凛音side ②

 凛音side ②




「さ、流石に……疲れたわ……」


 バフン……


 私はベッドに身体を投げ出したわ。





 土曜日の朝。目を覚ました私は一緒に寝たはずの美鈴がベッドに居ないことに気が付いた。


「……へぇ。美鈴は帰ったのね」


 一晩かけて話をしたけど、結局美鈴の意思は変えられ無かったわ。

 あのブラコン妹め……


 そうしていると、私のスマホに着信が入ったわ。


「こんな休みの朝っぱらから誰よ」


 そう呟きながら私が画面を見ると


『藤崎朱里』


 と出ていたわ。


 私は仕方なく電話に出ると、


『おはよう、南野さん。桜井くんとは仲直り出来たのかな?』


 と少しだけ心配そうな声で聞いてきたわ。


『金曜日は学校も来てなかったし、少し……いや、とても心配してたのよ』

「とりあえず、霧都とは仲直り出来たわよ。もう一度『他人』から、新しく関係を始めることにしたわ」


 私がそう言うと、藤崎朱里は少しだけ笑いながら、


『そう、良かったね。それで、家族はもう諦めたのかな?』

「まさか。でも姉弟になるのは諦めたわ。と言うよりも、バカだったと反省してるわ。今はそうね……」


『夫婦』としての家族になってみせるわよ。


『ふーん。そうか。でもさ、厳しいよね?桜井くんの心の99%は北島永久さんが占めてるよ?』

「ふん。そんなのはわかってるわよ。でもね、アイツが言ってたわ。私の長所は『どんな劣勢でも絶対に諦めない。負けん気の強さ』だってね」


 私の言葉に、藤崎朱里が笑ったわ。


『あはは!!良いね、南野さん。私があなたを欲しかったのはその『気持ち』の部分だよ。スピードもテクニックもまだまだ未熟。だけど、その負けん気だけは私は買ってる』

「ふん。その上から目線と伸びた鼻っ柱はすぐにへし折ってやるわよ」


 と、私が言うと


『じゃあ南野さん。今日は暇でしょ?今から学校の体育館に来て私の自主練に付き合いなさい』


 金曜日は勝手に休んだんだから、みっちりしごいてあげるわよ。


 なんて言ってきたわ。


「へぇ、面白いわね。あなたにはリベンジしたいと思っていたのよ。自主練に付き合う代わりに、1on1で再戦してもらうわよ!!」

『いいよ。私もそのつもりだったしね』


 交渉成立ね!!


「今から行くわ!!首を洗って待ってなさい!!」


 私はそう言うと、藤崎朱里との電話を終わらせたわ。


 そして、学校に行くので制服に着替えたあと、バスケットシューズと体操着とタオルを用意してバックに詰め込む。


「お母さん!!ちょっと学校に行って、生意気な女をコテンパンにしてくるわ!!」


 台所に居るお母さんにそう言うと、


「そこにおにぎりがあるから食べながら行きなさい。お腹が減ってたら戦えないわよー」


 と言われたので、テーブルの上のおにぎりを二つポケットに入れて私は


「行ってきます!!」


 と家を出て行った。



 おにぎりを一個食べて、意気揚々と自転車を飛ばして学校に向かい、駐輪場に自転車を停めて、体育館へ走っていく。

 たっぷり寝たので身体が軽い。

 あの時とは違ってかなり良い動きが出来る確信がある。


 ふふふ。待ってなさいよ、藤崎朱里!!

 コテンパンにしてやるんだから!!


