十年間片思いしていた幼馴染に告白したら「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」と振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
第十三話 ~彼女と過ごす一日目・彼女と後輩の前でカッコ悪いところは見せられないので、奮起しました~
第十三話 ~彼女と過ごす一日目・彼女と後輩の前でカッコ悪いところは見せられないので、奮起しました~
第十三話
「どうしてこうなった……」
俺は目の前に広がる光景に、呆然としていた。
『おい、桜井!!お前、俺と勝負しようぜ!!』
『お前の全力を俺に見せてみろ』
武藤先輩にそう言われたあと、話はとんとん拍子に進み、須藤監督はキャッチャーをするためにレガースなどをフル装備で装着。
大河さんは球審をやる為に、マスクなどを装着。
少年野球の選手たちは全員外野の守備に着く。
永久さんはバックネット裏で勝負の行く末を見守っている。
「さぁ来い!!桜井!!」
と、言って右のバッターボックスに立つのは、海皇高校野球部のエースで四番。ドラフト一位候補筆頭の武藤健先輩。
ワイシャツにスラックスだが、持っていたスパイク履き、マイヘルメット着け、マイバットを構えている。
午前中は部活をしていたので身体はかなり暖まっていると思われる。
俺も監督と投球練習をしたお陰でかなり肩は出来ている。
しかもユニフォームを着ているので、制服姿の武藤先輩と違い、パフォーマンスを阻害する要素は無い。
や、やるしかないのか……っ!!
胸を借りるつもりで投げよう!!
俺はそう考えると、しっかりとした目線を大河さんに向ける。
『プレイボール!!』
その声を聞き、俺は大きく振りかぶり、投球モーションに入る。
コントロールミスは許されない。
アウトコース低めにストレートを投げ込もう。
俺は『七割』の力でアウトコース低めギリギリにストレートを投げ込む。
よし、良いコースに投げられた!!
しかし、そのストレートを武藤先輩は、
「舐めんじゃねぇぞ!!桜井!!」
と左足を踏み込んで思い切りレフト方向へ引っ張った!!
アウトコースのストレートを引っ張る!?
ガイン!!!!
という音と共に、鋭い打球がレフト方向へ飛んでいき、
バン!!!!
と『ファールゾーン』のフェンスに直撃した。
アウトコースのストレートが引っ張られてファールゾーンのフェンスに直撃って……どんなパワーしてんだよ……
打球の行方に呆然としている俺に、バットを肩に担いだ武藤先輩が苛立ちを隠せないように言う。
「なんだよ今の腑抜けたストレートは!!あんなん何処に投げたってホームランに出来るぞ!!今のはわざとファールにしてやったんだ!!」
「…………す、すみません!!」
肩をすくめる俺に、武藤先輩はバットを突きつける。
「全力で来い!!桜井霧都!!須藤監督はお前の全力が取れないような選手じゃねぇぞ!!舐めんな!!」
「は、はい!!」
お、俺は何を勘違いしてたんだ!!胸を借りるって事は、全力を尽くすってことだろ!!
あんなぬるい球を投げるのは全力じゃない!!
誰に対しても失礼だ!!
「須藤監督!!お願いがあります!!」
ロージンバッグ(滑り止め)をください!!
「OK!!これを使え!!」
須藤監督は尻のポケットからロージンバッグを取り出して俺に渡す。
「ありがとうございます!!」
俺はそれを使い、左手にしっかりと白い粉をまぶす。
バシン
とロージンバッグを地面に落とすと、白い煙が足元に漂う。
「……カッコイイ」
その姿を見た永久さんがそんなことを呟いていたように見えた。
そうだよ、彼女にカッコ悪いところなんか見せたくない。
この強大過ぎる先輩を抑えて、惚れ直させてやる!!
俺は帽子をかぶり直し、大きく振りかぶる。
さぁ、行くぞ!!俺の全力投球だ!!
投球モーションに入ると、武藤先輩が笑った。
その笑みを……消してやる!!
全力で左腕を振り下ろし、先程と同じくアウトコースにストレートを叩き込む。
唸りを上げる白球が、18.44mを疾駆する。
ズバン!!
