最終話 ~永久と凛音の戦い・決戦の中間テスト~ その⑧

 最終話 その⑧




 凛音視点



 ピピピ……ピピピ……


 霧都たちと勉強をしていた時と同じ時間にアラームをかけていた私は、スマホの音で目を覚ましたわ。

 昨日はその時間よりも三十分ほど遅くにアラームをセットしていたわ。


 理由は登校時間ギリギリに教室にたどり着くため。

 教室の中に居る人達に私の体調不良を見せるためね。


 今日はお母さんに車で送って貰うから、昨日よりも早くにアラームをセットしたわ。


「さぁ……今日が勝負の一日よ。気合を入れなさい、南野凛音……」


 放課後にはこの部屋に霧都を呼ぶ予定よ。

 だけどそれ以前に、私が永久にテストで負けたら元も子も無いわ。


 最悪でも同点引き分けに持ち込まないと話にならないわ。

 永久の様子を見る限り、点数を落としたとは思えない。

 ふん……そうでなければ私の『敵』としては不適格よ。


 私が全力で倒すべき敵。

 大切な家族を奪った女。


「まぁ、一つだけ感謝するとしたら……私の本当の気持ちをわからせてくれたことね……」


 私はそう呟いた後にベッドを出たわ。


 洗面所で顔を洗ったあと、居間へと向かうと台所ではお母さんが朝ごはんの準備をしていたわ。

 そして、テーブルには既にお父さんが居て新聞を読んでいるわね。


「おはよう凛音」

「おはようお父さん。それにお母さん」

「おはよう凛音ちゃん。朝ごはんはもうすぐ出来るから待っててね」

「わかったわ」


 私はそう返事をした後に、お父さんの正面の椅子に座ったわ。


「今日がテストの二日目だったな。一日目は完璧だったと聞いている。その様子ならしっかりと睡眠も取れてるように見えて安心した」

「そうね。昨日は早めにご飯とお風呂を済ませたからゆっくりと寝ることが出来たわ」

「北島さんとの勝負。悔いを残さないようにしなさい」

「当然よ。絶対に勝って霧都を取り戻してやるわ」


 私がそう言うと、お父さんは少しだけ表情を曇らせたわ。

 そして私に言葉を続けたわね。


「あまり彼を困らせることはしないようにな。彼はとても優しい子だからな。それに甘え過ぎないようにしなさい」

「…………そうね。それだけは心に留めておくわ」


「お待たせ二人とも。朝ごはんの準備が出来たわよ」

「ありがとう、静流さん。今日もとても美味しそうな朝ごはんだね」

「そう言ってくれて嬉しいわ。こっちが凛音ちゃん用に『からし』を抜いてあるやつよ」

「ありがとうお母さん。助かるわ」


 朝ごはんとしてお母さんが持ってきてくれたのはサンドイッチ。

 お父さんはからしが入っているものが好きだけど、私は苦手だから抜いてもらっているわ。


 私たちは「いただきます」と声を揃えたあとにお母さんの作ってくれたサンドイッチを口にしたわ。


 シャキシャキのレタスにスライスしたトマト。

 シーチキンも入ってて私が好きな具材だわ。


「とても美味しいよ静流さん。いつもありがとう」

「ふふふ。どういたしまして」


 仲睦まじい二人の様子を見ながら私は思ったわ。

 そう。これが私が目指す家族の形よ。

 永久から霧都を取り戻して、この家族の形にしてやるんだから。


 私はサンドイッチを飲み込んで、冷えた牛乳を一口口に含んでそう決意を新たにしたわ。


「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」


 サンドイッチを食べ終わった私は手を合わせてお母さんにお礼を言ったわ。

 お父さんは既に食べ終わっていて、自室へ仕事の準備に向かったわ。


「それじゃあ私も自室で用意をしてくるわ」

「わかったわ。洗い物を済ませたら私も軽くお化粧をして凛音ちゃんを送る準備をするわね」


 お母さんはそう言うと、サンドイッチを乗せていたお皿を持って台所へと向かって行ったわ。


「それじゃあまた後でねお母さん」


 私はそう言い残して居間を後にしたわ。


 そして、自室へと戻る途中で着替えを済ませたお父さんとすれ違ったわ。


「行ってらっしゃいお父さん。お仕事頑張ってね」

「ありがとう凛音。それでは行ってくる」


 軽く会釈をしながらそう言うと、お父さんが私に言ったわ。


「凛音と静流さんがしようとしてることは決して褒められたことでは無いと思ってる」

「……え?」


 私が振り向きながらそう言葉を返すと、少しだけ困ったような表情をお父さんはしていたわ。


「それでも、私は凛音の父親だからね。君がしたいと思ってることを止めることはしない」

「……お父さん」

「悔いが残らないようにしなさい。と言ったのはその事でもある」


 お父さんはそう言ったあとで、私に言葉を続けたわ。


「君を幸せに出来るのは霧都君だけだと思ってる。それは残念ながら私や静流さんでは出来ないことだからだ」

