第二十六話 ~北島さんからの叱責は心に響きました~

 第二十六話




「ど、どうしたんですか……桜井くん……」

「おはよう、北島さん。ごめん、今日は待たせちゃったね」


 俺が駅に辿り着くと、北島さんは既に駅に到着していたようだった。


 あはは……何やってんだよ、俺。彼女を待たせたらダメだろ……

 途中で自転車から転けたのが原因かな……


 そんな彼女は、俺の様子に少しだけ心配そうに声を掛けてきた。だが、俺はそれに本当のことで答えることはしなかった。


「す、すごく辛そうな顔をしてます。こ、転んだんですか?顔にすり傷がありますよ。それに……寝てますか?目の下のクマも凄いですよ」

「あはは。いやー昨日はゲームに夢中になっちゃってね。徹夜をしちゃったんだよね!!そのせいでふらついて転けちゃったんだよね。かっこ悪いなぁ俺!!」


 俺はそう言うと、学校の方へと身体を向ける。


「早めに学校に行って、少しでも寝れるようにしようかな!!あはは!!」

「……桜井くん」


 訝しげな表情の北島さん。俺は強引に話題を変えるようにした。


「今日から生徒会の業務も本格的に始まるね!!庶務の仕事ってなんなのかな?上手く出来るか不安だけど、頑張って行こうと思うよ!!」

「……あなたが話したくないなら、私は聞きません」

「……え?」


 北島さんはそう言うと、俺の目を見て言った。


「ですが、あなたにとっての私は、その程度の人間ですか?」

「北島……さん……」


「なんでも話して欲しい。そんなことを言うつもりは一切ありません。でも!!そんなに辛そうなあなたを見せられて、私がなんとも思わないと思っているのなら!!バカにしないでください!!」

「…………」


「心配するに決まってるじゃないですか!!何かあったと直ぐにわかります!!私の気持ちをあなたは知ってますよね!?だったら、そんなことをされるこっちの気持ちもわかってください!!」


 俺は、本当に、何をやってんだよ……

 彼女にここまで言われなきゃ……わかんないのかよ……


「…………ごめん。北島さん。俺が、悪かった」


 俺はそう言うと、彼女に頭を下げる。


 そして、


「俺の話を、聞いてくれないか?」


 その言葉に、北島さんは真剣な表情で、首を縦に振った。


 話そう。全部を。


 それで、もし彼女に嫌われるのなら、もう一度。好きになって貰えるように、ゼロなんて贅沢は言わない。マイナスからでも頑張ろう。


 俺はそう思った。





 駅の前のベンチに二人で座り、俺は彼女に話を始める。


「入学式の前の日。俺は凛音に告白をしたんだ」

「……はい」


「幼馴染では無く、恋人になって欲しい。俺のそんな告白に、凛音はこう言ったんだ」


『アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!』


「な、なんでそんなことを……」

「凛音にとっての俺は『出来の悪い弟』みたいでな。異性として見たことは一度もない。そう言われたよ」


 俺のその台詞に、彼女は言葉を失った。


「凛音にとっての俺は『幼馴染』では無く『家族』だと言われた。だから、入学式の日。君の前でアイツとの関係性を『ただの幼馴染』と言ったのが許せなかったみたいだね」

「南野さんは、良く『家族』という言葉を使います。執着してるとも思えます。なにか理由があるのでは無いですか?」


 彼女のその質問に、俺は答える。


「その理由を、聞かないで逃げてきたんだ」

「……え?」


 俺は彼女から視線を外して、下を向く。


「昨日。凛音から告白された」

「え!!??」


 驚く彼女に俺は続ける。


「霧都の彼女になってあげるわ。と、言われた。理由を聞いたら許せなかった」

「な、なんて言われたんですか?」


「恋人なれば『家族』になれると言われた。そして『弟のわがままを聞くのは姉の務め』そう言われた」

「そ、そこまで……」


「流石に俺もかなりイラッと来てね」


 俺はそう言うと、スマホを取り出す。


「電話は着信拒否にした。メッセージアプリもブロックした。アイツとの連絡手段は全て絶った」


 彼女は再び言葉を失った。


「そして、俺は寝れないまま今日を迎えた。そして、家の前には、俺と同じ顔をした、凛音が居た」


 俺は頭を抱える。情けない、かっこ悪い、死んでしまいたい。


「俺は、凛音の言葉を聞くのが怖かった……聞いたら、揺らいでしまうから……」


「揺らいで……しまう?」


 その言葉に、俺は顔を上げて彼女の目を見て答える。


「俺は君と恋愛をしたいと思ってる。恋人になりたいと思っている」

「……はい」

「その決意が……凛音と話したら、揺らいでしまうもしれない……そう考えたら……怖くて何も聞けずに逃げて来た……」


 ははは……終わったな。


 こんな男、嫌われて当然だ……


 この後、彼女から何を言われるだろうか。


 もうあなたなんか好きじゃありません。


 そのくらいは言われるかな。


 そんなことを思っていた。


 だけど、言われた言葉は………………もっと辛辣だった。


「最低です。嫌いです。私は……桜井くんを許せません」

「…………そうだよね。理由をも聞かずに逃げ……」

「違います!!」

「……え?」


 北島さんは、怒りの眼差しで、俺のスマホを指さした。


「なんで、なんで南野さんの電話を着信拒否にして、メッセージアプリをブロックなんてしたんですか!!」

「……そ、それは」


 彼女は目を伏せて言う。


「……私は……小学生の時に……虐められてました」

「……うん」


 彼女はすごく辛そうな顔をしている。


「その中には……『無視』もありましたよ」

「…………っ!!」


「桜井くんは……桜井くんは!!私をいじめから助けてくれたヒーローです!!そんなあなたが!!なんで南野さんを『無視』するような虐めをするんですか!!」


「逃げるのは仕方ないです!!でも、無視はしてはダメです!!今すぐ着信拒否とブロックを解除してください!!」

「は、はい!!」


 俺は直ぐにスマホを操作して、凛音の着信拒否とブロックを解除した。


「今すぐ行ってください!!」

「……凛音の……ところに、かな」


 俺のその言葉に、彼女は首を縦に降った。


「私が好きになった桜井くんは、『他人の痛みがわかる、優しい人』です。桜井くん……私にもう一度、あなたを好きにならせてください」


 彼女はそう言うと、フワリと笑った。


「……ごめんね、北島さん。俺、凛音のところに行くよ。そして、謝ってくる」

「はい。全部終わったら、話してくださいね。その……桜井くん……立って貰えますか?」

「……え?……はい」


 俺な立ち上がると、その前に北島さんも立つ。

 そして、彼女は俺の身体を抱き締めた。


「き、北島さんっ!?」

「…………桜井くん。頑張ってください。私ごときの抱擁ではなんの足しにもならないかも知れませんが、桜井くんならしっかりと解決してくれると信じています」

「ごとき。なんかじゃないよ。すごく力になってるよ」


 そして、彼女は強い目で俺を見て言う。


「南野さんはライバルですが、敵ではありません。こんな形で勝つのは不本意です。キチンと正々堂々と正面から勝ってみせます」


 彼女はそう言うと、俺から離れた。


「行ってらっしゃい。桜井くん」

「うん。行ってきます、北島さん」


 俺は彼女に別れを告げ、自転車を元来た道へと走らせた。


 先程までの胸の痛みはもうない。


 あるのは、北島さんへの感謝と、凛音への謝罪の気持ち。


 もう一度。北島さんに好きになって貰えるように、

 もう一度。凛音と笑い合えるように、


 俺は全力で自転車を漕いだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る