永久side ②

 永久side ②



 日曜日の朝。私は目覚まし時計の音より早くに目を覚ましました。普段は少し寝惚けてしまう私も、パチリと起きました。


 今日は霧都くんとのデートの日。

 私と彼の洋服をショッピングモールに買いに行き、食事を取ったらそこで少し遊んだりするスケジュールです。



『俺も君のことが好きだよ。最高のシチュエーションで、君に告白をするから待っててね』


 彼は『寝たフリ』をしている私にそう言って、頬にキスをしてくれました。


 昨晩の霧都くんの言葉や行為はしっかりと覚えています。


 ふふふ。彼に対して『意図的に』抱きしめたりとかの触れ合いを増やして正解でした。


 少し恥ずかしかったですけど頑張りました。


「……もう、霧都くん。私だって不安なんですよ?あなたがきちんと言葉にしてくれないから……」


 私は寝ている霧都くんのほっぺをつつきました。


 彼はまだ、スヤスヤと寝ています。


 昨日はとてもカッコイイ霧都くんを見られました。

 その疲れもあるのでしょうね。

 もう少し寝かせてあげましょう。


 ……でも、その前に。


「あなたは寝ている私にキスをしたんですから、寝ているあなたにキスをしても許されますよね?」


 私はそう呟くと、まだ寝ている彼の『頬』にキスをしました。


「…………まだ寝てますね?」


 勘違いしないで欲しいです。

 女の子だって、好きな人とキスがしたい。

 ……それ以上の事だってしたいという欲求はあるんです。

 こんな無防備な寝顔を見せられて、我慢しろってのは無理ですよね?


「…………ん」


 私は、霧都くんの『唇』にキスをしました。


 私のファーストキスです。彼のファーストキスは誰でしょうか?子供の時とかに南野さんとした。とか言われそうな気もしますが……


 ……なんだか無性にイライラしてきました。


 つんつん。と彼のほっぺをつついてみました。


 起きる気配がありません。


「…………もう一回くらい出来そうですかね?」


 私は寝ている彼の唇にもう一度キスをしました。

 今度は少し長く、そして少し深く……


「…………んぅ」


 私が彼から唇を話すと、少しだけ愛の雫が糸を引きました。

 流石にこのキスは初めてのはずです。


 私は彼の初めてを『奪って』あげました。


 先程まであったイライラは無くなり、代わりに幸せな気持ちで満たされました。


「……ふふふ。これ以上のことは起きてる時にしますね?」


 私は彼を起こさないようにベッドから出ると、まだスヤスヤと寝ている彼にそう言ってから部屋を後にしました。





 部屋を後にした私は、居間へと向かいました。


「おはよう、永久。良く眠れたみたいね」

「おはよう、お母さん。昨日は良く眠れたよ」


 お母さんがもう起きていて、台所で朝ごはんの準備をしていました。今日は霧都くんも居るので和食みたいです。

 お味噌汁のいい匂いがしてきました。


「お父さんはまだ寝てるけど、霧都くんも寝てるのかな?」

「うん。昨日はいっぱい頑張ってたからね。もう少し寝かせてあげようかなって思ってる」


 今の時刻は七時。あと一時間くらいは寝てても良いかな?


「そうなのね。じゃあ永久、少しお話しをしましょう」


 お母さんはそう言うと、お味噌汁を作っていた火を止めてこちらに来ました。


「お母さんのお話。霧都くんのことかな?」


 私はそう言いながら椅子に座ると、お母さんは正面に座ります。


「そうよ。まぁ、悪い話じゃないわよ」


 そう前置きをしてから、お母さんは話し始めます。


「霧都くんはとても良い子よ。あれ以上の男の子を見つけるのはほぼ無理だと思った方がいいわね。ふふふ。あなたの男を見る目は間違ってなかったと自信を持っていいわ」

「えへへ。ありがとう、お母さん」


 私が好きになった人をお母さんが認めてくれた。

 その事に私はすごい嬉しさを感じます。


「その上で言うわ。絶対に彼を手放したらダメよ」

「うん。そんなつもりは微塵も無いよ」


 私が彼から離れることは有り得ない。

 彼が私から離れようとするなら地獄の果まで着いていく。


 そのくらいの覚悟くらい既に決めています。


 その返事にお母さんは満足したように首を縦に振ったあと、私に続けてきた。


「彼を振った女の子。絶対にこのまま引き下がるとは思えないわ。あなたと霧都くんの最大の障壁は彼女よ。それは永久もわかってるわよね?」

「それは当然だよ」


「あなたがこの後しなければならないことと、絶対にしては行けないことを教えるわよ」

「うん。聞くよ、お母さん」


 真剣な表情のお母さんの言葉。私は覚悟して聞くことにします。


「まずは絶対にしては行けないこと。これは『あなたに他の男の影を作らない』ってこと。『ヤキモチを妬かせる為に他の男の影をチラつかせる』そんな恋愛テクニックみたいなのをたまに目をするけど、彼には逆効果よ」

