永久side ①

 永久side ①





 桜井くんを見送ったあと、教室では桐崎さんとお話をして、彼からの連絡を待つことにしました。


『俺は君と恋愛をしたいと思ってる。恋人になりたいと思っている』


 そう桜井くんは言ってくれました。


 桐崎さんも、


『桜井くんはね、『永久ちゃんと胸を張って恋人になる為に、凛音ちゃんの所に行った』んだよ』


 そう言ってました。


 私は、彼の言葉と、知り合って間もないですが、きっと『親友』と呼べる存在になると思う彼女の言葉を信じました。


 そして、


 一時間目が終わりました。

 当然ですが、連絡はまだ来ません。

 喧嘩をしているのでしょうか、話し合いが長引いているのでしょうか……


 二時間目が終わりました。

 やはり連絡はまだ来ません。

 どうしたのでしょうか……心配です。


 三時間目が終わりました。

 連絡が来ないです。

『南野さんとはどうなりましたか?』

 と打ち込んだメッセージを消しました。

 催促する女にはなりたくないです……


 四時間目が終わりました。

 連絡は……まだ来ません……

 桐崎さんと食堂でご飯を食べました。

 焼肉の味が……しませんでした……


 五時間目が終わりました。

 来てません……


 放課後になりました。

 来てません……


 桜井くん……桜井くん……桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん桜井くん……どうして……どうして連絡をくれないんですか……?


 私はふらふらと、夢遊病患者のように職員室へと向かいました。


 そこで、担任の根岸先生から、今日の配布物を桜井くんに届けるために、彼の住所を教えてもらいました。

 小学生の頃の住所と念の為照らし合わせてみましたが、変わりは無いようでした。

 良かったです。これで、彼に会いに行けます。


 私は一度家に帰りました。


 制服で出歩くのは何かと不便な部分もあるからです。


 一時間ほど掛けて帰宅をしましたが、桜井くんからの連絡は当然ですがありません……


 私の中に、少しづつ、少しづつ、暗い感情が湧いてきます……



『俺は君と恋愛をしたいと思ってる。恋人になりたいと思っている』


 ふふふ……恋人になりたいと思ってる女の子を放ったらかしにして、何で他の女の子とこんなに長い時間一緒にいるんですか?


 もう……仕方の無い人ですね。


 憧れの黒瀬先輩も、おいたをした桐崎先輩に仰ってましたね。


 桜井くん……おしおきですよ。


 私は少し大きめのバッグに『お泊まり』が出来る準備をしていきました。


 そうしていると、後ろからお母さんが話し掛けてきました。


「あら、永久。どうしたの?どこかに泊まるの?」

「うん。『とても大切な用事』があるから」


 私はそう言うと、お母さんに笑いかけました。


「もう高校生だし、あまり心配しないで大丈夫だよ?」

「……そ、そう……わかったわ」


 どうしたのでしょうか?お母さんの表情が少しだけ引きつってたように見えました。まぁ……良いですよね。


「確かお父さんは今日は帰って来ないんだよね?」

「そ、そうよ。飲み会だからそのままホテルに泊まるって話してたわ」


 あぁ……良かった。少しだけ過保護なお父さんだとうるさいことを言われるかも知れません。


 でも、何を言われても辞めないとは思ってましたけど。


 私は荷物を詰め込んだバッグを肩にかけました。


 明日は土曜日。明後日は桜井くんとのデートの日。

 嬉しいです。二日も彼と一緒に居られます。


「じゃあお母さん。行ってきます」

「うん。その……誰の家に泊まるの?」


 あはは……そうですね。それを言って無かったです。


 私はお母さんにきちんと説明しました。


「桜井霧都くんのお家。お母さんには良く話したよね?小学生の頃に私を助けてくれたヒーローで、将来の旦那様だよ」


 そう言って、私は家を後にしました。


 お母さんが何かを後ろで言っていたような気もしますが、行ってらっしゃい!!とか頑張って!!だと思います。

 お母さんはいつも私の味方ですから。




 そして、私は荷物も多いので、駅まではバスを使って移動する事にしました。自転車だと危ないですからね。


 少しするとやって来たバスに乗って再び駅に着きました。その後は電車に乗って彼の家の最寄り駅まで移動しました。


 電車の中は少しだけ混んでたけど、『変なことをするような人』には遭遇しませんでした。

 あぁ良かった。私の身体は彼以外には指一本だって触れさせたくないですから。


 そして、ご自宅の最寄り駅に着いたのが夜の十九時になった頃です。


 その時でした。


 ついに待ちわびた彼からの連絡が私のスマホに届きました。




『とりあえず凛音と仲直りは出来ました。彼女の家でご飯を食べることになりそうです。夜遅くになるかもしれませんが、電話をさせてください』


 桜井くんからのメッセージです!!