 更衣室で着替えを済ませ、体育館に入ると藤崎朱里だけでなくもう一人の女が居たわ。


「おはよう、南野さん。朱里の自主練はかなりキツイけど着いて来れるかな?」


 そう言ってきたのは女子バスケ部の部長。佐藤優子さとうゆうこだ。

 身長は女子でありながら180cmに到達する大型選手。

 二つ名は……『コートの支配者』


 大型選手でありながらスピードやテクニックも兼ね備えた万能選手。ぶっちゃけ、バスケットボールプレイヤーとしては藤崎朱里よりこいつの方が『上』だと思ってる。


「ふん。私をそこら辺にいる木っ端みたいな新入生と一緒にしないでもらえるかしら?余裕で着いて行って『あら、こんなもんかしら?』って言ってやるわよ」

「ね?ゆーこちゃん。良い性格してるでしょ?」

「あはは!!本当に朱里が好きな性格をしてるよ南野さんは。よし、じゃあ準備運動をしたら始めようか!!」



 そして和気あいあいとした雰囲気の中始まった『藤崎朱里の自主練』は……吐くほどキツかったわ……




「も、もう無理よ……走れないわ……」


 コートの端から端までの短距離ダッシュを繰り返した私の足はパンパンだった。

 思わず体育館の床に倒れそうになる私を、藤崎朱里がニヤニヤと笑いながら言ってきた。


「あれれ??南野さん、まだダッシュは半分しか終わってないわよ?」

「う、嘘でしょ!!もう50はやったわよ!!」


 私の声に藤崎朱里は冷めた目で見ながら言い返してきたわ。


「短距離ダッシュは100だよ。バスケットボールプレイヤーとして、小柄な私たちが生きるすべは知ってるでしょ?テクニックなんてみんな持ってる。あとはスピードとスタミナ。そして根性だよ」

「……わ、わかってるわよ!!そんなことは!!」


 私は震える脚をバシンと叩いて立ち上がったわ。


「あと50なんて言わずに100でも200でもやってやるわよ!!」

「あはは!!良いね、その意気だよ南野さん!!」


 そして私は気合いと根性で残りの短距離ダッシュをやり切ったわ……



「お疲れ様、南野さん。はい、スポーツドリンクだよ」


 体育館の床に大の字になってる私に、藤崎朱里が笑いながら...ドリンクを渡してきた。


「あ、ありがたくいただくわ……」


 私はキャップを開けて冷えたドリンクを飲む。

 い、生き返るわね!!


「この後はスリーポイントラインからのシュート練習だよ」

 10本決めたら終わり。だよ。


「ふん。余裕じゃない?」


 スリーポイントシュートはフリーで打てるなら七割くらいの精度ね。


「ふふん?ちなみに10本は『連続で』だからね?ちなみに、一度でも外したらまた1からやり直し」

「う……嘘でしょ!!」


 ひ、日が暮れるわよ!!


「私たち小柄な選手がインサイドにドライブインする為に必要なのは?」

「シュート力よ……」


 インサイドにドライブで切り込んでレイアップを決める。

 それをする為には『外』からも決められる。という選択肢を相手に見せる必要がある。

 必然的にシュート力……特にスリーポイントラインからのシュートは必須能力よ。


 そして、スリーポイントシュートの練習を藤崎朱里と佐藤優子は午前中のうちに終わらせた。

 私は……終わらせられなかったわ……


「八本連続で決められてるんだったら上出来だよ?」

「最初の朱里は六本が限界だったからね」

「う、うるさい!!気が散るわよ!!」


 お昼ご飯としておにぎりを食べてる藤崎朱里と佐藤優子が私を見て笑っている。


 今、八本連続で決めている。

 次が入れば新記録の九本よ!!


