第四話 ~彼女と過ごす一日目・彼女のお母さんとお話をしました~

 第四話



 チュン……チュン……


 朝焼けに染まる外を、俺は窓から眺めていた。


 ベッドの上にいる俺の隣には、スタイル抜群で男の欲望を具現化したような超絶美少女がスヤスヤと寝息を立てている。


 俺は……負けなかった。


 何度も何度も……欲望に負けそうになったが、その度に、ラブコメラノベの先人達の想いを胸に、我慢をした!!


 あの人たちマジすげぇよ!!

 でも、俺もそんなに偉人たちに肩を並べられたかな……


 だが、これはまだ『一日目』

 あと一日残っている。

 更には今日。今後の運命を左右するような会合がある。


 そして、この状況に至るまでも紆余曲折あり、本当に大変だった。


 俺は、隣で眠る北島永久さんから意識を逸らすように、昨夜のことを思い出していった。







 俺の家の風呂場でシャワーを浴びる北島さん。彼女が居間に不在の今、その間に少しだけ考え事をしていた。


 どうにかして、彼女の両親と連絡が取れないか?


 あの様子だと、絶対に『了承』を受けてから来たわけでは無さそうだ。

 だとすると、彼女の両親はかなり心配しているはずだ。

 残念ながら、まだクラスメイトの連絡網とかが無いので、彼女の自宅の電話番号が分からない。

 小学生の頃のは、引っ越しをしているので役に立たない。


 テーブルの上には彼女のスマホがあるが、流石に勝手に触るのはどうかと思った。それにロックも掛かってるだろうし。


 どうしよう……


 そう思っていると、マナーモードにしてある彼女のスマホが着信を知らせた。


『お母さん』


 と液晶には表示されていた。


 電話に出るのにロックを解除する必要は無い。

 必要なのは……俺の勇気!!


 俺は覚悟を決めて彼女のスマホを手に取り、着信に応じた。


『永久!!あなた今どこに居るの!!ずっと電話出ないから心配してるよ!!』


 耳元から、彼女のお母さんと思われる女性から大声が聞こえてきた。それだけ心配をしてるということ。俺は少しだけ申し訳なさを抱きながらも、しっかりと声を出す。


「もしもし。北島永久さんではなく申し訳ございません」


『…………永久では無いんですね。あなたは……もしかして、桜井霧都さんですか?』

「はい。そうです。こんな形で挨拶をするのは不本意ではございますが、北島永久さんのクラスメイトの桜井霧都です」


『まだ』北島さんとは恋人では無い。なので、彼女と俺の関係性はクラスメイトとした。


 俺のその言葉に、彼女の母親が大きくため息をついた。


『永久は、どうしてますか?』

「今、自分の家でシャワーを浴びています」

『……え?』


 バカか俺は!!こんなこと言ったら『そういう事』をする前。みたいに聞こえるだろ!!


「ち、違います!!そういうことをするとかそんなのでは無くて!!普通に汗を落としたいからと言われまして!!」

『……そ、そうですか』


 お母さんはそう言うと、俺に続けてきた。


『桜井くん。あなたの事は、永久から良く聞いてます。小学生のときのことも、全部。私たち両親の力が及ばなかった部分で、あの子を助けて貰った。私もお父さんもあなたには感謝しています』

「そ、そんな。当然のことをしたまでです……」


『あなたの両親の仕事も知ってます今日はご在宅ですか?差し支えなければ、ご挨拶をさせて頂きたいと思います。昨日は缶詰だったと、あの子が雑談混じりで話してましたが』


「両親は昨日同様に……不在です。妹も居ますが、今日は隣の幼馴染の家に泊まると、先程連絡がありました。今夜は自分一人です……」


 大きなため息が……聞こえた。


『桜井霧都くん。永久からは子供の頃から紳士的で優しいと聞いています。そんなあなたが、大きくなって、高校生になりました。私は、あなたを信じても良いですか?』


 大切な娘を、俺に預けても良いのか?その覚悟を問われている。そんなの、決まってるだろ。


「もちろんです。一時の欲情に流されて、すべてを棒に振るつもりは微塵もございません」


 永遠のような沈黙を経て、彼女のお母さんが口を開く。


『……わかりました。どの道、私にあの子を連れ戻す手段はありません。あなたを信じるより他がありません』

「ち、ちなみに、永久さんは了承を得てから来た訳では無いんですよね……」


『そうですよ。……もう敬語は良いかしらね。あの子ったら学校から帰ってきたら、着替えをして荷物をまとめてすぐに出ていってしまったのよ。はぁ……あなたの家に行く。とだけ言って。止める暇もなかったわ』

