凛音side ②

 凛音side ②





「……以上が私と霧都の蜜月の時間の記録よ。ふふ。この音声をどう受け取るかは皆に任せるわ。ヤラセと取るか、霧都が永久を捨てて私を選んでくれたのか。……でも私が霧都を心の底から愛していると言うのは、嘘でもヤラセでも無く、本当の気持ちよ。まぁ……これをしたことで私が停学……もしくは退学になっても仕方ないとは思ってるわ。私はそのくらいの『覚悟』を持ってこの場に居るのだから。愛してるわ霧都。私は放送室の前で……貴方を待ってるわ」



 私はそこまで言うと、放送器具のマイクのボリュームを落としたわ。


「ふぅ……やり切ったわ……」


 ボイスレコーダーに録音していたデータの中で、一番破壊力のあるものを選んだつもりだ。

 長々と流しても効果的では無い。

 短い時間で記憶に残る物を使う必要があった。


 その中でも、私が流したあのデータは最適だったと自負している。


 霧都の告白から始まり、私の謝罪、そして……キスをした。


 完璧だと思う。あとは『霧都が永久の場所では無く、ここに来ること』それが叶えば作戦は成功ね。



「ふふふ。お疲れ様でした南野さん。貴女の『覚悟』は伝わって来ましたよ」


 そう言って私を労ってくれたのは、後ろで見守ってくれていた黒瀬先輩だったわ。

 三郷先輩は放送室の外で『万が一先生がやって来た場合に放送を止めさせない為』待機をしてくれているわ。


 あんな内容の放送をしたのだから、先生からの強制終了すら考えられたわ。

 ふふ。三郷先輩が上手くやってくれたのでしょうね。


「労いありがとう、黒瀬先輩。それで、貴女が望む『最高のラブコメラノベ』を見せてあげてるのだから、『報酬』も期待して良いのよね?」


 私がそう先輩に言葉を投げかけると、彼女は目を細めながらニヤリと笑う。


 ……ほんと、この女に『学園の聖女様』なんて二つ名をつけたのは誰よ。

 どう考えても二つ名と人間性が噛み合ってないわよ。


「ふふふ。そうですね。南野さんがこんな放送をしても停学や退学にはならないで済む。この程度の報酬でしたらすぐにご用意しますよ?」

「……この程度。と呼べるような報酬では無いように思えるけど……期待はしてるわ」

「ふふふ。まぁ反省文の一枚か二枚は書いてもらいますが、その程度で済ませて上げますよ。何せ私は『学年首席』『生徒会 副会長』『学園の聖女様』『桐崎悠斗のとても大切な女性』ですからね」


 ……本当に、この人を味方に出来たのは大きいわ。

 それに永久は黒瀬先輩を敬愛しているしね。

 この人が自分の味方では無いと知った時の永久の表情が見ものね。


 そして、私は放送室の椅子から立ち上がり、黒瀬先輩の横を抜ける。


「じゃあ私はそろそろここを出るわ。私の読みが……いえ、希望が叶えば……霧都が着てくれるはずよ」

「ふふふ。永久さんと南野さんの二択。私のスマホには、彼がどちらを選んだのかが、悠斗くんから連絡が来てます。知りたいですか?」

「……教えて貰えるかしら?」


 アイツの性格なら……七割位はこちらに来ると踏んでるわ。

 永久が『私と霧都がこういうことをしているという事を予想してる……もしくは知ってる』という前提を霧都は持ってる。

 ならば永久では無く、私の場所を選ぶはずよ。


 そして、黒瀬先輩から聞かされた言葉は、私の予想を裏切らないものだったわ。


「良かったですね、南野さん。桜井くんは放送室……貴女の元に向かってますよ」


 その言葉を聞いた私は思わず笑ってしまった。


「あはは!!本当にアイツはバカね!!大バカよ!!でもそんな霧都だからこそ!!私はアイツを愛してる!!」


 憂いが無くなった私は放送室の扉を開けて外に出る。


 すると、生徒会の顧問をしてる山野先生と三郷先輩が話をしていたわ。


「……南野。やってくれたな」


 扉が開いた音に反応して、こちらを振り向いたのは目尻を釣りあげている山野先生。

 ふふ。先生が生徒に向ける視線では無いと思うわよ?


 私はそんな視線を特に気にすることも無く言葉を返したわ。


「別に責められる事はしてないわ。霧都と過ごした時間の話をしただけよ。性行為をしたとかそんな事じゃないし。キスなんて今どき幼稚園児ですらしてるわよ?」

「はぁ……そう言う問題じゃないだろ……」

「ふふふ。山野先生。詳しい話は私が聞きますよ」


 私の横を通って黒瀬先輩が山野先生にそう話を切り出したわ。

 ふふ。どうやら『報酬』はきちんといただけそうね。


「はぁ……黒瀬と三郷が絡んでいるのか……頭が痛いな。全く……学校は恋愛の修羅場を作る場所じゃないんだぞ?」

「ふふふ。それは私より悠斗くんに言うべきかと?」

「あいつに関してはもう諦めてるよ。……さて、私の愚痴には黒瀬に付き合ってもらうか。おい、南野」

「何かしら?」


 私がそう言葉を返すと、山野先生は指を五本立てたわ。


「反省文。原稿用紙で五枚だ。それで勘弁してやるよ」

「あら。数が多いわね。もう少し負けてくれないかしら?」


 私がそう言うと、山野先生は軽くため息を着きながら答えてくれたわ。


「……はぁ。どうせまともに書く気もないんだろう。だったら三枚にしてやる。ちなみに黒瀬と三郷も一枚づつ書いてもらうからな」

「ふふふ。反省文を書くのは久しぶりです。去年の体育祭の時以来ですかね?」

「私はしょっちゅう書いてるからね。一枚ならちょちょいのちょいだね」

「三枚なら妥協点ね。とりあえず今学期中には提出して上げるわ」


「はぁ……それで構わない。じゃあ黒瀬と三郷は私に着いてこい。進路指導室で話がある」

「ふふふ。了解です」

「はーい。じゃあね南野さん。あとは頑張ってね」

「こちらこそ感謝するわ。ありがとう三郷先輩」


 私がそう言葉を返すと、三郷先輩は手をひらひらと振りながら、黒瀬先輩と山野先生と共に進路指導室へと向かったわ。


「ふふ。あとは霧都を待つだけね……」


 三人の背中を見送ったあと、私はそう呟いたわ。

 そして、すぐに私の耳にアイツの声が聞こえてきたわ。


「凛音!!!!よくも約束を破ったな!!なんてことは言わない!!だけど!!こんなことして何になるって言うんだよ!!」


 視線を向けると、これまでに見た事がないくらいに怒りを顕にしている霧都がこちらに向かって走ってきていたわ。


 ふふふ。ありがとう、私の元に来てくれて。

 北島永久では無く、私を選んでくれてありがとう。




 これで私は……アンタを永久から……






 奪えるわ。

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