第十四話 ~改めて凛音を『姉』と呼び、北島さんと登校しました~

 第十四話





「…………待ってたわよ」

「……え、凛音」

「り、凛音ちゃん!?」



 何で、朝が苦手で起きられないはずの凛音が、こんな時間に俺たちの家の前に、しかももう制服を着た状態で居るんだ!?


 俺と美鈴は予想もしていなかった状況に、言葉を失う。



「昨日のあのメッセージはどういうつもりよ?」

「昨日のメッセージ?」


 ……あぁ。もうお前とは登校しない。北島さんと登校する。


 そのメッセージか。


 俺は凛音の目を見てキチンと言う。


「どういうつもりも何も、あのメッセージの通りだよ」

「な、なんで一緒に登校しないって話になるのよ!!おかしいじゃない!!ずっと一緒に登校してきたのよ!!」


 ヒステリックに叫ぶ凛音を俺は冷めた目で見る。


「なぁ俺はお前の『弟』なんだろ?」

「……え?……そ、そうよ!!大切な家族で、弟よ!!昨日は『出来の悪い』なんて言って悪かったわね!!あなたはそこそこ優秀な弟よ!!」


 あはは……こいつは一体何を言ってるんだ……


 俺が泣いたのは、お前から『出来の悪い』と言われた部分じゃない。

 そんなことも……そんなことも……わかってなかったのかよ……


 何も俺の事をわかってくれてない凛音に、俺は告げる。


「もう高校生なんだから、そろそろ『弟離れ』しろよ。凛音『お姉ちゃん』」

「……っ!!」


 俺はそう言うと、凛音の横を通り、自転車へと向かう。


「ま、待ちなさいよ!!」

「ヤダよ。これ以上時間をかけると、北島さんを待たせちまうだろ」


 ガチャン


 と自転車のカギを外して、俺は自転車に跨る。


「じゃあ、行ってくるよ美鈴」

「うん。行ってらっしゃい!!」


 俺は美鈴を相手に朝の挨拶を済ませると、凛音との会話を打ち切って自転車を走らせた。





 昨日の夜は雨が降っていたが、朝には止んでいたようだ。

 道路には水溜まりがあるので、それに注意して駅へと走る。


 美鈴のお陰で良く眠れた俺の身体は、明らかに昨日より調子が良かった。


 十年間。片思いをしていた凛音に二回も振られた。


 でも、俺はもうそれを気にしないことにした。

 振り返ることはあるだろう。

 でも、もうこれは『過去』の事だ。

 しっかりと『今』を見て進んで行こう。


 俺は今日から北島永久さんと恋愛をする。


 その結末をハッピーエンドにするために、俺は頑張ろう。


 そう考えて、俺は駅へと自転車を走らせた。



 自転車を走らせること二十分。

 俺は最寄りの駅へと辿り着いた。


 時刻は七時五十分。駅の出口にはまだ北島さんの姿は見えなかったが、俺はその事に安心した。


 良かった。彼女を待たせるという事だけはしたくなかった。




 そして、少しすると階段の上から制服を着た美少女が歩いてきた。



「おはよう、北島さん」

「おはようございます、桜井くん。お待たせしてしまってすみません」


 俺は北島さんに朝の挨拶をすると、彼女は少しだけ申し訳無さそうに挨拶を返してくれた。


「あはは。気にしなくていいよ。ほとんど待ってないし。それに、君を待たせることだけはしたくなったんだ」


 と、俺は笑いながら言う。


「そ、そうですか。ではお言葉に甘えます」


 彼女は少しだけ顔を赤くしながら、通学用の自転車を預けている駐輪場へと向かった。


 ふぅ。やっぱり可愛いな、北島さん。


 こうして話しているだけでも緊張してしまう。


 正直なところ。凛音以外の女性とまともに話したことも無かったからな。


 そんなことを考えていると、


「お待たせしました。いつでも行けます」


 と北島さんが自転車を持ってやって来た。


「うん。じゃあ行こうか」


 俺はそう言うと、彼女と一緒に学校へと向かった。








 俺は車が居ないことを確認しながら、彼女と並走する。


「日曜日の事なんだけどさ、北島さん的にはどこかに行きたい。とかってあるかな?」


 と話しかけると、彼女は少しだけ思案して、


「わがままを言わせて貰えるのでしたら、桜井くんとお買い物がしたいです」

「買い物?」

「はい」


 なるほど。どんなものを買う予定なのかな?



「午前中はお買い物をして、午後は桜井くんの自宅にお邪魔させてもらおうかと思ってますので」

「何か買いたいものでもあるのかな?」


 俺のその問いかけに、北島さんはフワリと笑った。


「次のデートの為の服を桜井くんに選んでもらいたいな。と思ってます」


 え、なにこの女の子、可愛すぎじゃない!?


 あなたとまたデートがしたいです。


 としか思えない発言に、俺の顔が熱くなる。


「そ、そうなんだ。じゃあ責任重大だね」

「ふふふ。桜井くんの好みの服装でデートに行こうと思ってますので」


 そう言うと、北島さんは少しだけイタズラっぽく笑う。

 彼女は本当に、この表情がいちばん魅力的だと思う。


「私をあなたの色に染めてください。桜井くん」


 ……はぁ、この女の子は朝から俺の心臓を止めに来てるんじゃないか?


 そんなことを思いながら、俺は真っ赤に染っているであろう顔を彼女から見えないように、自転車を少しだけ後ろに下げて走ったのだった。

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