「そうですか。あのお父さんは何か言ってませんか?」


 お母さんよりもお父さんの方が心配するだろうと思う。

 より大きな覚悟が必要だが、キチンと話すべきだと思ってる。


『ふふふ。良いのか悪いのかは別として、お父さんは今日は飲み会で居ないのよ。今日はホテルに泊まるそうね。だから、この話は私で止めてあるわよ』

「……そ、そうですか」


 今日は。という事は明日には帰ってくる。という事だ。

 彼女は『二日間』泊まるつもりだ。


 そうなると、必然的に両方の親への了承が必要になる。


「あの、知ってるかはわかりませんが、永久さんは二日間。自分の家に泊まるつもりでいます」

『そうね。あの荷物の量からして、そのくらいだと見ていたわよ』

「そうなると、必然的にお父さんの耳にも入ると思うのですが、どのように了承を取れば良いですか?」


 俺の言葉に、お母さんは笑いながら言った。


『桜井くん。私はあなたと会って話しがしたいわ。明日、永久と一緒に我が家に来なさい。その時に、お父さんと一緒に話しをしましょうか』


 ……なるほど。それが一番だな。

 どの道、彼女と結婚するなら避けては通れない道だ。


「わかりました。明日の何時頃伺えば良いですか?」

『そうね。では十二時頃でお願いするわ。お昼ご飯をご馳走するわよ。一緒に食べましょう』


「了解しました。永久さんを説得して、二人でそちらに向かいます」

『じゃあ電話を切るわね。桜井くんがキチンとした子に育っているみたいで安心したわ。それじゃあ明日を楽しみにしてるわね。おやすみなさい』

「はい。その信頼を裏切らないようにいたします。では、失礼します」


 俺はそう言うと、お母さんとの電話を切って、机の上に彼女のスマホを置いた。


「……はぁ。緊張した」

「ふふふ。お疲れ様でした、桜井くん」

「……え!?」


 後ろから聞こえた北島さんからの声に振り向くと、シャワーを終えた彼女がバスタオルを首に巻いて立っていた。


 風呂上がりで上気した頬は桜色に染まり、艶やかなセミロングの黒髪はしっとりと濡れている。

 制服でもなく、私服でもなく、パジャマに身を包み、普段は抑圧されていたのだろうか、開放感に溢れた彼女の持つ女性らしい肢体は俺の視線を捉えて離さない。


「その……あまり見られると、照れてしまいます」

「ご、ごめん!!」


 彼女のその言葉で、俺は慌てて視線を切る。


「ですが、他の男性なら嫌悪しかありませんが、桜井くんなら歓迎ですよ。それに、先程は嬉しいこともありました。お母さんとの電話で私のことを名前で呼んでくれていましたね」

「……あ」


 そうだ。彼女のお母さんと話すのに、北島さんでは紛らわしいと思い、名前で呼んでいたんだ。


「お母さんはなんて言ってましたか?」

「心配してたよ。あとは……明日。昼頃に俺と北島さん。二人一緒に自宅に来てくれ。そう言われた。昼ごはんをご馳走してくれるそうだよ。後は君のお母さんと、お父さんの二人の前で話をすることになった」


 俺がそう言うと、北島さんはニコリと笑った。


「まぁ。桜井くんを紹介出来る機会がこんなに早く来るなんて、良かったです」

「あはは……俺は今から少し緊張してるよ」


 俺はそう言うと、風呂上がりの彼女に新しく氷を入れた麦茶を出した。


「ありがとうございます」


 北島さんはそう言うと、麦茶を一口飲んで、俺に言った。


「それでは、話していただけるのですか?南野さんとのことを」

「うん。そのつもりだからね」


 俺はそう言った後に、続けた。


「俺も手早くシャワーを浴びてくるよ。出たら話しをするね。それまで少し待っててもらっても良いかな?」

「はい。了解です」




 俺は居間に彼女を残して、風呂場へと向かった。

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