第二話 ~美鈴に凛音との事を話しました~

 第二話




 雅紀さんとの話を終え、俺は部屋の外へ出る。


 すると、


「話は終わった?」

「うん。雅紀さんからの理解は貰えたかな」


 部屋の外では美鈴が待っていてくれた。


「話してくれるんだよね?」

「もちろん。その上で、もう一度美鈴には凛音との事を考えて欲しいかな」


 俺がそう言うと、美鈴は一つだけため息ついて、


「わかった」


 とだけ言った。







 凛音の家を後にした俺と美鈴は、自宅の居間で向かい合って座った。


「じゃあ話してもらえる?」


 俺は氷の入っていない麦茶を一口飲んでから、話し始めた。


「まずは、凛音が良く使っていた『血の繋がった家族』だけど、これは『血縁』について話してたわけじゃなかった」

「……うん」


「大切な思い出や、過した時間、受け取った愛情、そう言ったものをアイツは『血』と呼んでいたんだ」

「……凛音ちゃんが、静流さんと血が繋がってない。雅紀おじさんの連れ子だってのは知ってる。でも、どうしてそこまで『血の繋がった家族』に拘ってたの?」


 俺は少しだけ目を伏せて、言う。


「美鈴なら、口を割らないと信じてるから言う」

「……うん」


「凛音はな、実の母親から虐待を受けていた」

「……っ!!」


「美鈴は覚えてるかわからないけど、出会ったばかりの頃の凛音と今の凛音の性格は違うんだ」

「……うん。確か、昔はすごく大人しかったと思うよ」

「母親の影響で、感情を表に出せなくなってたんだ。そんな凛音を笑わせてやりたい。幸せにしてやりたい。それが俺の恋心の始まりだったよ」

「……そうなんだ」


「そして、俺も凛音もお互いに『家族』になりたいと思っていた。俺はアイツと結婚をして『夫婦』になりたいと思っていた。でもな、アイツは両親の離婚を見ていたから、『夫婦』では無く、一生死ぬまで切れない永遠不滅の絆。『兄妹きょうだい』になりたいと思っていた。だけど、妹には美鈴が居たから、『姉』になるしか道はなかった。そう話してたよ」

「…………そっか」


 バカだなぁ……凛音ちゃん。

 お兄ちゃんが離婚なんかさせるわけないのに……


 麦茶を飲んで、俺は一息をつく。


「俺も凛音も、色々考えすぎてたんだよな。だからさ、俺は言ったんだ」

「……なんて?」


「幼馴染でも、家族でも、姉でも妹でもなんでもなく、『他人』に戻ろう。そして、もう一度、最初から、俺と凛音の新しい形をこれから作っていこう。そう話した」

「……悪くないと思うよ」


 美鈴はそう言うと、俺の目を見て言った。


「今から……凛音ちゃんに、謝ってくる」

「……うん。わかった」


 本気で言ってそうだから……『止めなかった』


 美鈴は立ち上がると、玄関の方へと歩いて行った。

 俺はそれを着いていく。


「すぐに戻るかわからない」

「うん。なんなら泊まっても構わないよ。明日は土曜日だから学校も無いし」

「あはは……お兄ちゃんみたいに添い寝でもしてこようかな」


 なんてことを言って、美鈴は玄関から出て行った。


 それを見送った俺は、スマホを手にして、北島さんに電話をした。


 プルル……ピ


『はい。もしもし、北島です。桜井くんですね』


 すごく出るのが早かった。


「うん。遅くにごめんね。これからちょっと話せるかな?」


 俺は少しだけ驚きながらも、会話を紡ぐ。


『はい。大丈夫ですよ。今『家の前』に居ますから』


 家の前?電波かな?それとも家族に会話を聞かれないようにするためかな?

 ……そうだな、家の中だと電波も気になるし、俺も外出ようかな。

 北島さんと同じ夜空を見て話すのも悪くないと思うし。


「俺も家の外に出ようかな。同じ夜空を見ながら話をしようか」

『そうですね。では、お待ちしております』


 お待ちしております?


 俺は訝しげに思いながら、玄関を開けて家の外に出ると、


「こんばんは。桜井くん」

「……き、北島さん」


 姿を見せたのは、私服姿で大きなバッグを肩から下げ、スマホを片手にした美少女。


昏く、淀んだ眼差しで、ほほ笑みを浮かべる北島永久さんが、俺の目の前に佇んでいた。

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