凛音side ①
凛音side ①
高校生活の一日目。
私は最悪の気分で目を覚ました。
普段は早起きなんかしない……出来ない私だけど、この日はかなり早く起きてしまった。
それもこれも全部霧都のせいよ!!
『家族』だと思っていた霧都からまさか『恋人』になってくれだなんて言われるとは思ってもいなかった。
アイツのことを一度だって『男』として見た事なんて無かった。
だって……仕方ないじゃない!!
小さい頃からずっと一緒に過ごしてきて、お風呂だって共にしたこともあった。
そんなアイツを今更異性だなんて思えるはずが無い。
アイツは私にとって家族で、それは共通の認識だと思っていた。
正直な話。恋人なんかよりずっとずっと深い関係だと思っていた。
にも関わらず、アイツは私に『恋人になってくれ』と言ってきた。
事実上の格下げと同じだと思った。
だから私は言ってやったのだ。
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!(ずっと家族だと思ってたのに今更恋人なんて格下げをされるのは無理!!)」
と。
「……………………え」
驚いた顔をしてる霧都。どうやら私の言いたいことは伝わったように見えるわね。
「言いたいことはそれだけ?」
私はこの期に及んで『恋人への格下げ』をしようとするような発言はしないわよね?という意味で聞く。
「…………はい。そうです」
霧都はキチンと頷いてくれた。
ふん!!わかればいいのよ!!
「そ、ならもうアンタと話すことは無いわね」
私はそう言うと、自分の家に戻ったのだった。
そして、新学期に向けた準備を済ませ、早めにベッドに入って眠りについた。
そうして迎えた今日。私は顔を洗って身支度を整える。
いつもより早起きしたけど、いつもより早くに寝たので睡眠時間は減ってない。眠気はそんなに無かった。
洗面台の前で私はツインテールの位置を修正する。
この髪型は霧都が好きだと言うから続けている髪型だ。
高校生にもなってこの髪型はさすがに『イタイ』と思うけど、『大切な家族』が言うなら仕方ない。我慢してあげることにしてる。
そうして身支度を整え終えると、私のスマホが鳴っていた。
「……こんな時間から誰よ」
私は訝しげに思いながらスマホを確認すると、
『桜井美鈴』
と表示されていた。
もう一人の私の『大切な家族』『妹』の美鈴だった。
「どうしたのよ、美鈴。こんな朝早くから」
私が朝弱いのを知ってる美鈴は、こんな時間に普通は電話をしてこない。余程何かがあったのかしら?
『ねぇ!!凛音ちゃん!!お兄ちゃんを振ったって本当!!??』
「…………」
あまりの大声に私はスマホから耳を離した。
「……声がでかいわよ美鈴」
『……ごめん』
謝る美鈴に私は言う。
「だってアイツ私に向かって『恋人になってくれ』なんて言ってきたのよ」
『……え?ダメなの??』
はぁ……美鈴まで何を言っているのかしら。
私はため息を吐きながら言う。
「アイツは私にとって『大切な家族』よ今更『恋人』なんて格下げをされるなんて不愉快だわ」
私がそう言うと、美鈴は本当に大きなため息を吐いた。
『はあああああああぁぁぁぁぁ…………』
「な、何よそのでかいため息は……」
『そんなことだろうと思ったけど、本当にそうだとは思わなかったよ……』
そして、美鈴は私が信じられないようなことを言った。
『お兄ちゃんはもう家を出たよ。追いかけた方がいいんじゃない?』
「……え?」
ど、ど、ど、どういう事よ!!
小学一年生からずっと一緒に登校してきたじゃない!!
それをいきなり辞めるなんて聞いてないわよ!!
「なんでそんなことになってるのよ!!」
『えぇ……凛音ちゃんのせいでしょ』
「わ、私のせい……?」
理解出来ない。なんで私のせい?
『はぁ……わかんないなら仕方ないよね。両片思いも程々にしないとダメだよ?』
じゃあね、未来のお義姉さんだったかもしれない人。
美鈴はそう言って電話を切った。
美鈴が言ってる事の半分も理解出来なかったけど、霧都が私を置いて学校へ向かったのはわかったわ。
「ふざけんじゃないわよ!!絶対に許さないんだから!!」
私はカバンを掴んで朝食も食べずに家を出る。
「行ってきます!!」
そう言い残して私は玄関を出ると、その横に停めてある自転車に跨って学校へと向かった。
公立 海皇高校。
多少は偏差値が高めな高校だけど、自転車で行ける距離なので決めた学校。
霧都も頑張れば行ける。と思ったし、アイツと自転車通学をする事が楽しみだったのでここに決めた。
本当なら今日から楽しく話でもしながら登校する予定だったのに、何をアイツは血迷ったことをしてるのよ!!
自転車を飛ばすこと十五分。
大きな高校が見えてきた。
その間に霧都を見つけなかったので、アイツはもう学校に着いているってことだ。
許さない!!許さない!!許さない!!
私は自転車で駐輪場に向かうと、見慣れたアイツのママチャリがあった。
やっぱりもう学校に来ていたんだ!!
一言……いや、一言じゃ済まない!!沢山文句を言ってやる!!
私はアイツが向かったであろう、クラス分けの紙が貼ってある所へと走った。
そして、目的の場所へとたどり着くと、見慣れた後ろ姿が見える。
居た!!霧都だ!!
私がアイツに駆け寄ろうとすると、近くに一人女が居るのが見えた。
そして、その女はあろう事か、私の大切な家族に抱きついた。
その衝撃的な光景に、私は思わずカバンを落としてしまう。
「……え?」
そんなことを言って振り向く霧都の表情は、少しの嬉しさと気まずさが混ざったものだった。
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
まるで浮気の現場でも見られたような表情。
まさかアンタ……その女と会うために早く来たの!!??
「……桜井くん、その方は?」
霧都に抱きついていた女が私を見て聞いている。
そうよ!!その女に言ってやりなさい!!
私は霧都の『大切な家族』だって!
でも、霧都の口から出てきた言葉は、私が信じられないような言葉だった。
「……え、えーと。彼女は俺の『幼馴染』だよ」
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