永久 side ① 後編

 永久side ① 後編







「小学生の時。虐められてた私を助けてくれましたよね。お久しぶりです、北島永久です……」


「北島さん!?」


 私のその言葉に、桜井くんは少しだけ思案した後に、昔のことを思い出してくれたようです。


「確か、あの後引越しして転校したんだったよね?」


 あぁ……嬉しいです。覚えていてくれました……


「はい。ですが桜井くんのことを忘れた日は一度だってありません……」


 私はそう言うと、目尻の涙を拭いました。

 春休みの間に練習したお化粧は大丈夫でしょうか。

 はしたない顔を桜井くんに見られるのは嫌です……


 ですが、私は覚悟を決めました。


「今、クラス分けの紙を見て居た時に、あなたの名前を見つけました。本当に驚きました。ですが、その時から、もしかしたら会えるかもしれない。あの時、言えなかった私の気持ちを、今度こそ言える。そう思っていました」

「そ、そうなんだ。ちなみにクラス分けはどうだった?」


 私は彼のその質問に、笑顔で答えます。


「神様が私たちを祝福してくれているのでしょうね。同じクラスでした」

「そ、それは良かったね」


 桜井くんも私の声で紙を確認しました。

 その目には、自分の名前と私の名前が映っているはずです。


 そして、私はひとつ息を吸って、心を鎮めます。


「桜井霧都くん」

「……え?」


 私は彼をフルネームで呼びます。


「小学生の頃から、今日に至るまで、あなたの事を忘れた日はありません。愛が重いと言われるかも知れませんが、これが私です」

「…………北島さん」


 私は真剣な目で桜井くんを見ます。

 彼も、私が何を言おうとしているのか、わかっているような気がします。


 臆してはダメ!!この言葉を言えずに後悔していた、涙を流していた、小学生の頃を忘れたの!?


 私は自分を叱咤激励します。


 そして、一字一句、噛まないように、しっかりと聞こえるように、伝わるように、言葉にしました。


「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」


 私はそう言って、彼の身体を抱きしめました。


 好きです。好きです。好きです。


 私の気持ちを全て込めるように、ギュッと……


「き、北島さん……」


 桜井くんからは、嫌がるような素振りは見えません。


 良かった……振り払われたら立ち直れませんでした……



 ドサリ……



 と、彼の後ろで何かが落ちるような音がしました。


「……え?」


 桜井と私は同時に後ろを確認しました。


「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」

「………………凛音、なんでここに」


 そこに居たのはツインテールの似合う可愛い女の子でした。

 そ、その髪型には見覚えがあります!!

 確か、小学生のときに隣のクラスにいた女の子がツインテールでした!!


 ですが、気になるところがありました。

 それは、桜井くんが彼女のことを『凛音』と名前で呼んでいることです。


 ……ど、どんな関係なのでしょうか……


 ま、まさか……お付き合いしてる……


 い、イヤです!!諦めたくありません!!


 もし仮に、あの方が彼の彼女だったとしても、私はこの気持ちをそう簡単には捨てられません!!



「……桜井くん、その方は?」


 私は勇気を出して桜井くんに聞きました。


 も、もし仮に、お付き合いされてる方なら……


 お、思い出として、ほ、ほっぺにチューくらいをして逃げましょう!!


 そのくらいならきっと許してくれます!!


 そんな覚悟を決めた私に、彼は言いました。





「……え、えーと。彼女は俺の『幼馴染』だよ」


「お、幼馴染……」

「…………え?き、霧都、何言ってるの」


 彼の言葉に、私と彼女は驚きました。


 ……え?私より、彼女の方が驚いているように見えます。


「えーとね、彼女は南野凛音って言って、幼稚園の頃からの幼馴染だよ。………………それ以上でも以下でも無い」


 何故だかすごく辛そうに、桜井くんがそう言いました。


 そして、その言葉に一番ショックを受けているのは


「う、嘘でしょ……な、な、何言ってるのよ……」


 焦点の合ってない目で、彼を見ている彼女。


 な、なんだか少し怖いです……


「き、北島さん!!」

「は、はい!!」


 突然、桜井くんに呼ばれた私は声を上ずらせながら返事をします。


「つ、積もる話もあるだろうから……その、教室に行って話さないか?」

「……え?あ、あの女性はあのままで……あ……」


 桜井くんは私の手を取って歩き出します。


 手……繋いでくれてます……



「ま、待ってよ……霧都……」



 後ろの女性……南野さんが何かを言っている様でしたが、気にしないことにしました。


 多分……いや、絶対に、彼女は私のライバルです。


 きっと、桜井くんとはなにかすれ違いがあったのでしょう。


 そして、これは私に訪れた『チャンス』です。


 桜井くんは彼女を『幼馴染』だと言いました。


 彼女としては桜井くんを『幼馴染』としては見ていなかった。


 だから驚いて、絶望したような表情をしていたのでしょう。


 本当なら生まれるはずのない『溝』が二人の間に開いた瞬間なのでしょう。

 そして、これまでならそれは時間と共に塞がっていたんです。




 そうはさせません!!



「桜井くん。さっきの告白の返事ですが、いつでもいいですよ?」

「…………え?」


 私はそう言うと、驚く彼の手を引いて腕を抱きしめました。

 す、少しだけ恥ずかしいですけど、む、胸に押し当てます。


「こ、これからいっぱいアプローチをかけて行きますので、覚悟してくださいね?」


 私は自分の顔が真っ赤になってるのをわかっていながら、そう言いました。




 これは、私の覚悟です。

 南野凛音さん。あなたには絶対に負けませんから!!

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