「するつもりは無いけど、そんなのがあるんだね」


「永久。あなたは可愛い女の子よ。黙って立ってるだけで男が寄ってくるわ。あなたの近くには霧都くん以外の男を近寄らせない。そのくらいの覚悟と行動が必要よ」

「どうすればいいの?」


「寄ってくる男はにべも無く突っぱねなさい。一縷の希望も持たせない。彼以外の男と会話する必要すら無いわ。挨拶されてもお辞儀で返す程度で済ませなさい。男ってのはね、女から『おはよう』って言われただけで『こいつは俺に惚れてる!!』なんて思う生き物よ」


 お母さんの言葉に私は驚愕しました。

 でも、確かに霧都くん以外の男の子に惚れられても面倒なだけだし、邪魔でしかない。

 そうならないための行動と言うのは勉強になります。


「霧都くんはね、とてもナイーブな男の子よ。あなたに男の影を見ればとても傷付くし、その傷は彼を振った女の子にとっては逆にチャンスとなるわ」


 そうです。私は南野さんにつけられた彼の傷を癒すという立場だったからこそ、こうして上手く行ったと思ってます。


 だからこそ、同じことをさせてはいけないんです。


「うん。わかった。ありがとう、お母さん。すごく勉強になった」


 私の言葉にお母さんはニコリと笑ったあと、


「じゃあ次は『しなければならないこと』を話すわよ」


 と続けました。


「いっぱい彼とイチャイチャしなさい」

「…………え?」


 いっぱいイチャイチャ?


 どういう意味なんでしょうか?


 首を傾げる私にお母さんが言いました。


「私は彼が好きなんです。と言うのを周りにたくさんアピールしなさい。恥ずかしいなんて思ってはダメよ。いっぱいボディタッチも増やしなさい。あなたには誰にも負けない大きなおっぱいもあるわ」

「お、お母さん!!??」


 私は自分の胸を抱くようにして隠します。


 そ、そんなはっきり言わなくても……


 でも……南野さんに勝てる、圧倒的な武器だとは思ってます。


「付き合ってる付き合ってないは関係無いわ。これをすることによって、あなたに近寄る男も排除出来るし、彼に近寄る女にも牽制になるわ。一石二鳥と言うやつね」

「で、でも……霧都くん。嫌がらないかな?」


 私のその言葉を、お母さんは一笑に付しました。


「あはは!!永久くらい可愛い女の子に抱き着かれて嬉しくない男なんて居ないわよ。それを耐える霧都くんの理性は本当にすごいわよ。まぁ、軽率にあなたに手を出す男じゃないからこそ、私は彼を信じてるわ」

「私は手を出して欲しいなって思うけどね」


 と少しだけ笑いながら私はそう返しました。


「私はまだ『おばあちゃん』にはなりたくないから、気を付けなさいよね?」

「あはは。うん。でも、まずは霧都くんから『最高のシチュエーションでの告白』を待つことにするよ。そして、それまではお母さんの言ったことをきちんと行うようにする」


 私がそう言うと、お母さんは安心したように息を吐きました。


「ふぅ……じゃあ永久。しっかりやりなさい。私は彼以外の男の子を『息子』にするつもりは無いわよ?」

「うん。大丈夫だよ。私も彼以外と結婚するつもりは無いから」


 私はそう言うと、椅子から立ち上がります。


 時刻を見るともうすぐ八時でした。


「霧都くんを起こしてくるね」

「うん。お味噌汁とごはんと目玉焼きを用意して待ってるわ」


 私はそう言うお母さんの言葉を背中に受けてから、自室へと向かいました。





 自室へと戻り、扉を開くと霧都くんはまだ寝ていました。


 ふふふ……可愛いですね。彼の初めては、先程私が奪ってあげました。そのことも知らずにスヤスヤ寝ています。


 私はそっと彼の隣に腰を下ろします。


「…………んぅ」


 そして彼の唇にもう一度キスをしました。


 …………好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き……大好きです……霧都くん。



 これまでで一番長い時間の深いキスをして、私は唇を離します。

 先程よりも多くの愛の雫が溢れ、私と彼の間で糸を引きました。


 足りない……足りないです……こんなんじゃ、全然足りません。もっと、もっと深く……彼と繋がりたい……


 身も心もひとつになって……どろどろになって……混ざり愛したい……


 でも、今はまだ我慢です……あぁ早く、早く彼が欲しい……



 そんな黒い欲望を、私は我慢します。



 そして、私は霧都くんの身体を優しく揺すりました。



「……ふふふ。起きてください、霧都くん。朝ですよ?」




 そんな言葉を添えて。

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