第十四話 ~朝起きて自分の身の回りが少し変に思えたけど、気にしないことにしました~

 第十四話






 ぴぴぴ……ぴぴぴ……


 早朝。目覚ましのアラームが俺の部屋に鳴り響く。


 理性を失う前に寝よう。と思っていた俺だが、性欲よりも睡眠欲が勝ったようで、何とか眠ることが出来た。


 永久さんの『お誘い』を断ってしまったことに対しては、かなりの罪悪感があるが、思ったよりも彼女はそれに対して素直に応じてくれた。


 正直な話。ビンタの一発くらいは覚悟してたけど……


 そんなことを思いながら、スマホのアラームを止めて目を開ける。


「おはようございます。霧都くん」

「おはよう、永久さん」


 目を開けると、隣には天使が微笑みながら現世に降り立っていた。


「何だかんだ言って沢山歩いたからね、ベッドに入ったらぐっすりだったよ」

「ふふふ。そうですね、霧都くんはぐっすりでしたよ」


 ……そういう反応。ということは、俺が寝てからも彼女は起きていた。ってことかな?


 まぁ、見た感じ。永久さんは何やら『精気に満ちている』ように感じられる。


 余程良く寝れたのかもしれないな。


 ……と言うか、なんか下半身が濡れているような気がする。


 まさかとは思うけど『そっち系』のやらかしはしてないよな?

 中学時代。エッチな夢を見た時に一度だけやらかしたことがある。もう二度とあんな思いはしたくない。


 そっと確認をしてみたが……良かった大丈夫だ。

 ギリギリだったのかもしれないな。


 なんてことを考えながら、俺は永久さんに笑いかける。


「今日の朝ごはんはアジの干物だったよね。今から楽しみだよ」

「はい。ご飯は予約で炊いてあります。すぐにご用意しますね?」


 そんな会話をしてから、俺と彼女はベッドから出て部屋を後にした。


「…………ん?」


 パジャマの下。紐の結び目が俺が結んだ時と違う。


 立ち上がった時に気が付いた。


 ………………まぁ、良いか。


 寝てる時に解けて、永久さんが結び直してくれた。

 とかかもしれないな。


 下着が見えていて、目に毒だったのかもしれない。


 わざわざ聞くことでもないよな。


 そんなことを思いながら、俺は洗面所で顔を洗った。





 朝。テレビのニュース番組を見ながら時間を過ごしている。


 台所では永久さんが朝の支度をしてくれている。


 新婚生活。そんな単語が頭に過ぎる。



「永久さんとの結婚生活が容易に想像出来るよ」


 なんてことを呟きながら、プロ野球の試合結果を見ていると、


「お待たせしました、霧都くん」

「ありがとう、永久さん」


 焼いたアジとわかめと豆腐のお味噌汁。

 美味しそうに炊けたご飯に、納豆が添えられている。


 桜井家では納豆がみんな好きだ。

 でも、嫌いな人はとことん嫌う。


 凛音がそれだ。


 中学時代に、


『あんた……朝から納豆を食ったわね……匂いですぐにわかるわ。近寄らないでちょうだい』

『みんな好きなんだから普通だろ?と言うか、南野家でもお前以外はみんな好きじゃないか』

『うるさいわね。腐った豆を食べるなんて正気じゃないわよ』


 なんて言ってきたので、


 納豆が嫌いだから胸が育たないんだぞ?

