第二十話 ~彼女と過ごす二日目・ちょっと目を離した隙にナンパされるとかやっぱり油断は禁物なんだなと思いました~

 第二十話





『ショッピングモール』




 駅からバスで移動した先にある、県内最大規模と言われる大型のショッピングモールは、洋服だけでなくスポーツ用品や本やメガネなども専門的に扱う店が豊富にある大型の施設だ。


 食事処も豊富にあり、和洋中だけでなく、話題の韓国料理も楽しめる場所もある。その他にも駅前の規模に負けない広さのゲームセンターや、映画館なども併設されている。


 一日かけて遊んでもお釣りが来るレベルの、十分過ぎる広さを誇っている。


 高校生のデートスポットとしてはある種定番のような場所でもあった。


「まずは俺の服から見てもらってもいいかな?」


 永久さんとはぐれないように、俺たちは手を繋いで歩いていた。

 学校で練習をしていたので、握手になってしまうことは無かった。


 まぁ少し……いや、とても緊張しているので、手汗が気になるところだけど……


「構いませんが、何故か聞いてもいいですか?」


 首を傾げる永久さんに俺が言う。


「いや、俺のはすぐに決まると思うからさ。永久さんの方に時間を掛けたいなぁって思ったね」

「ふふふ。そうですか。ではメンズファッションのお店に行きましょう」


 俺と永久さんはモールの入り口にある案内板を見て、メンズファッションのお店を探す。


「三階にあるね。隣はレディースのお店みたいだね」

「はい。ではそちらに向かいましょう」


 エレベーターを使って三階へと移動する。

 エレベーターの中に映った自分と永久さんの姿を見る。


 鏡に映った彼女の姿はやはり綺麗だった。

 こんなレベルの高い彼女と、釣り合って見えてるだろうか……


「こうして並んで見ると、霧都くんはやはりかっこいいですね」

「……え?」


 俺を見上げる永久さんの頬は少し赤く染まっていた。


「あなたの良いところは内面にある。そう思いますが、顔立ちも整ってますし、髪型もオシャレです。背も高いですし筋肉がしっかりと着いていて身体もがっしりとしていて男らしいです。立ち姿も猫背ではなく真っ直ぐなのは素敵です。美鈴さんのコーディネートでしょうね。こういうシンプルな服装が似合うのはすごいと思います」

「……そ、そうかな」


 思った以上にべた褒めで照れてしまう。


「霧都くんは気が付いて無いでしょうけど、何人もの女性があなたを見てましたよ?ふふふ。あなたたちには渡してあげませんよ。と何回視線をその人たちに送ったかわかりません」


 わ、わからなかった……


 寧ろ永久さんを見る男どもに視線を向けていたからな。


 そんな話をしてると、エレベーターは三階に着いた。


「そんなあなたをもっとかっこよくするのは腕が鳴ると同時に、これ以上他の女性に見せたくないなという気持ちも出てしまいます。ふふふ。悩ましいですね」


 なんて言いながら、エレベーターを降りてメンズファッションのお店に歩いて行った。


「まぁ、俺も君がたくさんの男の視線に晒されてるのは気分が良いものでは無いと思うけど、見せびらかしたいって気持ちもあるんだよね?」

「ふふふ。わかります。私もあなたを見せびらかしたい気持ちはありますよ」



『いらっしゃいませ!!どうぞごゆっくりご覧下さい!!』


 店内に入ると、オシャレな男性の店員さんが挨拶をしてくれた。



『どのような服をお探しですか?』


 と店員さんから言われたので、


「とりあえず、大きいサイズのコーナーに案内してもらってもいいですか?」


 と答えた。


『了解しました。こちらです!!』


 正直な話。

『オシャレな服』を探す前に『着れる服』を探さないといけないのが辛いところなんだよな……


 なんて思ってると、店員さんに案内されたコーナーには、XLサイズ以上の服が豊富にあった。


「すごい豊富にありますね。びっくりです」

『最近では身長の高い方だけでなく、ゆったりとした服を着たい。という方も増えてますからね。では、彼女さんとごゆっくりどうぞ』


 と店員さんは一礼して去って行った。


「さて、霧都くん。どんな服を着たいですか?」

「え?俺が選んでいいの!?」


「ふふふ。ここにプロ野球チームのロゴが入った服は無いですよ?」

「か、からかわないでよ……」


 俺はそう言うと、目に付いたのは赤いTシャツと黒のワイドパンツと書いてある服だ。

 ゆったりとした服を着たいなぁって思ってる。


「これとこれなんだけどどうかな?」

「はい。悪くないと思いますよ。細いスキニーパンツとかですと霧都くんでは履くのがキツイかなと思いますので、ワイドパンツは良い選択です。赤はファッションとしては難しい色ですが、明るいイメージがありますので、霧都くんには似合う色だと思います」