と言う音と共に、俺の投げ込んだストレートが須藤監督のミットに収まる。
『ストラーーイク!!』
「へぇ……140は軽く出てるな」
悠然と俺のストレートを見送り、ニヤリと笑った武藤先輩がこっちを見てくる。
『かなり速い。これで中学を卒業したばかりの高校一年生なのか?それに、腕の使い方が良い。ラプソードでデータを見てみたいな。回転軸も縦で、シュート回転はしていない。回転数も2500以上ありそうだな』
『高校生……いや、大学生でもここまで質の高いストレートはそう居ない。こんなのを見たのは健以来だな』
「これでもう野球は本気ではやりません。って言うんだからもったいねぇよな」
大河さんと須藤監督がそんな会話をしているのが聞こえた。
すみません。俺が今後本気で野球をやるとしたら『永久さんにカッコイイ所を魅せるため』だと思います。
「そうだよ、その球を投げて来い!!」
バットを構える先輩に、俺はもう一度アウトコースにストレートを投げ込む。
しかし、
「外だけじゃ抑えられねぇぞ!!」
ガイン!!!!
としっかりと踏み込んで、今度はライト方向へと打球を飛ばす。
バン!!!!
と、今度もファールゾーンのフェンスに直撃する。
「インコースに投げないと俺は抑えらんねぇぞ!!」
「……っ!!」
インコース……それは、俺の中学時代の『悪夢』を思い起こさせるゾーン……
投げ込めるのか、今の俺に。しかも、ゴムボールじゃない、硬球だ……
相手は球界の至宝になり得る人だぞ。そんな人にぶつけたりしたら……
「霧都くん!!頑張ってください!!」
「……永久さん」
バックネット裏から彼女の応援が耳に届く。
手を合わせ、しっかりとこちらを見ている。
俺の一挙手一投足を見逃さないようにするために。
そうだよ。これから先の投球は全て彼女に捧げると言った。
情けないボールを捧げるわけには行かないだろ!!
『桜井先輩!!頑張ってください!!』
『桜井先輩!!最高にカッコイイところを俺たちに見せてください!!』
『桜井先輩は俺たちの憧れなんです!!過去になんか負けないでください!!』
『桜井先輩!!』『桜井先輩!!』『桜井先輩!!』『桜井先輩!!』
「みんな……」
バックを守る後輩の小学生たちからのエールが俺に届く。
あはは……ここまで言われたら……投げるしか無いだろ!!
俺なら出来る。そう投げ込めるはずだ。インコースに。
それもコントロールミスの許されない、インハイに!!
俺はロージンをしっかりとつけ、投球モーションに入る。
投げ込むのはインハイのボールゾーン。
投げミスをすれば最悪のデッドボール。
それを恐れたらただの真ん中高めのホームランボール。
全力で腕を振りながら、しっかりとコントロールする。
今の俺なら投げ込めるはずだ!!勇気を持って行け!!
最高にカッコイイ姿を、永久さんに、俺の可愛い後輩たちに、見せつけてやれ!!!!
俺の投げた白球は、狙いと寸分違わずに武藤先輩の胸元を抉る。
ズバン!!
『ボール!!』
「やりゃあ出来んじゃねぇか」
武藤先輩は、目の前を通過するインハイのボールゾーンのストレートを瞬き一つせずに見送った。
全く動じた気配は無い。でも、今のストレートは目に焼き付いた筈だ。
ワンボールツーストライク。
勝負球を選ぶ時が来た。
ストレートをここまで続けてる。ラストは変化球が良いだろう。
カーブやスライダーは右バッターの武藤先輩には軌道が見えやすい球種だ。
だが、俺のチェンジアップはスクリュー気味にアウトコースに落ちて沈む軌道を描く。右打者が初見で打つのは難しい筈だ。
俺は須藤監督にチェンジアップのサインを送り、投球モーションに入る。
狙うはアウトコース低めからボールになるチェンジアップ。
インハイのストレートが目に焼き付いてるなら、手を出してくるはずだ。
俺は腕の振りで変化球だとわからないようにする為、しっかりと強く腕を振る。
アウトコース低めに投げ込まれたチェンジアップを武藤先輩は狙い済ましたタイミングで足を踏み込んでスイングに入る。
「変化球なのは読めてたぜ!!」
「……っ!!」
変化球だとは読まれていた。だが、そこから俺のチェンジアップは逃げて沈む!!