「そ、そんなことは……」

「君の心を救ったのは彼だからね。だからこそ私は言うよ」


 真剣な目で私の目を見ながらお父さんは言ったわ。


「絶対に彼をモノにしなさい。そのためなら私はすべてに目を瞑る」


 少しだけ声のトーンを落としたお父さん。

 凄みのようなものを感じたわ。


「それだけだ。それでは『二日目のテストも含めて』頑張りなさい」

「はい。ありがとうお父さん」


 私のその声を聞いて、お父さんはその場を後にしたわ。


「ありがとうお父さん。目を瞑ってくれて……」


 真面目で厳格な性格のお父さん。

 私とお母さんがやろうとしてることを聞いたら、絶対に認めてくれはしない。そう思っていた。


 でも、目を瞑ってくれると言ってくれた。


 本当の意味で血の繋がった家族から嫌われることが無くなった。たった一人の肉親から了承を得られた。


 これで私の憂いは無くなったわ。


「それじゃあ私も学校に向かう準備をしないとね」


 私は小さくそう呟いたあと、自室で登校に向けた準備を進めたわ。



 そして、登校の準備を終えて居間へと戻ると既にお化粧と身支度を整えたお母さんが私を待っていたわ。


「ごめんね、お母さん。待たせたかしら」

「大丈夫よ凛音ちゃん。それじゃあ行こうかしら」


 私はお母さんと一緒に家を後にして、自家用車が停めてある車庫に向かったわ。


 白い乗用車。クラウンと呼ばれてる車ね。

 お父さんは電車で職場へ行くし、お母さんも自転車で買い物に行くからあまり使うことがない車ね。


 一応。お父さんもお母さんも免許は持ってて、ゴールド免許だから心配はしてないわ。


 車の助手席に乗り込んだ私はきちんとシートベルトをしてお母さんを待ったわ。


 程なくして運転席にやってきたお母さんも、きちんとシートベルトをしてエンジンをかける。

 そして、左右を確認したあとお母さんは車を発進させたわ。



「ねぇ、お母さん。少し話をしても良いかしら?」


 運転中に話しかけるのはあまり褒められた行為では無いけど、私はお母さんにそう尋ねたわ。


「えぇ、構わないわよ。どうしたのかしら、凛音ちゃん」


 お母さんからの了承が得られた私は、先程のことを聞いてみたわ。


「私とお母さんの策の話。お父さんにもしてたのね」

「そうよ。じゃなきゃ仲間はずれになってしまうもの。それに、お父さんから了承が得られなければ実行するつもりもなかったわ」

「そうだったのね……」


『仮病』を使って霧都を自宅に誘き寄せる。

 その後のことも含めてお父さんには話してあるようね。

 そして、お父さんからは黙認が得られている。


「だから安心していいわよ」

「うん。わかったわ」


 そして、少しすると学校の門が見えて来たわ。

 やっぱり車だとはやいわね。自転車とは段違いだわ。


「それじゃあ凛音ちゃん。頑張ってね。試験が終わる頃にまた来るわ」

「うん。ありがとうお母さん」


 私はそう言ったあと、校門の前に停めてくれたお母さんの車から降りたわ。


 周りにはあまり人は居ないけど、昨日の藤崎先輩の件もある。

 誰かに見られてることも考慮して、ここから体調が悪いような素振りを始めたわ。


「……行ってきます」

「行ってらっしゃい、凛音ちゃん」


 私はそう言って助手席の扉を閉めたわ。

 そして程なくしてお母さんは自宅へと車を発進されたわ。


「おはよう、凛音ちゃん。やっぱり体調悪そうだね……今日は送ってもらったんだね」


 そう言って私に心配そうに声をかけてくれたのは、同じバスケ部の佐竹さんだったわ。

 やっぱり正解だったわね、体調が悪そうな素振りをしていたのは。


「そうね。かなり辛いけど仕方ないわ。テストを受けない訳には行かないもの」

「北島さんと点数勝負をしてるんだよね?教室まで肩かそうか?」

「心配には及ばないわ。それに佐竹さんに移したら悪いもの」


 本当は熱なんか無いってことを知られたくないので、私は彼女の提案を断ることにしたわ。


「そっか……凛音ちゃんて意外と優しいところがあるからね」

「……意外とってなによ……意外とって」

「あはは。冗談だよ。それじゃあ私は行くね。本当に辛かったらいつでも言ってね」


 佐竹さんは笑顔でそう言い残すと、私の元を後にしたわ。


「さぁ……頑張るのよ南野凛音。ここからが本番なんだから」


 私は小さくそう呟いて図書室の方を見たわ。

 あそこでは霧都たちもう既に勉強をしている頃ね。

 私はその時間を使って、教室で体調が悪いアピールをしていくわよ。


 テストが終わったあと霧都が私のお見舞いに来るのが当然と思えるような空気を作っていくわ。


 私はそう心に決めて自分の教室へと向かったわ。

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