第十七話 ~彼女と過ごす一日目・彼女と一緒のベッドに入り……欲望に負けてしまいました~

 第十七話



「……と、言うことがあったんだよね」

「……そうですか」


 そこまで話すと、雄平さんは湯船のお湯を自分の顔にパシャリとかける。


「そんな君に、永久が高校で再会した。僕らは運命だと思ったよね」

「…………」


 もし、運命の神様なんてものがいるのなら、俺が凛音に振られるのも采配の一つだったのかも知れないな。


「どうだい、君の目にはうちの永久はどう映っている?」

「とても魅力的で、俺なんかにはもったいないくらいの女の子です。本当に、今の話を聞いたら、俺の方が彼女に相応しくなるために頑張らないといけませんね」


 俺がそう言うと、雄平さんは嬉しそうに笑った。


「あはは。そうかい。だったら、永久が頑張ったこの五年間は報われたんだね」


 雄平さんはそう言うと、浴槽から立ち上がる。


「僕はそろそろ出るね。霧都くんも好きなタイミングで出るといいよ」

「はい。ありがとうございます。俺はもう少しこの檜風呂を堪能したら出ます」


 俺の返事に笑った雄平さんは、そのまま浴室をあとにした。


「永久さんにふさわしい俺にならないとな……」


 湯船に肩まで浸かり、俺はそう呟く。

 今なら桐崎先輩が言っていたことも理解出来る。


 永久さんに好かれている。という自覚はある。だが、それに見合った自分でいなければ情けない。

 しっかりと自分を磨いていかなけれぱ、魅力的過ぎる彼女の隣には立てない。


 俺はそう決意をしてから、お風呂場から出た。







『永久さんの自室』




「霧都くん。どうしてそんな離れたところに居るんですか?」

「い、いや……その……」


 そう言って目を細める永久さんに、俺は少しだけ視線を逸らす。


 お風呂から出た彼女の髪はしっとりと濡れ、身体は上気しているので少しだけ朱に染っている。

 薄手のパジャマは彼女の豊かな肢体にピタリと張り付き、その内側を想像させないための効果をまるで果たしていない。

 寝る前なので上の下着は付けていないのだろう。ちょっと目を凝らせば色々とわかってしまいそうな危うさすらある。


 そんな彼女に近寄る勇気は俺には無かった……




 お風呂場から出た俺は居間でテレビを見ながら時間を過ごした。そして、その間に美鈴と永久さんが一緒にお風呂に入っていた。


 お風呂場から出てきた美鈴が


『すごかった……』


 と言っていたのは『北島家のお風呂』なのか『永久さんのお身体』なのかはわからなかった……


『では、霧都くん。私の自室に案内しますね?』

『は、はい!!』


 俺はそう返事をすると、永久さんの後に着いていく。


『霧都くん。部屋の防音はしっかりしてるから大丈夫だよ!!外からの音は聞こえて、中からの音は聞こえない。そういう作りになっている!!』

『その情報は必要ですか!?』


 そんな会話を雄平さんとして、俺は彼女の部屋に入る。


 永久さんに持ってるイメージそのままに、女の子らしいピンクを基調とした部屋だった。


 何かアロマでも焚いているのだろうか。いい匂いがした。







 意識を現実に戻すと、ベッドに寝転ぶ永久さんから少し離れたところに腰を下ろした俺を彼女は少しだけ不満そうな目で見てきていた。


「……そんなに離れたところにいたら寂しいです」

「……わ、わかったよ」


 シュンとしている永久さんに負けて、俺は彼女の隣に行く。


「えへへ。やりました」


 永久さんはそう言うと、身体を起こして俺の肩に頭を乗せる。


「その……永久さん。あまり俺の理性を削る行為はしないで欲しいんだけどなぁ……」

「ぎゅー」

「……っ!!!!」


 そんな俺の言葉はお構い無しに、こちらの身体を永久さんは抱き締める。


 パジャマを着ている彼女の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。


 プチン……


 何かが切れるような音がした。


 あぁ……これは俺の『理性』だな。


「幸せですぅ……」

「眠そうだね……もう寝ようか……」

「はい……」


 俺と永久さんは布団に入る。

 暖かい布団に包まれて、必然的に身体と身体はくっつく。


「……霧都くん」

「なに、永久さん……」


 トロンとした目で、彼女は俺を見ている。


「本当はもう少しお話をしたかったんですけど、ちょっと眠いです……」

「あはは。今日は色々連れ回しちゃったからね」


 俺のその言葉に、永久さんはフワリと笑う。


「今日はたくさんカッコイイ霧都くんを見られました」

「そう言って貰えると嬉しいよ」


 俺が微笑みながらそう言うと、


「霧都くん……北島永久は……あなたを愛しています……」


 すぅ……すぅ……


 そう言うと、永久さんは寝息を立て始めた。


「……もう、無理かな」


 俺はそう呟くと、彼女の身体をそっと抱き締める。


 女の子らしい柔らかい身体。俺の胸の辺りでとても幸せな感触を味わう。


 理性の限界だった。先程もう切れてしまった。これ以上何かをしないとか……無理だ。


 寝ている彼女にこんなことをするのは不誠実かもしれないけど、ここまでされて何もされないと思ってるなら見込みが甘い。


 まったく。永久さんは高校一年生の男をなんだと思ってるんだ。


 俺は永久さんの身体から少しだけ距離を取り、頬にかかった髪の毛を少しだけ横に退ける。


 スヤスヤと寝ている彼女を、俺は見つめて言う。


 きっと聞こえていない。だから本気の気持ちは起きてる時に伝える。


「俺も君のことが好きだよ。最高のシチュエーションで、君に告白をするから待っててね」


 そう言って、俺は寝ている彼女の『頬』にキスをした。




「おやすみ、永久さん」


 俺は枕元にあるリモコンを操作して、部屋の明かりを落とした。

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