 そう言ったあと、永久さんは一枚のジャケットを持ってきた。


「これを組み合わせるともっと良いと思います。全部買っても一万円を出ませんので、霧都くんの予算の範囲で収まりますよ?」


 そう。軽く予算の話はしていたんだよな。


「うん。じゃあ試着してくるね」

「はい。ではこちらで待ってます」


 着る服を持って試着室に入る。


 来ていた服を脱いで、選んでもらった服を着ていると、


『ねぇねぇ良かったらこの後俺たちとどっか行かない?』

『いえ。お断りさてもらいます』

『そんなつれないこと言わないでよ。どうよ、君の彼よりいい男の自信あるよ?』

『はあ?あなた達より霧都くんの方が百倍はかっこいいです』

『キリトくんwww』

『二刀流ですかwww』


 ……はぁ。ちょっと目を離した隙にこれかよ。


 俺は急いで試着を終えると、扉を開けて目の前にいるクソ野郎二人に話しかける。


「おい、俺の『彼女』になんの用だよ?」

「霧都くん……」


 すごく困った表情をしてる彼女とクソ野郎の間に入る形を取る。


「試着室の中で聞いてたけど、散々好き勝手言ってくれてたな?俺よりお前らの方が良い男?……は?そんなひょろひょろのチビの癖して何言ってやがる」


 180を超える俺が、170そこそこのクソ野郎二人を見下ろす。

 大してトレーニングもしてないような薄い身体。

 俺からしてみればなんの怖さも無い。


「ち、チビだと……」

「調子に乗るなよ……」


 一触即発。と言う雰囲気だが、俺は冷静さだけは失わないようにしていた。


「すみません!!店員さん!!変な人が絡んできてます!!」

「はぁ!?」

「てめぇ何言って……!!」


 俺の声を聞いた店員さんはすぐに飛んで来てくれた。


『お待たせしました!!……あぁ!!あなた達は出禁にしていたはずですが!!なぜ来ているんですか!!』

「やべぇ、逃げるぞ!!」

「ちぃ!!覚えてろよ!!」


 覚えてろよ?ふーん。わかった。


 俺はクソ野郎二人の顔をしっかりと頭の中に刻み込んでおいた。


 店内から逃げ帰っていく二人を見ていると、店員さんが頭を下げてきた。


『申し訳ございません!!あの二人は時折やって来ては彼女連れのお客様のお連れの方に声をかけるという悪質行為をしてる人間でして、出禁にしていたんですがくぐり抜けて来たようです……』


「あはは……そうだったんですね……」


 俺はそう言って苦笑いを浮かべると、店員さんは一枚のチケットを出してきた。


『お詫びの品という訳ではございませんが、当店の割引券でございます』

「そこまでしてもらってすみません。ですが、ありがたくいただきます」


 受け取らないのも失礼になるので、俺は店員さんから割引券を受け取る。


『それでは、今度こそごゆっくり。先程は大変失礼致しました』


 店員さんはそう言うと、一礼して俺たちの前から去って行った。


「ふぅ。ごめんね、永久さん。俺が目を離した隙に嫌な思いをさせて」


 俺がそう言うと、永久さんはフワリと笑ってくれた。


「いえ、気にしないでください。私のことを『彼女』と呼んでくれた歓びに比べれば、あの程度のことは些事です」

「……あ」


 そうだ。どさくさに紛れて永久さんを『彼女』と呼んでいた。


「ふふふ。ありがとうございます、霧都くん。今の私はとても気分が良いです」

「そ、それは良かったよ」


 そして、俺は改めて彼女に新しい服を着た姿を見てもらう。


「はい。とてもお似合いです。かっこよすぎて惚れ直してしまいました」

「あはは、ありがとう」


 俺はそう言うと、試着室に戻る。


「それじゃあ元の服に着替えるね。この服は買うことにするよ」

「はい。ではお待ちしています」


 永久さんはそう言ったあと、イタズラっぽく笑って俺に提案した。


「ナンパされないように霧都くんの試着室に入っても良いですか?」

「だ、ダメだよ!!店員さんに誤解されちゃう!!」


 試着室の中で『そういう事』をしてるって思われちゃう。

 俺たちが出禁にされてしまう可能性すらある……


「ふふふ。冗談ですよ?」

「あはは……ほんと、永久さんの冗談は心臓に悪いよ……」


 俺はそう言いながら、試着室の中で着替えを済ませた。




 永久さんがナンパされることは、今度は無かった。

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