 仲直りをしたのは良かったです!!


 ……そうですか……南野さんのご自宅でご飯を食べる。


 ふふふ……まだ、彼女と一緒に居るつもりなんですね……



『どんなに遅くても(ご自宅の前で)待ってます。あなたが出した答えを(直接)聞かせてください』


 私はそういう意味で返信を送りました。

 電話?ふふふ……そんなものでは私は納得しませんよ?


 私はとりあえず夕飯としてコンビニでおにぎりと飲み物を買おうと思いました。


 そして、そこでふと思いました。


「そうです。男性のご自宅にお泊まりをするのですから、これも必要でしたね」


 これを買うのは少しばかり恥ずかしいですが、無いと桜井くんが決断してくれないかも知れません。

 ふふふ……私は別に無くても良いのですが……


 私はおにぎりを二つとお茶を一つ。そして『淑女の嗜み』を一つ買って、コンビニを後にしました。

 店員さんは女性でしたので、気を利かせて紙袋に入れてくれました。

 表情を見ると『頑張ってね!!』と言ってくれてるような気がしました。はい。頑張ります。


 そして、自転車では無く、バスで桜井くんの家の近くまで行き、そこからは歩いて行きました。


 多少は疲れを感じましたが、これから彼に会えるという悦びに比べたら、この程度は些事です。




 そして、しばらく歩くと彼の自宅の前に着きました。


 南野さんの自宅と、桜井くんの自宅には明かりが着いていました。彼はもう自宅に戻っているのでしょうね。


 何故?私に連絡をくれないのですか?


 ふふふ……もう、彼は本当に私を焦らすのがお好きですね……


 私がひとつ、おにぎりを食べ。ふたつ目を食べ終り、パックのお茶を飲み干したときに、桜井くんの家の玄関が開きました。


 そして、そこから中学生くらいの女の子が飛び出していきました。


 その子は家の塀の前に居た私には気が付かず、隣の南野さんの家へと向かっていきました。


 ……もしかして、妹さんですかね?


 となると、今。桜井くんの自宅には彼一人。そうなりますね。


 ふふふ……それは好都合ですね。


 私はスマホを片手に、いつでも彼の連絡を受け取れるように準備をしました。


 軽く見たスマホの着信履歴には、自宅とお母さんで埋まってました。


 あぁ……うるさいのでマナーにしてシカトしてましたが、気にしないことにしましょう。それよりも大切なのは、今、目の前のことです。


 すると、私のスマホが桜井くんからの着信を知らせました。


 プルル……ピ


 私は当然ワンコールで出ます。

 桜井くんは私を焦らしますが、私は彼を焦らしませんよ?


『はい。もしもし、北島です。桜井くんですね』


 私は感情を表に出さないように気を付けながら話をします。


「うん。遅くにごめんね。これからちょっと話せるかな?」


 ええもちろんです。そのために私はここまで来たのですから。私は、


『はい。大丈夫ですよ。今『家の前』に居ますから』


 そう言って、自身の所在地を伝えました。


「俺も家の外に出ようかな。同じ夜空を見ながら話をしようか」


 彼もそれをわかってくれてたようです。

 同じ夜空を見ながら。なんてロマンチックですね。

 ふふふ……流石は桜井くんです。


『そうですね。では、お待ちしております』


 私がそう伝えると、すぐに玄関の扉が開きました。

 そこから姿を現したのは、部屋着に着替えた桜井くんです。

 あぁ……部屋着姿もかっこいいです……


「こんばんは。桜井くん」


「……き、北島さん」


 ようやく出会えた最愛の男性を、私はとびきりの笑顔で出迎えました。





 さぁ……たくさんお話を聞かせてくださいね?

 時間はたっぷりと、ありますから……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る