×日 キンが一人でやってきた。奴らには宝箱の討滅を命じていたはずだが。仕方がないからもてなしてやると、酒に酔ったせいか、あいつは妙なことを言い始めた。なんでも、サンゾウに恨みがあるだの、あいつの嫁とは本来俺が番うはずで横取りされた俺はなんてみじめなんだだの、女々しいことを愚痴愚痴と。だが、最後に更におかしなことを言っていた。なんでも王都に行った際、人買いと縁ができたと。だから、宝箱に襲われたふりをして、サンゾウ一家と村のいらないやつらを売ってしまおうと。そうすれば、巨額の富が転がり込み、王都からの行商人も誘致できるはずだと。だが、流石にそれを二つ返事というわけにはいかん。考えさせてくれといったら、一瞬ぞっとさせるような顔をした後、あいつは素直に帰っていった。まったく、バケモノの考えることはわからん。


〇月×日 孫娘のルゥが野草取りに行ったきり帰らん。あの子のことだ、余程のことがない限り大丈夫だとは思うが。。。


〇月×日 昨晩からの山狩りでもルゥは全く見つからん。儂の家で不祥事があったと知れたら、村のものに何と言われるかわからんから、身内だけでやらせているが、、、いったいどこへ行ってしまったのか。

 

〇月×日 山狩り3日目。山狩りに行った奴らはいったい何をしているんだ。何故手掛かりに一つも見つけられん!明日は儂自ら探しに行ってやる。


〇月×日 最悪なことになった。山狩り中、急にキンが現れた。あいつはルゥは人買いに連れていかれたとほざきよった。しかも、俺ならなんとかできるかもしれんだと?その場では、ふざけるなと一蹴してやったが、例の件が頭から離れん。いったいどうしたら?


〇月×日 今日もキンが現れた。ルゥの髪留めをもって。交渉はしたが、今はこれだけだ、だと?取り戻すには金が要る。そんな額払えるわけがない。だが、例の件なら、、、そういって、あいつは薄ら笑いを浮かべていた、この村長である儂に対してだ。


〇月×日 もう身内だけの山狩りでは無理だと、バカ息子が直訴してきた。村全体で何とかと。理屈の分からんバカ息子だ。だが、明日で七日目。いくら森になれたルゥでも、そろそろ厳しいかもしれない。それに、本当に人買いなら、、、


〇月×日 儂は悪魔に魂を売ることにした。今日で山狩りを中止し、宝具士であるキン一味に依頼することにした。対外的にはだが。バカ息子はせめてもの足しにと、溜めていたであろう金を持ってきたが、こんなもんでは小遣いにもなりゃぁせん。

 そして、夜中、彼奴がやってきた。ルゥの無事を確認させろという儂に、すべて終わってからだと、うすら寒い笑みで言う。本当にこやつを信用してもよいのだろうか?いや、今はこいつしかいないと思いなおし話を聞く。

 だが、あいつの出した条件は気の抜けるほど簡単なものだった。

 曰く、

・サンゾウにキンらの手伝いを依頼すること

・それを儂の依頼と確証づける文を作ること

・これから村で起こることをただ見ていること

 これならば、対外的に見ても儂には何のデメリットもない。儂は喜んでこの条件をのんだ。流石に幼少から知り、一時期英雄とまで言われたサンゾウには悪いと思うが、これもルゥのため。心を鬼にして、サンゾウ宛の文を作って渡してやった。

 これでルゥは帰ってくるはず。


~村長の日記より~


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ほむひです。


またまた大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。


体調不良に次ぐ体調不良でもう、本当私の身体はどうなっているのやら?と問いたくなる気分です。

しかも、コロナでもインフルエンザでもない、ただの風邪、、、、だと?


季節の変わり目、皆様もどうぞ体調の方にはお気を付けくださいませ。


本日よりまた、ゆっくりながらも執筆していく所存ですのでどうぞもうしばらくお付き合いくださいまし。

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