エピローグ

 エピローグ




『以上が私と霧都の十年間の話しのほんの一部分よ。お昼の時間にこんな話をしてごめんなさいね。でも、もしもまだまだ私の話を聞きたいと言ってくれる人がいるのなら、私と彼の昔話をしようと思うわよ』


『なにせ、私と霧都は十年間も一緒に過ごしてきたんだから』


『では、失礼するわ』


 凛音の放送は、そう言って締めくくられた。


 食堂は異様な空気に包まれていた。

 凛音が投下した爆弾は、学園全体を揺るがしていた。


「ねぇ……桜井くん。君に聞いておきたいことがあるよ」

「何かな、桐崎さん」


 俺は内心の動揺を隠しながら、彼女に言葉を返す。


「今の放送で、君の心は揺れたかな?」


 強い目で俺を見つめてくる桐崎さん。

 俺はその視線から逃げることなく答える。


「いや、全く。俺の心は揺れてない。と言うか、凛音は今の放送で『俺の心』を揺らしには来てないと思うよ」


 俺がそう答えると、桐崎さんは大きくため息をついた。


「はぁ…………だよね。わかってる。南野さんは今の放送で、桜井くんが自分に振り向いてくれて、気にかけてくれる。なんてことを目的にしてない。彼女が作りたかったのは……」

「そうだね。この『空気』だよね」


 俺は周りを見渡した。


 そこには、俺に対して


『南野凛音さんに対して優しくしろよ?』

『北島永久さんばかり気をかけて、大切な幼馴染を蔑ろにするなよ?』

『やっぱり昔から桜井くんは優しい人だったんだね』

『南野さんって結構寂しがり屋なところがあるんだね。桜井が急に居なくなって寂しくなったんだね』

『俺、南野さんを応援するよ!!』


 なんて声が聞こえてきた。


「……はぁ。やってくれたな、凛音」


 これがあいつの本気。この学園に満ち溢れた『南野凛音を応援する空気』を利用して、俺と永久さんの仲を引き裂きに来たんだな。


 俺は頭を抱えたくなるような気持ちを我慢して、沈黙を貫いている永久さんに視線を向けた。


 そこには……


「永久……さん……」


 ニヤリと嗤う永久さんの姿があった。


 ふふふ……やりますね、南野さん。


 そうこなくては……面白くありません……


 小さく呟いた永久さんの言葉。


 それは俺が知ってる彼女の闇の部分。


「……南野さんの本気。彼女からの宣戦布告は受け取りました。この北島永久。逃げも隠れもせずに戦いますよ」

「あはは……そうか。この空気の中でその言葉を聞けたことが俺にはとても嬉しいよ」


「でも、どうするの?なにも手を打たないでいると、状況はどんどん悪くなると思うけど」

「えと、桐崎さんは霧都の味方なのかな?南野さんとも仲良さそうに見えてたけど」


 流の疑問は俺も持ったものでもあった。

 味方になってくれるのなら心強いけど。


 流れの言葉に桐崎さんは笑って答える。


「そうだね。凛音ちゃんとは仲良いつもりだよ。でもね、やり過ぎだなとは思ったんだ。それに、私は桜井くんが『付き合いたい』って思う女の子と付き合うべきだと思ってる」


「桐崎さん……」


「だから、私は君の味方だよ」


 彼女はそう言うと、ニコリと笑ってくれた。


「心強い味方が出来て私も嬉しいです。ですが、どうしましょうか?」


 永久さんの質問に、桐崎さんは少しだけ思案した後に答える。


「似たような状況を体験してる人に心当たりがあるんだよね」


「「「え!!??」」」


 桐崎さんのその言葉に、俺たち三人は驚きの声を上げた。


 こ、こんな状況を体験してる人って一体誰なんだ……


「あはは……私のおにぃなんだけどね……」


 苦笑いを浮かべながらそう言う桐崎さん。


 え、桐崎先輩が似たようなことを経験してるって……


 俺がそう思った時だった。


 俺のスマホがメッセージを受信した。と伝えて来た。


「……あ、あれ。メッセージが来た」

「あはは……多分それって……」


 桐崎さんが予想していた人物からのメッセージだった。


「き、桐崎先輩だ……」


 先輩からのメッセージを開くと、そこには


『今日の放課後。生徒会室にお前一人で来い』


 俺は反射的に丸テーブルの方を見た。


 そこには、いつもだったら嫌な予感しかしない桐崎先輩の、ニヤリと笑った姿があった。


『何かあったら修羅場の先輩として相談には乗ってやるよ。それだけは覚えていてくれ』


 その姿はいつにも増して頼りに見えた。




 十年間片思いしていた幼馴染に告白したら「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」と振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。



 第二章前編



 ~完~


 後編へ続く

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