第十九話 ~LHRの時間・学級委員に立候補した桐崎さんが指名した人は意外な人でした~

 第十九話




 桐崎先輩に説得され、生徒会入りを決断した昼休み。

 その後に控える五時間目は体育の時間だった。


 授業の内容はソフトボールだった。


 元野球部として、ある程度くらいは活躍したいなぁ……


 なんて思っていたが、授業の後半に事情が変わった。


 女子はグランドの端でバレーボールをしていたが、少し早く終わったらしく、ソフトボールの試合をしている男子の様子を見に来ていた。


 当然。やる気に満ち溢れるのが男の子って奴だ。

 そんな男の子の性は俺にも当然ある。

 しかも、おあつらえ向きに逆転をかけた場面でのバッターが俺だ。


『桜井くーん。頑張ってくださーい!!』


 と、北島さんの応援が聞こえてきた。


『桜井くん!!ここで打ったらヒーローだね!!頑張って!!』


 と、桐崎さんの声も聞こえてきた。


『霧都!!打たなかったら承知しないわよ!!』


 と、凛音の声も聞こえてきた。


 随分と元気になったな、お前。


「……おい、桜井」

「…………いや、その」


 明らかに嫉妬に燃えている相手投手の鷲宮わしみやくん。


「なんで入学して二日目で次期学園の三大美少女と言われてる女の子から応援されてるんだよ!!」

「……た、たまたまだよ」


 苦笑いを浮かべる俺に、鷲宮くんがボールを突き付ける。


「俺は元野球部だ。大人気ないと思ったから本気は出してなかった……だが、事情が変わった」


 俺は今から全力で投げる!!


 と高らかに言い放つ鷲宮くん。


「そうか。なら俺も本気を出すか……」

「な、なに!?」


 コンコン。とバットで軽く地面を叩き、神主のようにバットを構え、全身をリラックスさせる。往年の強打者、ミスター三冠王落合博満、ミスターフルスイング小笠原道大の代名詞。神主打法と呼ばれる俺が本気を出す時の構えだ。


 長打力の向上と引き換えに、タイミングが取りにくさとバットコントロールのしにくさが上げられるが、毎日千を超える素振りの末に体得した俺の切り札だ。


 こんな体育の、ソフトボールの試合で本気?

 馬鹿野郎!!北島さんにかっこ悪いところを見せられるか!!


 一発ホームランでも放って惚れ直させてやる!!


「自己紹介でも話したが、俺も元野球部だ。大人気ないから本気を出して無かったが、鷲宮の本気に俺も応えよう!!」

「面白い!!桜井!!勝負だ!!」


 男と男の意地とプライドを掛けた真剣勝負!!

 鷲宮はウィンドミルを解禁してボールを投げ込む。


 ビュン!!という唸り声を上げてボールが迫ってくる。


 ソフトボールの体感速度は130kmから140kmとも言われている。

 だが、勝利の女神の北島さんと二人の美少女からの声援と言う『バフ』を受けた俺の前には止まって見えるぜ!!


 グリップエンドに小指を引っ掛け、目一杯まで長く持ったバットを下半身の回転で鋭く振り抜く!!


 カーーーーン!!!!


 という澄んだ音と共に、白球が勢いよく空へと舞い上がった。


 下を向く鷲宮くん。

 ホームランを確信した俺は左手を突き上げる。


 北島さんの歓声が俺の耳に届いた。


 そして、全力と全力をぶつけた結果。俺の打球はグングン伸びていき……


 パリーン!!!!


「「……あ」」


『生徒会室』の窓ガラスを割った。



 場外ホームラン!!


 なんて喜んでいいようなシチュエーションじゃない!!


「全力で打ちすぎだぞ桜井!!」

「お、俺のせいかよ!!??」

「当たり前だろ!!他に誰が居るんだよ!!」


 あ、後で桐崎先輩に謝りに行こう……


 まさか、生徒会に入って俺の初めての仕事が『謝罪』になるとは本当に予想もしてなかったよ……



 とりあえず、五時間の休み時間。『三年一組』に在籍している桐崎先輩の元へと向かい、体育の時間でソフトボールで生徒会室の窓を割ってしまったことを謝罪した。


 桐崎先輩はしこたま笑ったあとに、


『桜井くん。やはり野球部に入らないか?生徒会と兼任でも構わないぞ?』


 と、言われたので


『な、名前だけ在籍するなら……』


 流石に罪悪感が酷すぎるので幽霊部員で良ければと話をしたのだった。





 そして、六時間目のLHRの時間がやってきた。



「ナイスバッティングでしたね、桜井くん。カッコよかったですよ」


 と、北島さんがイタズラっぽく笑いながら言ってきた。

 きっと窓ガラスを割ったことを込みで言ってるな……


「あはは……流石に窓ガラスを割ったらダメでしょ……」


 そんな話しをしていると、根岸先生の説明が始まった。


「では、朝のSHRでも話したように、この時間では学級委員を含めた各委員を選出する。まずは学級委員を決め、その後は学級委員が主体となって各委員を決める。その流れだ。なにか質問はあるか?」


 俺は手を挙げる。


「桜井。何かあるか?」


 と言われたので、俺は立ち上がって返答をする。


「はい。自分は生徒会に入会する予定です。その場合は委員をする余裕が無いと思うので、所属を免除してもらうことは可能でしょうか?」


 その質問に根岸先生は首を縦に振る。


「そういう理由なら構わない。他には?」


 特に質問は出なかった。


「よし。では学級委員から決めることにする。まずは立候補をしてもらう。そして、立候補がない場合は推薦となる。学級委員に立候補する者は居るか?」


 根岸先生の言葉の後、当然のように桐崎さんが手を挙げた。


「はい!!私やります!!あと、私は生徒会にも入る予定ですが、両方兼任で頑張ります!!」


 と、元気良く桐崎さんが返事をした。


「桐崎。君の兄も同じように学級委員と生徒会を兼任しているが、平気か?」


 根岸先生が少しだけ心配そうに聞くが、彼女は元気良く首を縦に振った。


「はい!!平気です。代わりに部活には入らないので」

「なるほど、なら平気そうだな。それでは、男子で立候補は居るか?」


 あれだけ可愛い桐崎さんと、一緒に委員をやりたい男の子はたくさんいるだろう。なんて思って教室を見てみると。


 シーン


 と誰も手を上げていなかった。


 あれ……誰もやらないのか?


「ねぇ、なんで誰も手を挙げないんだろ?」


 と、俺は隣の北島さんに聞く。


「わ、わかりません。争奪戦になると思ってましたが……」


 俺と同じようなことを思っていた北島さん。チラリと桐崎さんを見てみた。すると、この状況に、彼女だけは嬉しそうに笑っていた。


 何か目論見があるのかな?


 そんなことを思っていると、桐崎さんが立ち上がって根岸先生に言った。


「はい。先生!!私から男子の学級委員を推薦しても良いですか?」


 その言葉に、クラスの男子が身体を『一人』を除いて震わせた。その一人は……


「このままだと決まらないからな。良いぞ桐崎。桜井以外の誰か一名を推薦しなさい」


 その言葉に、桐崎さんは元気良く一人のクラスメイトの名前を言った。




「男子の学級委員には『星流ほしながれ』くんを指名します!!」

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