「……っ!!スクリューかよ!!」
チェンジアップの軌道がボールゾーンだと気が付いた武藤先輩は、空振りをしないようにスイングを途中で止めた!!
マジかよ!!あのタイミングで止められるのか!?
「ま、回って!!??」
『無いぞ。ツーボールツーストライクだ』
俺の発言に球審の大河さんは首を横に振ったあと、両手でピースサインをした。ツーボールツーストライクのサインだ。
ヤバい……どうしよう。あの球を見逃されたら投げる球が無い……
そう思っていた俺に、須藤監督がサインを飛ばしてきた。
『インコース低めストレート』
ニヤリと笑う須藤監督。そうだよ、このボールがまだあった。
俺はそのサインに首を縦に振った。
そして、『一塁側のプレートの一番端』から、大きく振りかぶり、投球モーションに入る。
アウトコース低めに逃げて落ちるスクリューと並び、左投手が対右打者に絶大な威力を持って投げ込むもう一つのウィニングショット。
『
速球派のサウスポーにのみ許された、見逃し三振を狙って投げる渾身のストレート。
俺は全力で腕を振り切る!!
そして、今日一番のスピードが乗った白球は、武藤先輩の膝元に構える須藤監督のミットへと一直線に飛び込んで行った。
ズバン!!!!!!
『ストラーーーイク!!!!!』
『バッターアウト!!』
右手を突き上げる大河さんの、スリーストライクコール。
「いよっしゃあ!!」
「ちょ、ちょっと大河さん!!今の入ってるんですか!?」
両手を突き上げる俺と、審判の大河さんに詰め寄る武藤先輩。
『いや、入ってるぞ。見事なクロスファイアだった』
「あぁ、取った瞬間にわかったが、あれはストライクだ」
須藤親子に言い切られ、武藤先輩は肩を落とした。
「くぅ……負けたかぁ……」
いや、武藤先輩……確かに抑えはしましたけど、打とうと思えばいつでも打てましたよね?
俺はやっぱりドラフト一位筆頭の候補はすごいなぁと思った。
「霧都くん!!とてもカッコ良かったです!!」
「あはは。武藤先輩にはかなり手を抜かれてたとは思うけどね……」
「それでも!!最後の一球は凄かったと思います!!」
目をキラキラと輝かせている永久さん。
あぁ、こんな彼女を見れるなら本気を出して、そして結果を残せて良かったと思った。
「全部君のお陰だよ。永久さんがあの日、俺を立ち直らせてくれなかったら、今の俺は無いからね」
「ふふふ。では、お互い様。という事にしましょう」
俺たちがそう言って笑っていると、
『桜井先輩マジカッコ良かったです!!』
『あのクロスファイアは痺れました!!』
『今度はいつ来てくれるんですか!?』
『後で俺の投球フォームも見てもらえませんか!?』
『桜井先輩!!』『桜井先輩!!』『桜井先輩!!』
と、後輩たちが俺の周りに集まってきていた。
「あはは。今日はもう帰らないとなんだ。でも近いうちにはまた来るよ。それに、みんなに感謝したい」
俺は可愛い後輩たちに頭を下げる。
「君たちの声援のお陰でもあるんだ。俺に過去を乗り越えさせてくれてありがとう」
『みんな、桜井先輩が大好きなんです!!お役に立てたのなら光栄です!!』
チームのキャプテンが代表して言うと、皆が俺に抱きついてきた。
「あはは!!みんな、野球は楽しいよな!!」
『『『はい!!楽しいです!!』』』
「俺も今日は本当に楽しかったよ!!!!」
あの夏の日を乗り越えて、俺は心の底からそう言えた。
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