第二十三話 ~彼女と過ごす二日目・意外な場所で意外な人の名前を目撃しました~

 第二十三話





『映画館』




 イートインコーナーを後にした俺と永久さんは、雄平さんから貰った映画のチケットを持って映画館へと向かう。


 ヒーローを目指す少年を主人公にした、少年漫画雑誌の人気連載漫画の映画になる。


 正直な話。主人公よりも、ライバルの男の子のお父さんの方が俺は好きだった。

 エン〇ヴァーさんマジかっこいい。


 そんな事を思いながら映画館で上映時間を確認すると、


「なるほど、今から一時間くらい時間があるね」

「そうですね。少しタイミングが悪かったですね」


 ちょうど先程始まってしまったようだった。


 だが、次の上映のタイミングで映画を楽しめば、帰る時間としてはちょうど良いと思った。


「映画の時間まで、ゲームセンターとかで遊んで時間を潰そうと思うんだけど、どうかな?」

「はい。賛成です」


 俺の案に、永久さんが賛成を示してくれた。


「ここのゲームセンターはかなり大きいから、一時間くらいなら楽しんで過ごせると思うからね」

「ふふふ。またかっこいい霧都くんを見せて貰えるんですか?」


 なるほど。確かあそこのゲームセンターにはストラックアウトがあったと思うな。

 そこそこ良いスコアが残せると思うんだよな。


「そうだね。ストラックアウトって言う的当てがあるんだけど、それをやってみようかな」

「あ!!それは知ってます!!九枚の的を射抜くやつですよね!!二枚抜き。とかを見た事があります」

「そうそう。プロが良くやってるよね。ここのゲームセンターは18.44……あぁ本格的な距離じゃなくて15mくらいだから結構抜きやすいんだよね」

「それでもすごいと思います。期待して見てますね」

「あはは。良いスコアが出せるように頑張るよ」



 そんな会話をしながら、俺と永久さんはゲームセンターへと向かった。




『ゲームセンター』




「すごい大きいですね……」

「だよね。ショッピングモールの中にこれだけの規模のゲームセンターを作るとか、かなり本気だよね」


 俺と永久さんはゲームセンターの入り口に立って、その規模に唖然としていた。


「さて、じゃあ中に入ろうか」

「はい。今から楽しみです!!」


 中に進むとやはり騒音がかなり気になった。


「やっぱりこれはうるさいよね」

「ですが、このうるささがゲームセンターなのですよね」


 そんな話をしていると、少しだけ喧騒を外れた場所に、バッティングセンターとストラックアウトの場所にたどり着く。


「ここだよ。少しはうるささがマシになったよね」

「ふふふ。そうですね」


 そして、俺は着ていたジャケットを脱いで、ストレッチを始める。


 いきなり投げると肩を壊すからな。

 もしかしたら、武藤先輩に頼まれて野球部のバッティングピッチャー位はやるかもしれないしな。

 左投手の需要は高いと思うし。


「あの距離の的を当てるんですか?」


 永久さんはそう言って、ストラックアウトの場所で的を指さした。


「そうだね。だいたい少年野球の距離感だよね」


 俺がそう言うと、永久さんは驚いたようで


「霧都くん的には近いとは言っても、私から見たら遠いですよね。昨日も思いましたが、あの距離で狙ったところに投げる霧都くんは本当にすごいです」

「あはは。練習をしてたからね。フォームを固めることとか、下半身を鍛えることとか、コントロールを磨くことは中学の頃から出来たからね」


 変化球やスピードを上げたボールのコントロールは須藤さんを相手にしてた時に練習をしていた。


 元キャッチャーだけあって、変化球の教え方は上手だった。


「よし。じゃあこれを持っててもらって良いかな?」

「はい。お預かりします」


 ストレッチを終えた俺は、椅子に置いていたジャケットを永久さんに渡す。


「よーし。かっこいいところを見せてやろうかな」


 そう呟きながら、ストラックアウトのマシンに100円玉を二枚入れる。


 1回200円。20球を投げられる。


 俺は肩を回しながら、球が飛び出してくるのを待つ。


 ピョンと球が一個目の前に出てくるので、それを掴んで軽く投げる。


 狙いは真ん中。だいたいそこからどっかに散らばってくれる。


 ツルツルの軟球のため、少しだけ指から滑ったボールは7番の的にあたる。


「すごいです!!いきなり当たりました!!」

「あはは。狙いとは違うけどね」


 そんなことを話しながら10球ほど投げる。

 偶然の産物だけど、二枚抜きを披露した時には、永久さんは手を叩いて喜んでくれた。

 半分を終えた時には残った的は5番と9番。


 ド真ん中って意外とすんなり行かないんだよな。


 俺は9番を狙って少しスライダー気味に回転をかける。

 狙った通りに的を射抜き、残りは5番になる。


「よし。ラスト一枚!!」

「あと九球あります!!落ち着いて行きましょう!!」


 このストラックアウトにはもう一つだけ機能が付いていて、何km出ているかがわかる仕様になっている。


 どこまで整合性があるかは分からないが、何枚抜いたかのランキングの隣には、何km出たかのランキングもある。


 だいたい90kmくらいの球速で抜いていたが、ラスト一枚だし、最速を狙っても良いかな?