 私はもう何本打ったかもわからないシュートを放つ。

 綺麗な放物線を描いて


 パスン


 とリングを通過した。


「よし!!」

「あと一本!!」

「集中集中!!」


 そして、10本目のスリーポイントシュートを決めた私は、体育館の床に倒れ込んだ。


「やったわよ!!」

「すごいね、南野さん!!」

「いやー土壇場での集中力は目を見張るものがあるね」


 私はお母さんから貰っていた残りのおにぎりを食べる。

 おにぎりの塩気が身体に染み渡るわ。


「さて、南野さん。お待ちかねの時間だよ!!」

「……え?」


 おにぎりを食べ終わって、一息ついていた私に、藤崎朱里はニンマリと笑いながら言った。


「1on1で勝負だよ!!」

「嘘でしょ!!」


 こんな状態でまともな勝負なんか出来るわけ……


「あれれ??南野さんは挑まれた勝負から逃げるのかな?」

「やるわよ!!コテンパンにしてやるんだから!!」


 私は勢いよく立ち上がって、藤崎朱里に宣戦布告をした。





 でも、流石に無理だったわよ……





 藤崎朱里にコテンパンにされた私。

 時刻は十五時を指してたわ。


「私の自主練はここで終わり。私はこの後は悠斗と明日の朝までのデートだからね」

「あ、汗臭いって言われるわよ……」

「いや、一度家に帰るわよ。その後は朝まで……えへへ」


 と頬を染めながらはにかむ藤崎朱里。

 これだけ動いたのにまだ『動く』つもりなのかしら……


「私もこの後は健と会う予定かな。まぁお世話になった先輩と少年野球チームに差し入れに行くって言ってたから、その後かな」


 この二人の『先輩』は化け物ね……


「私は……帰って寝るわ……」


 私はそう言ってヘロヘロになりながら体育館を後にしたわ。





 そうして満身創痍で帰って来た私はお昼寝をした後にお風呂に入って、お母さんの作ってくれた美味しい夕飯を食べてから自室に戻ってきたわ。


 お昼寝をしたお陰で、練習の疲れはだいぶ取れていた。


 明日は筋肉痛だろうからゆっくりして。そしたら月曜日にはまた普通に動けるだろう。


 なんて思ってると、私のスマホが着信を知らせたわ。


「誰かしら?」


 そう呟きながら私は画面を見ると


『桜井美鈴』


 と出ていた。


「こんな時間に、なんの用かしら?」


 そう思いながら、電話に出ると、深刻な声で美鈴が話してきたわ。


『凛音ちゃん。今ね、永久さんとお風呂に入ったの』

「……な、なんで北島永久とお風呂に入ってるのかよくわからないけど、それがどうしたのよ?」


 そもそも、なんでアイツを名前で呼んでるのかしら?

 疑問は尽きないけど、とりあえず話を聞くことにしたわ。


『私もさ、それなりにはおっぱいがあるつもりだったんだよね。それこそ、ちっちゃい凛音ちゃんなんか目じゃないレベルで』

「ねぇ、美鈴。あなた喧嘩売ってる訳?」


 小さくないわよ!!少し物足りないだけよ!!

 それに私はこれから成長期よ!!


『とわさんのおっぱいまじやばい』

「……嘘でしょ」


『嘘じゃないよ。もはやあれは国宝かもしれない。服を脱いだらあんなのが隠されてるとかもう、凛音ちゃんに勝ち目無いよ』

「お、おっぱいでは負けてるかもしれないけど……他の部分で……」


『性格は時代遅れのツンデレで、見た目は美少女だけどお兄ちゃんはもうその顔十年見てるんだよ?それでいておっぱいが……ね?』

「そ、そんなにやばかったわけ?」

『うん。あんなん押し付けられたらお兄ちゃんの理性なんて紙だよ』

「ど、どうしろって言うのよ……」


 そう呟いた私に一人の『貧乳』が思い浮かんだわ。


「胸の大きさが全てじゃないってことを思い知らせてやるわよ!!」


 私はそう言うと、美鈴との電話を終わらせて、貧乳の先輩に電話をしたわ。


『……南野さん?これからって時に何回も電話してくるとかいい度胸だね』


 かなりしつこく電話したらようやく出たわね!!


「藤崎先輩!!あなたに聞きたいことがあるわ!!」

『あなたが私を先輩と呼ぶ時は、ろくな事が無い気がするけど……なに?手短にしてよね』


 不機嫌そうだけど気にしないわ!!


「おっぱいが小さくても男を虜に出来る方法を教えてちょうだい!!あなたのおっぱいでもあの巨乳副会長に勝ってるんだから、なにか秘策があるのよね!?」


『私のおっぱいは小さくないよ!!少し物足りないだけ!!』



 プツ……


 ツーツーツー……



「や、役に立たない先輩なんだから!!」


 そして、私はスマホを握りしめて、叫んだ。





「おっぱいの大きさが全てじゃないって思い知らせてやるんだから!!」





 次の日の朝。


 藤崎朱里からメッセージが来てたわ。


『南野さん。昨日のあなたの質問の答えを教えてあげるわ』


『胸の大きさが全てじゃない!!という不屈の精神は当然持ってるわよね?』


『あとは自分の武器を磨きなさい』


『あなたは私と同じで『良い脚』をしてるんだからそれを見せてあげなさい』


『ただし、それを見せるのは有象無象じゃなくて彼だけにするのよ。だから制服のスカートは長くしなさい』


『彼と遊びに行く。そんな機会がもしあったら、その時は見せてやるのよ、あなたの武器を』


『そんなところね。まぁあとは私よりも『横恋慕の達人』に心構えとか聞いてみたらどう?』


『詩織ちゃんには話をしておくわ』


『ばいばーい』


「なるほど……『脚』ね。参考になったわよ!!藤崎先輩!!」

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