第二話 ~俺と同じくらい早くに登校する奴なんて居ないと思っていたけど、二人だけ居たようです~

 第二話





 公立 海皇高校。県内でも有数の進学校で、偏差値も高めだ。部活動も活発で、全国区に進出する部活も少なくない。そんな高校に『自転車で行ける距離だから』という理由で進学する凛音について行くため、猛勉強をして何とか滑り込みで合格することが出来た。


 はぁ……本当なら、この高校で凛音とイチャイチャラブラブの恋人生活をするつもりだったのに……


 なんてのことを考えながら自転車を走らせること二十分。


 俺の目の前には大きな高校が見えてきた。


 俺は駐輪場に自転車を停めると、クラス分けの紙が貼ってある場所へと向かう。


 まだ誰も登校なんかしてないよな。


 なんて思いながら歩いていると、俺と同じ新入生だろうか?クラス分けの紙が張り出されている場所の前に一人の女子生徒を見つけた。


「おはよう。君も早くに来ちゃった感じかな?」

「……え?」


 無言で隣に立つのも嫌だと思った俺は、なるべく気さくな感じに彼女に話しかけた。


「いやぁ、俺も前日は寝れなくてさ。遅刻するのも嫌だから早くに来ようと思ってね。一人でのんびりクラス分けの紙でも見ようかと思ってたんだよね」

「………………」


 そんなことを言う俺を、振り向いた女の子はマジマジと見つめている。


 ……ん?なんだろ。この女の子、どっかで見たことがあるような……

 てか、この子。めちゃくちゃ可愛いな。


 そんなことを考えていた俺の目の前で、女の子は涙を浮かべ始める。


 えぇ!!??

 な、何があった!!??

 お、俺なにかした!? !?!?


 突然の出来事に困惑する俺。

 そんな俺に、彼女は追い討ちをかける。


「桜井くん……ですよね……」

「…………え?」


 な、なんで俺の名前を知ってるの!!!???


「小学生の時。虐められてた私を助けてくれましたよね。お久しぶりです、北島永久きたじまとわです……」

「北島さん!?」


 そうだ。確か小学五年生の時に、クラスで虐められてる女の子が居た。筆記用具を隠されたり、体操服に落書きをされてたりしたのを知って、俺は正義感を拗らせて助けてたんだ。


 そのせいで逆に俺が虐められることになりかけてたけど、隣のクラスの凛音がそれを知ってブチ切れてそうはならなかった。

 と言うエピソードがある。


「確か、あの後引越しして転校したんだったよね?」

「はい。ですが桜井くんのことを忘れた日は一度だってありません……」


 北島さんはそう言うと、目尻の涙を指で拭った。


「今、クラス分けの紙を見て居た時に、あなたの名前を見つけました。本当に驚きました。ですが、その時から、もしかしたら会えるかもしれない。あの時、言えなかった私の気持ちを、今度こそ言える。そう思っていました」

「そ、そうなんだ。ちなみにクラス分けはどうだった?」


 そんな俺の問いに、北島さんは微笑む。


「神様が私たちを祝福してくれているのでしょうね。同じクラスでした」

「そ、それは良かったね」


 俺は彼女に言われてからクラス分けの紙を見る。


 確かに彼女と俺は同じクラスだった。

 ちなみに……凛音も同じクラスだった。


 マジかよ……あんな振られ方したのに……


 凛音と同じクラスになれたのは十年間で一度も無い。

 だからこの結果には本当に驚いた。


「桜井霧都くん」

「……え?」


 突然呼ばれたフルネームに俺は驚きながら、彼女を見る。


「小学生の頃から、今日に至るまで、あなたの事を忘れた日はありません。愛が重いと言われるかも知れませんが、これが私です」

「…………北島さん」


 決意を込めた眼差しが俺を捕える。

 わかる。彼女が言おうとしていることが。

 だって、昨日の俺と同じ目をしているから。


「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」


 彼女はそう言うと、俺を抱きしめてきた。


 女の子らしい柔らかな彼女の身体に包まれる。


「き、北島さん……」



 ドサリ……



 と、後ろで何かが落ちる音がした。


「……え?」


 俺は後ろを振り向くと、


「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」

「………………凛音、なんでここに」



 朝が苦手で起きられないはずの凛音が、俺と北島さんが抱き合っているのを目撃していた。

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