 どうせ120kmそこそこだろ?


 なんて思いながら球速ランキングを見ると、


「……はぁ!!??」


 一位 148km Name KEN


 そんな馬鹿な!?


 こんなゲームセンターのツルツルの軟球で148km!!??


 てか名前からして武藤先輩だろ!!


「……永久さん。ちょっと今から全力で投げるから」

「ふふふ。はい。楽しみにしてます」


 148kmは無理にしても、2位の125kmは上回りたいな。


 俺はそう思いながら、飛び出して来た軟球を掴んで大きく振りかぶる。


「肩を壊さない程度に加減はしながら、全力で!!」


 ビュン!!と投げ込んだ俺のストレートは5番の的を射抜いた。


『パーフェクト!!』


 とファンファーレが鳴り響く中、俺は球速表示を見る。


『135km』


「……まぁ、こんなもんだよな」


 堂々の二位にランクインしたけど、改めて武藤先輩の凄さがわかったストラックアウトだった。


 ちなみにNameは当然『✝︎KIRITO✝︎』としておいた。



「霧都くんのかっこいいところが見れて私は満足です!!」

「あはは。とりあえずパーフェクトは取れて良かったよ」


 俺は店員さんからパーフェクトの景品として、ボールのぬいぐるみを貰っていた。


 俺が持ってても仕方ないので、永久さんに上げると、

『ありがとうございます!!この間取って貰ったレ〇ちゃんのぬいぐるみの隣に置きます!!』

 と喜んでいた。


 鉄球ならわかるけど、野球ボールはどうなのだろうか……


 少し歩くと『エアホッケー』のマシンが目に付いた。


 遊びで勝負をするなら最適のやつだ。


「永久さん。あれをやろうか」

「はい!!私はエアホッケー大好きです!!」


 筐体に100円玉を一枚入れて、俺と永久さんは両脇に別れる。


「ふふふ。負けませんよ!!」

「実は俺はこれ、かなり得意なんだよね。動体視力には自信があるからね」


 俺はそう言うと、出てきたパックをプッシャーで弾く。


 壁を使ってバウンドしたパックを永久は手にしたプッシャーで弾き返す。


「てい!!」


 たゆん!!


「…………」


 ガチャン!!!!


「……あ」


 永久さんの弾いたパックは、一直線に俺のゴールへと叩き込まれた。


 ゆ、揺れるおっぱいに目を奪われてたら失点してた!!


 俺は慌てて周りを見る。


 だ、誰も居ないよな!?こんな永久さん。俺以外に見せる訳には行かないぞ!!


 幸い。周りには女性が少し居るだけで、男性の姿は無かった。


 な、なら良いか……


「ふふふ。どうしましたか、霧都くん?」


 彼女にしては珍しいドヤ顔で俺に聞いてきた。


「ま、まだまだここからだよ!!」


 俺はパックを手にして、もう一度弾いてスタートした。


「てい!!」


 ふよん。


「っ!!」


 パキン


「やぁ!!」


 たゆん。


「くぅ!!」


 バキン


「えーい!!」


 永久さんの揺れるおっぱいに翻弄されながらも、俺は何とかラリーを続ける。

 凛音と勝負してる時はこんなこと無かったぞ!!


 そう、アイツと勝負してる時の注意点は……


 パキン


 と弾いた俺のパックは少しだけ当たりが悪く、緩く永久さんの陣地に向かった。


「チャンスです!!」


 永久さんはそう言うと、身を乗り出してパックをプッシャーで弾こうとする。


 必然的に見えるのは肩口から覗く彼女の……


「……っ!!??」


 凛音の時もそうだけど、勝負に夢中になると、女の子は胸元が無防備になるよね!!


 ガチャン!!!!


 薄いグリーンに目を奪われてる隙に、またもや失点をした……


「やりました!!!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねる永久さん。

 その時ですら……揺れている。

 彼女のそれから目が離せない……



「これは勝てないよ……」


 男の煩悩を抱えたままではまるで勝負にならず、エアホッケーは俺の大敗で幕を閉じた。



 そして、一時間程の時間を過ごした俺たちは、映画館へと足を運んだ。

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