凛音side ①

 凛音side ①





 霧都と夕飯を終えた私は、お母さんと一緒に食器の洗い物を手伝っていたわ。

 今の時間。霧都はお父さんと話をしてるはずね。


「昨日はごめんなさい。せっかくのお母さんの料理を食べなかったわ」


 私は皿についたカレーの汚れを落としながら話をすることにした。


「ふふふ。良いのよ。こうしてキチンと食べてくれてるし、アレがあったから今があると思えるわ」


 お母さんはそう言うと、優しく微笑んで言ったわ。


「それに、凛音ちゃんに『血の繋がったお母さん』って言われたの、すごく嬉しかったんだから」


 ありがとう、凛音ちゃん。


「お礼を言いたいのは私の方だわ。お母さんが居なかったら、今の私は無いわ。ありがとうお母さん」


 そんな話をして洗い物を終え、軽くシャワーを浴びて汗を落とした私は自室へと戻る。


 ベッドに顔を乗せると、霧都の匂いがした。


 高校生になってまで、添い寝をするとは思ってなかった。あの時は少し頭のネジが緩んでいたわね。でも、アイツが私を『他人』として扱うなら、それを最大限に活かしてやろう。


 そんなことを考えていると、


 コンコン


 と部屋の扉がノックされた。


 お母さん?いや違うわね。さっき下でお父さんとお酒を飲んでるのを見たわ。

 誰かしら?


「空いてるわよ」


 私がそう言うと、部屋の扉が開く。


「こんばんは、凛音ちゃん」

「……美鈴」


 先日のことがあってか、さっきの夕食の時間も私とは目を合わせてくれなかったわね。


「どうしたのよ、こんな時間に」


 私がそう言うと、美鈴は頭を下げた。


「ごめんね、凛音ちゃん。私が間違ってたよ」

「……美鈴」


 多分、先日のことでしょうね。それにこの様子。霧都が『あのこと』を話したのは決定ね。


 はぁ……まぁ、美鈴になら知られても構わないかしら。


「その様子ってことは、霧都から聞いたのかしら?私の昔話」

「うん。聞いたよ」


「はぁ……その事で私を『同情』してるって言うのならお門違いも良いところよ?」

「……え?」


 私は笑いながら言う。


「確かに、あの時の私は人生に絶望してたし、毎日毎日死にたいと思ってたわ。でも今は違うわ!!」

「……凛音ちゃん」


「だって!!嫌だった期間の二倍の時間をお母さんやお父さん、あなたたちと過ごしてきたわ!!あんなものはもう過去の話よ!!そうね……どうしてもと言うなら聞いてあげるわ。美鈴……あなたはわたしの『何』かしら?」


 私はそう言うと、美鈴にニヤリと笑って問いかける。


 その問いに、美鈴は一瞬キョトンとした後、笑って言った。


「そうだね!!凛音ちゃんは私の『血の繋がったお姉ちゃん』だよ!!」

「あなたを許すわ、美鈴!!『妹』の謝罪を受け入れるのは『姉』の務めよ!!」


 そう言った私に、美鈴は言ってきた。


「でもね、凛音ちゃん。私は一個だけ納得いかないことがある!!」

「……な、なにかしら」


 あまりの迫力に、私は一瞬たじろいだわ。


「お兄ちゃんと結婚しても離婚するから姉になるってバカだと思う!!」

「な、な、な、な……ば、バカって……」


「だってバカでしょ!!お兄ちゃんが凛音ちゃんと結婚したら死ぬまで夫婦どころか、あの世の世界でも夫婦だよ!!」


 美鈴のその言葉に私は少しだけため息を吐いた。


「……そうね。確かに霧都にはなんの問題も無かったと思うわ。問題は私にあったのよ」

「……どういう意味?」


「私を産んだ女はクズだったわ」

「……うん」


「そして、そのクズの血が私にも流れてるわ」

「……だから、結婚生活が上手くいかないって思ったの?」


「そうよ。もしかしたら、自分が産んだ子供を虐待してしまうかもしれない。そんな女の血が流れてる以上、結婚や出産と言うものに、忌避感を持っていたのも事実よ」

「……凛音ちゃん」


「でも、今はそれも無いわね!!」

「……え?」


「よく良く考えてみればわかることよ。あの女の血が流れていても私は私だもの。あんなクズとは違うわ。はぁ、そんなこともわかってなかったなんて、確かに美鈴の言うように、バカだったわ」


 私はそこまで言ったあとに、美鈴に続けたわ。


「まぁでも過去を悔やんでも仕方ないわ。大切なのはこれからよ。こうして美鈴と仲直り出来て、心強い仲間が出来たのだから、北島永久なんかに負けないわよ」

「……え、凛音ちゃん。何言ってるの?」


 キョトンとした表情で首を傾げる美鈴。

 ……え?どういう事よ。


「な、仲直りしたのよね、私たち」

「うん。そうだよ。前よりも仲良くなれたかも知れないね?」


 ニコリと笑う美鈴。この子はホントに笑顔が可愛いわね。

 でも、確認したいのは違うことよ!!


「だ、だったら美鈴は私の味方よね?」

「え?違うよ」

「嘘でしょ!!!!」


 私は夜中にも関わらず叫んでしまったわ!!


「美鈴……あなた、北島永久の味方をするつもり!!??」

「いや、まだ会ったこともない北島永久さんの味方。と言うよりは、『お兄ちゃんの味方』だよ?」


 だって、私はお兄ちゃんの幸せのために生きてるの。

 お兄ちゃんが北島永久さんと結婚するって言うなら、そっちを応援するよ。当然じゃーん。


「こ、このブラコン妹め……」

「えへへーそれはね、凛音ちゃん。褒め言葉だよ」


 そうしていると、美鈴は私の方へと歩いて来てベッドに腰をかけて話した。


「まぁ、この続きはベッドの中で話そうよ。今日はここで寝る予定だし」

「あら、私はさっきまで寝てたからまだそこまで眠くないわよ?」

「明日は学校休みだし、私も遅くまで付き合えるよ?久しぶりに二人で夜更かししようよ、凛音ちゃん」

「良いわよ。あなたを私の味方に出来るように説き伏せてやるわよ」


 なんて話をしながら、私と美鈴の夜は更けていったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る