 と言ったら、ぶん殴られた。


「永久さんは納豆は平気なタイプかな?」

「はい。大好きですよ」


 ふわりと微笑みながら、永久さんは答える。


「大豆は『畑のお肉』と言われてますからね」

「あはは……そうだね。お肉好きの永久さんらしい答えだと思ったよ」


 そして、俺と永久さんは「いただきます」と声を揃えてから、朝の食事を食べ始める。


 まず俺は納豆に何と加えずにかき混ぜる。

 そして、良く混ぜた後にカラシとタレと醤油を加える。


 いい感じに納豆が仕上がってきた。


「ふふふ。納豆をかき混ぜてるときの霧都くんの表情。可愛いですね」

「……え?ど、どんな顔してたの」


 向かいに座る永久さんが、微笑みながらそう言ってきた。


「ニコニコしながら納豆を混ぜてましたよ。余程嬉しいんでしょうね」

「あはは……ちょっと恥ずかしかったかな」


 何て他愛のない会話をしながら、俺と永久さんは朝ごはんを食べきった。



「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」


 朝からしっかりとご飯を食べて、これなら一日が頑張れそうだ。


「洗い物は俺がやっておくよ、永久さんは身支度とかがあると思うんだよね」

「はい。では霧都くん、よろしくお願いします」


 俺は空になった食器を持って台所へ向かい、永久さんは着替えをしに俺の部屋に向かった。


 そして、食器洗いが終わった頃に、


 ピンポーン


 とインターホンが鳴った。



「……え?こんな時間に誰だ?」


 美鈴なら合鍵で開けてくる。親父やお袋も同様だ。


「NH○かな?」


 なんて思いながらインターホンの前に映った人物を見に行くと、


「え……凛音?」


 制服姿のツインテールの女子高生が居た。


 何しに来たんだ?と思いながら俺は玄関へと向かい、扉を開ける。


 ガチャリと開けると、


「おはよう、霧都。ちょっと話しておくことがあって来た……ってあんた。納豆を食ったわね……」

「大好きなんだから別にいいだろ?それで、話したいことってなんだよ」


 眉をしかめる凛音に俺がそう話をすると、


「今週からバスケ部の朝練は体育祭の準備期間になったから、無しになったわ。流石に身体を動かさないと訛ってしまうから、アンタたちが朝に公園でやってるトレーニングに混ぜてちょうだい」


 そんな話をしてきた。


 なるほど。俺としては構わないとは思うけど……


「ふふふ。私も構いませんよ?」


「永久さん」

「……き、北島永久」


 奥から微笑みながらやって来る永久さん。


「な、なんであんたがこの時間の霧都の家に居るのよ」

「ふふふ。昨日は霧都くんとデートをした後に、お泊まりをしたからですよ?」


 睨みつけるような凛音の視線を、永久さんは微笑みを絶やさずに受け止める。


「ちなみに、霧都くんとは一緒のベッドで寝させてもらってます」

「は、はぁ!?高校生の男女が一緒のベッドで寝るとか、何考えてるのよ!!」


 お、お前がそれを言うなよ……


「私と霧都くんはお付き合いをしてますからね。別に普通かと思いますが?」

「……っ!!」


 悔しそうに唇を噛み締める凛音。朝から家の玄関で、やり合わないで欲しい。と思うけど、俺には何も言えない。


 ……きっと何か言ったら両者から怒鳴られる。


 そうしていると、永久さんが俺の横を通り過ぎ、凛音の横に行く。



「な、何よ……」


 戸惑う凛音の耳元で、俺に聞こえないように彼女が何かを耳打ちしていた。


 その言葉を聞いた凛音は、顔を真っ赤に染めて


「し、し、し、信じらんない!!何してるのよ、この痴女!!」

「ふふふ。高校生ならこの位は普通かと?」


 なんて会話をしていた。


「……はぁ。まぁいいわ。とりあえず、あの公園でのトレーニングには混ぜてもらうわよ」

「はい。お待ちしてますね」

「今回は負けを認めてあげるわ。あんたの覚悟を見誤ってたわよ」


 凛音そう言い残して、玄関から外に出て行った。


「そ、その……永久さん?」

「はい。なんですか?」


 俺の問いに、彼女はふわりと微笑みながら振り向く。


「り、凛音には何を言ってたのかな?」


 俺がそう言うと、永久さんは人差し指を一本立てて


「禁則事○です♪」


 と答えた。




 ……君は天使でもありながら、未来人でもあったんだね

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